認知症でも笑顔で通える環境づくりを~アットホームな透析室を目指して~

*写真は、ご本人及び家族の了承を得て掲載しております。

「ちょっと、お水飲みたい。」
咳払いをしていたと思ったら突然ムクッと起き上がって手招きしている。11時頃のいつもの光景です。Hさんは90歳で認知症、一人暮らしをしている透析の通院患者様です。私たちスタッフの間では、「ゆりちゃん」と呼んでいます。

2017年の透析患者数は33万4500人。透析平均年齢は68.75歳。最も高い年齢層は70~74歳となっています。そして透析患者中、認知症は全体では10.8%、75歳以上では22.7%。
当施設でも、認知症で75歳以上は約70人中12人を占めています。

認知症の患者様の透析中の注意点は、ズバリ自己抜針です。透析中、針が入っているので急な体動は危険なのですが、理解できないのです。“腕に何かついている”とチューブを抜いてしまったり、自由に腕を動かして、針とチューブの接続部が緩んで出血していたり、危険なことを少しは分かっているのに、わざと抜いてしまう等の危険が予想されます。私たち透析スタッフは自己抜針がないように、シーネ固定したり、出来るだけ目を離さないように対応したり、患者様の気持ちが落ち着くように訴えを満たしたりと、対応を考えます。

さて、ゆりちゃんですが、咳払いが始まると、その後には必ず「お水が飲みたい」と言い始めます。お水を用意するとゴクゴクと飲み干します。「おいしかった?」と聞くと「おいしかったわ。」と。しかし、5分もしないうちに、「お水飲みたいねん。」と。「お水は、さっきも飲んだでしょ。」と説明すると、「ん?何言ってるか聞こえへんねん。」と、やりとりが始まります。私たちはこの患者様の対応に困っていました。

しかし、ある時、1人のスタッフが塗り絵を用意し色鉛筆を渡してみると、丁寧に塗り始め時間を忘れ集中し始めました。それからは、透析中に活動が始まると、座位にして塗り絵を用意すると熱中して塗り絵をするようになりました。色を選び、色鉛筆を少し斜めにしてムラなく楽しそうに色を塗っていきます。透析後に、車いすに座って帰宅の車を待っている間も塗り絵をしたり、ある時は、手術説明用の本を開いて熱心に見ていたりと穏やかに過ごす事が増えました。「きれいに塗っているね。」と言うと、にっこり笑顔で「ありがと」と。こちらが微笑ましく感じます。

以前、ゆりちゃんは1人息子様と2人暮らしでしたが、同居していると、会話が通じず、ケンカが絶えず、眉間にしわを寄せている事が多かったのですが、今は別々に住んでいて、息子様とも落ち着いて会話が出来ています。

このような認知症の透析患者が多い施設ですが、その人らしく透析時間が過ごせるように、アットホームな対応を心掛けていきたいです。