若手薬剤師のための新薬情報(アトピー性皮膚炎治療薬として初の生物学的製剤が登場!!)

アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis; AD)は患者数の多い疾患であり、日本では30歳以下の約1割が罹患していると言われています。
厚労省の報告によると推計患者数は45万6000人にのぼり、年々増加傾向にあります。
私自身も子供の頃にADの症状があり、卵、小麦、牛乳などの摂取で強い痒みが生じ、夜中に何度も目を覚ましていました。
はじめはステロイド外用剤を用いて治療していましたが、症状がよくなっては悪くなるの繰り返しでした。
そこで食事制限療法を行い、徐々に症状は改善していきました。
しかし食事に制限のある生活は、保育園や幼稚園の給食さえも友達と同じように食べることができず、幼い私にとってはとても辛い経験でした。
私は、幸い食事制限により症状は改善しましたが、治療抵抗性のAD患者は全体の3割程度存在するといわれています。

ADの病態 ~病変のない皮膚でも炎症が起こっています~

アトピー性皮膚炎の原因はまだ明らかではありませんが、皮膚のバリア機能が低下する体質や、アレルギーを起こしやすいアトピー素因が原因のひとつとして考えられています。
最近の研究では、病変のない皮膚も正常な皮膚ではないということが明らかになり、全身の慢性炎症疾患と考えられるようになりました。
皮膚の慢性的な炎症は、活性化された免疫細胞と表皮細胞で形成され、掻痒を伴う病変を引き起こすことが分かってきました。
この炎症の持続には、根底にある炎症の形成に関わるTh2サイトカインIL-4、IL-13が重要な役割を果たしていることがわかっています。
これらはIL-5、IL-31、IgEなどを含む下流のメディエーターの産生を調節しています。

これまでの治療 ~どっちが良いの? リアクティブ療法 vs プロアクティブ療法~

ADの治療はステロイド外用剤やタクロリムス外用剤(プロトピック軟膏)、保湿外用剤による外用療法と、シクロスポリン(ネオーラル)や、経口ステロイド薬などを使用した全身療法がおこなわれてきました。
これまでの治療法は対症療法的(リアクティブ)かつ一時的なアプローチであったため、持続する潜在的な炎症が十分にコントロールされていない状態でした。
ADは持続する掻痒と病変を伴う再燃のサイクルを繰り返します。
できるだけ増悪の回数を減らし、重症度を下げ、増悪の間隔を延ばすためには皮膚症状が改善した後も計画的に薬剤を使用し、見えない炎症をコントロールする”プロアクティブ療法”を行っていく必要があります。

新しい作用機序の薬『デュピクセント』 ~初の生物学的製剤が登場!!~

最近、既存治療で効果不十分なADに対して画期的な新薬が承認されました。
デュピクセント(デュピルマブ)はAD治療薬としては初めての生物学的製剤で、疾患の病態に深く関与するTh2型炎症反応を抑える、ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体です。
Th2から産生されるIL-4やIL-13は皮膚の炎症を起こします。
デュピクセントはこれらの働きを阻害し、掻痒、皮疹などの症状を改善します。
臨床試験でも、ステロイド外用剤で効果不十分な中等度以上のADの症状を改善したことが示されています。
アメリカでは新薬の承認には通常1年前後かかるといわれていますが、デュピクセントは半年で承認された期待の大きい新薬なのです。
投与方法は、初回のみ2本を皮下注射します。
そのあとは2週間毎に1本を皮下注射します。
主な副作用は注射部位反応、頭痛、ヘルペス感染、結膜炎などです。

最後に

最近は、様々な疾患に対して生物学的製剤が開発されています。
薬学部の学生時代には想像もできなかった治療薬が次々とあらわれ、医療が進歩していることを実感しています。
中でも今回取り上げたデュピクセントは様々な炎症性疾患にも効果が期待されます。
コントロール不良の気管支喘息に対しても適応追加申請が行われているようです。
当院でも今月デュピクセントの勉強会を行う予定です。
1人でも多くの患者さんがよりよい生活を送れるよう、薬剤師として役に立てたらと思います。