「せん妄」の薬物治療の前に、原因となりうる薬剤を要チェック!~ポリファーマシーを考える ver.2~

薬剤科

皆様、新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
さて、2020年4月に掲載した「多すぎる薬は体に毒! ポリファーマシー問題を考える ~高齢者における適切な薬物治療のために~」では、薬の有害事象や服薬過誤、服薬遵守の低下など、「患者に害をなす多剤服用」の状態にある場合を指していることを記載させて頂きましたが、今回はその続編で、テーマは「せん妄」です。せん妄は服用している薬剤が原因で起こる場合があります。そこで、ポリファーマシー対策として薬剤師がどのように介入していくのか、その役割を記載していきたいと思います。

■せん妄とは

せん妄とは、身体疾患や薬剤、手術等が原因となり、急激に生じる注意障害を中心とする精神神経症状を出す病態全体を示します。急激に発症する点や、症状に日内変動が見られる点が認知症との違いです。特に夕方から夜間にかけて増悪することなどが特徴でもあります(表1)。

また、せん妄は、興奮・幻覚・妄想といった症状を特徴とする「過活動型せん妄」と、無表情、傾眠、食事摂取量低下など活動性の低下を特徴とする「低活動型せん妄」、両者が混在する「混合型せん妄」に分けられます。過活動型せん妄は症状が目立つため気づきやすいですが、頻度としては低活動型せん妄の方が多い事が報告されており、見逃さないように注意が必要です。

表1 せん妄の診断基準(DSM-5より改編)

*「過活動型せん妄」、「低活動型せん妄」、「混合型せん妄」のいずれかに分類する

■なぜ、せん妄対策が重要なのか? 〜せん妄は死亡率、施設入所率、認知症のリスクを上昇させる〜

当院でも入院患者の高齢化が進み、「せん妄」の発症数は増加の一途をたどっています。せん妄は、患者や家族、そして医療従事者に多くのデメリットをもたらします。Graham DJらのメタアナリシスの報告では、せん妄により死亡率、施設入所率、認知症のリスクが上昇することが報告されています。

また、家族の精神的苦痛につながるだけでなく、入院の長期化などによって、医療コストの増大を招くことになり、適切な対策を講じる事が急務となっています。

■せん妄の3因子とアプローチ 〜準備因子・直接因子・促進因子〜

せん妄は、様々な要因が複雑に絡み合って発症します。せん妄の原因は以下の3つに分類されます。これらの因子について十分理解しておくことが重要です(表2)。

表2 せん妄の3因子

せん妄改善のために必要な事は、直接因子と促進因子の除去です。なかでも、直接因子を取り除くことが最も重要であり、せん妄治療の中心は身体疾患や薬剤といった直接因子に対するアプローチにほかなりません。身体疾患の治療は主治医の役割ですが、もし薬剤が直接因子となっている場合は、薬剤師が大きな役割を担う事になります。

次に並行して可能な限り促進因子を取り除くようにします。これについては、患者の身体的・精神的苦痛を和らげるという非薬物療法的なアプローチになるため、病棟看護師や家族などがキーパーソンとなります。
準備因子については、高齢や認知症など患者固有の要因であるため、取り除くことはできません。但し、準備因子はせん妄リスクを評価するうえで必須の概念であり、せん妄対策の第一歩は準備因子のスクリーニングから始まると言えます。

■薬剤性せん妄の予防 ~原因を考えよう!~

当院では患者が入院した際、病棟看護師が「せん妄アセスメントシート」を用いてせん妄のリスク評価を行っています。
せん妄の発症を防ぐためには、薬物治療を考える前に原因を考えることがポイントです。まずはせん妄のハイリスク薬の使用を回避するとともに、内服薬の原因薬剤の減量・中止を検討する必要があります(表3)。

表3 せん妄の原因となる薬剤(直接因子)

これらの薬剤のうち、ベンゾジアゼピン系受容体作動薬、麻薬、抗コリン薬は特に重要です。但し、不眠自体がせん妄の誘発因子であり、ベンゾジアゼピン系薬の急な中止は、不眠からせん妄を助長する恐れがあるため注意が必要です。

■薬剤性せん妄が起こる原因は?

せん妄の発症には、脳内の神経伝達物質であるアセチルコリン、セロトニン、GABA(γアミノ酪酸)などの不均衡が関与していると言われています。特に薬剤性せん妄の原因は、アセチルコリン作動性神経の活動の低下とドパミン作動性神経の亢進です。抗コリン薬を服用している患者は、脳内のアセチルコリンの合成が阻害されます。そうすると、抑制系のGABAの活性が低下します。

しかし、興奮性のドパミンの量は不変なため、相対的にドパミンが増えた状態になります。このようにして神経伝達物質のバランスが崩れ、精神的な興奮状態が起こってきます。薬剤性せん妄は、早期に介入する事で比較的短期間にせん妄症状が改善する可能性が高いことから、せん妄の発症及び重篤化回避には、薬剤師の役割は重要と考えています。

■おわりに

せん妄への予防的介入は、近年非常に重要視されてきています。当院でもリスク因子の1つにあげられている薬剤に関しては、入院時にせん妄誘発リスクのある持参薬を確認し、必要に応じて中止・変更等の提案を主治医・看護師に行っています。通常、せん妄を発症した場合、リエゾン精神科医にコンサルテーションがなされて対応されるのが一般的です。

しかしながら、当院には精神科医は不在である現状を踏まえ、このフィールドにおける薬剤師の役割は極めて大きいと考えています。これも重要なポリファーマシー対策の一環として、我々薬剤師は日々研磨し、チーム医療に貢献していきたいと思います。

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