杖のアレコレ

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暖冬と言われながらも、寒かった冬、外出するのもおっくうになりがちです。
そんな寒かった冬も終わり、暖かな春を迎え、気分も上向き、外出する機会も増えてくる季節です。
当院の近くの公園や周辺道路でも散歩・ウォーキングをしている人の数が増えてきているようです。

人間の主たる移動手段である、「歩行」は、日常生活の中の、最も基本的な動作のひとつであり、歩行ができなくなるということはQOL(quality of life:人生・生活の質)の低下に直結します。
逆を言えば、高齢者や病気やケガで身体障害者となってしまい、歩くことが不自由になってしまった方でも、何らかの手段・助けを借りて、歩くことができる、さらに、歩行が自立することができれば、QOLの向上に直結するのです。
そんな、歩くのが不自由になった方の“自分で歩ける”を助けてくれるのが、歩行補助具(杖や歩行器など)です。
ということで今回は、歩行補助具の中でもメインとなる、「杖」について少しお話したいと思います。

杖の役割

“転ばぬ先の杖”ということわざがあるように、杖の主な役割は「転倒防止」です。
さらに、「骨や関節、筋肉の負担軽減」という役割があります。
歩行時には股関節に対して最大で体重の3倍もの重さかかると言われおり、関節を痛めている方にとっては大きな負担となるでしょう。
杖を使用すると、杖を使用しなかった場合と比較した場合、股関節にかかる負担は1/2以下になることが分かっています。
また、姿勢が悪く、痛みの出やすい、膝や腰への負担を軽くするのにも有効です。

杖の種類

ひとことに杖と言っても、さまざまな種類があり、用途や使用方法が異なります。
ここでは代表的な4つを紹介します。
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(写真左から)

1. T字杖
いわゆる一本杖のことで、もっとも普及しているタイプの杖です。
杖なしでも歩ける程度の軽い歩行障害の方に使用され、バランスの向上や身体への負担軽減の目的で使用されます。
屋内外問わず、幅広い環境で使用可能です。
長さ調節のできるタイプや、持ち運びに便利な折りたたみタイプのものもあります。

2. 多点杖(4点杖)
T字杖よりも一層の安定性を求めて作られたのが多点杖です。
杖の脚が4点に別れているため、接地面積が広く安定性が高くなっています。
しかし、平坦な場所でないと使用できず、坂道や階段、凸凹道などは困難なため、基本的には屋内用です。

3. ロフストランド杖
杖の上部が握りの上まで伸びており、前腕の部分にカフ(腕輪)があり、そこに腕を通します。
握りと前腕の2ヵ所で体重を支えるので、安定性が高く、握力や腕の力の弱い方に適しています。

4. 松葉杖
松葉型をした2本の支柱の上部に脇当てが、途中に握りがあり、通常は2本1組で使用します。
最も重い荷重に耐えられる杖で、安定性が高く、骨折や捻挫などで片足に体重をかけられない場合や荷重を減らしたい場合に使用します。

杖の長さ

杖を使用する上で長さ調節は注意点の一つであり、身長に対して長すぎたり短すぎると、かえって疲れてしまったり、姿勢が悪くなり、腰痛や肩こりの原因にもなります。
そのためには自分の身体に合った長さの杖を使用する必要がありますが、ここでは、T字杖の場合の標準的な長さの決め方の目安を紹介します。

・まっすぐ立ち、腕を下した姿勢(“気をつけ”の姿勢)で握りが手首のところにくる長さ。

・一歩前に杖をついた時に、肘が軽く曲がる(約30°)長さ。

※屋外で使用する場合は、靴を履いた状態で調節しましょう。
※円背(腰の曲がった人)は曲がった姿勢で長さを決める。
※これらはあくまで標準的な目安であり、使用する方によって適した長さは異なります。

杖の使い方

まず、杖の持ち手についてですが、杖は不自由な足と反対側の手に持ちます。
例えば、右足が不自由な方が同じ側の右手に杖を持って歩いているといった、間違った使い方をされている方も時折見かけますが、杖は不自由な足の補助する役目があります。
つまり、この方の場合は左手に杖を持つことで、右足にかかる荷重を軽減することができます。

次に、杖を使った歩き方についてですが、今回はT字杖を使った基本的な歩き方を、先ほどと同様に、右足が不自由な方を例にして、2つの歩き方、前に出す順序を示します。

・3動作歩行(常時2点歩行):杖を前へ → 右足(不自由)を前へ → 左足(良い方)を前へ

・2動作歩行(2点1点歩行):杖と右足(不自由)を同時に前へ → 左足(良い方)を前へ

最後に、階段の昇り降りの杖の使い方を、こちらも先ほどの右足が不自由な場合を例に示します。

・昇り:杖を上の段へ → 左足(良い方)を上の段へ → 右足(不自由)を上の段へ

・降り:杖を下の段へ → 右足(不自由)を下の段へ → 左足(良い方)を下の段へ

※“行き(昇り)は良い良い(良い足)、帰り(降り)は怖い(悪い足)。”で覚えましょう。

“自分で歩けるようになりました。”

最後に、先日退院された患者Aさんのお話を少ししたいと思います。
Aさんは今回、自宅で転倒し左の足関節を骨折し、手術をされた後、当院でリハビリを行った方です。
手術後しばらくは左足を地面につけないように(免荷)し、医師の指示のもと、その後徐々に左足に体重をかけることが許されました。

リハビリ初日、治療のため、ズボンをめくると、両膝には大きな“たこ”があった。
理由を聞くと、10年ほど前のクモ膜下出血およびその後の脳梗塞により、両足に麻痺が残り、自宅内は伝い歩きでなんとか移動していたが、何度も転倒していたと。
そして転倒しないようにと、自宅内では膝をつき、這うようにして移動することが多かったと。
今回の骨折も、トイレに行こうと立ち上がった際に転倒して起きたものでした。

幸い、骨折部の痛みはさほど増強することなく、骨の状態をみながら、順調に体重をかける許可がおりていきました。
しかし、退院後の移動手段をどうするか。
本人からは、“這うのではなく自分で歩きたい”と。
なんとか自宅内での移動を安全に行うことができないか。T字杖や4点杖、歩行器などを試し、最終的には、「両手にT字杖」もしくは「手すり+T字杖」を選択しました。
退院前には自宅へ試験外泊を行い、動作を確認していただきました。
病院へ戻ってきたAさんは、“家の中でも、これ(両手に杖)で自分でしっかり歩けました。安心して帰れます。” 満面の笑みでVサイン。

免荷期間もあり数ヵ月にも及んだ冬の入院生活を終え、自宅へ退院。
ご主人の助けも借りながら、自宅で春を迎えることができました。

リハビリテーション科では“自分で歩ける”を目指して、自分の身体や生活スタイルに合った杖を、自分に合った使い方で使用し、安全に歩いていただけるように練習・指導を行っています。
また、杖だけではなく、靴や装具などの提案、指導も行っていますので、ぜひリハビリ室をのぞいてみてください。

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