大動脈弁閉鎖不全症(逆流)

大動脈弁閉鎖不全症(逆流)の診断

大動脈弁逆流は慢性疾患と急性疾患に分けられます。急性の大動脈弁逆流は上行大動脈の解離や感染性心内膜炎による弁構造の破壊によって引き起こされます。これらに対しては緊急あるいは準緊急手術によって人工弁置換術あるいは弁温存手術が必要となります。

慢性大動脈弁閉鎖不全あるいは逆流は半月弁の硬化、逸脱、上行大動脈の拡大などによって引き起こされます。表1に大動脈弁逆流を来す疾患を提示しました。大動脈弁の逆流程度は軽度、中等度、高度に分けられますが、逆流が高度になりますと左心室は逆流量分の血液を余分に拍出する必要が出てきます。したがって、収縮期(上)の血圧が上昇し、拡張期(下)の血圧が下がって脈圧が大きくなり、左心室の拡大を生じてきます(図1)。

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▲表1:大動脈弁逆流を生じる原因疾患

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▲図1:大動脈逆流による左心室の拡大

大動脈弁逆流の原因疾患は表1に示しましたように弁の疾患と上行大動脈を含む大動脈基部の疾患に分けられます。心臓の雑音は拡張期によく聞こえます。拡張期心雑音が聞こえて大動脈弁逆流が強く疑われる時には心エコー図検査による確定診断が必要となります。

大動脈弁閉鎖不全症(逆流)の重症度評価

大動脈弁逆流を心エコー図検査法で見ると図2のようにカラージェットの逆流シグナルが観察されます。これから逆流量、逆流率、あるいは逆流弁口を計算して高度逆流かどうか診断しますが、他に腹部大動脈での逆流シグナルなども参考にしています。診断のところで触れたように大動脈基部(上行大動脈、バルサルバ洞)の病気で大動脈弁逆流を生じることも多いので、必ず上行大動脈の大きさ(直径)を観察しておくことが重要であります。

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▲図2:大動脈逆流の経胸壁心エコー図検査
カラードップラー法により大動脈弁逆流と診断できる。その程度はPISA法で逆流量78㎖、逆流率66%、逆流弁口0.3㎝²と高度逆流と診断された。

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▲表3:大動脈弁逆流の重症度 -心エコー図検査-

慢性大動脈弁逆流で逆流の程度が軽度あるいは中等度と診断されますと、左室の容量負荷は生じないので外科治療の対象とはなりません。最近では逆流のメカニズムを診断するために、経食道心エコー図検査、三次元リアルタイム画像をみることもあります。これにより弁逆流のメカニズムが判りますと手術適応の患者さんでは人工弁置換術ではなくて弁形成術が可能となる場合があります。
慢性大動脈弁逆流による左室容量負荷は左室拡張期内径および収縮期内径の増大となって観察されます(表3)。左室内径の増大に伴って左室駆出率の低下が進行します。

大動脈弁閉鎖不全症(逆流)に対する手術適応

大動脈解離や感染性心内膜炎による急性大動脈弁逆流では急性左心不全が進行するので、緊急手術による人工弁置換術あるいは弁形成術が必須であります。
慢性高度大動脈弁逆流の外科治療の目的は、症状の改善、心不全の進行を予防、大動脈拡大を合併する症例では破裂などの回避により、患者さんの生命予後を病気のない同世代の人々と同じレベルに改善することであります。
したがって、高度大動脈弁逆流で外科治療の対象となるのは、大動脈弁逆流により動悸や息切れなどの症状が見られる患者さん、左室拡大により駆出率が50%以下、左室収縮期内径が体表面積当たり25mm以上で収縮機能の低下が見られる患者さんが対象となります(表4)。ガイドラインで心機能の判断となる収縮期内径を重要視しているのは手術後の心機能の回復を考慮しているからであります。体表面積の小さな日本人では1.4-2.0㎡の収縮期内径は表4に示しましたので参照してください。ちなみに図4の症例は軽度の症状出現と併せて収縮期内径が43㎜(基準値25×1.43=36mm)と拡大しておりましたので手術が行われ、6か月後には心機能がほぼ正常化しました。

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▲表4:大動脈弁逆流の外科治療の適応

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▲図4:大動脈弁逆流による左室拡大(身長153㎝、体重48㎏、体表面積1.43㎡の女性)

また、上行大動脈拡大を合併する大動脈弁逆流、マルファン症候群、大動脈二尖弁では大動脈径が45‐50mmで手術の対象となります。この時には大動脈弁逆流の程度とは関係なく大動脈の破綻回避が大きな目的となるからであります。

大動脈弁閉鎖不全症(逆流)に対する外科治療の方法

大動脈弁逆流のメカニズムに関してレアルタイム3Dエコー図検査のことを前述しましたが、弁の石灰化がなくて柔軟な弁尖であれば形成術の対象となることがあります。人工弁置換術の成績は良好ではありますが、機械弁の抗凝固療法、生体弁の耐久性は10-20年の長期成績を考えるときには大きな問題であり、大動脈弁形成術に慣れた外科医・施設では形成術が行われます。形成術の方法は標準化されつつありますが、必ずしも一定ではありません。しかしながら、20歳―50歳で手術を受けられる患者さんの手術後10年20年の遠隔期のことを考えますと、弁形成術は大きな意味のある手術方法と考えます。今のところ手術後10年までの再手術の確率は20%前後ですが、手術方法の改良、術中心エコー図検査による遺残逆流の評価など改善されておりますので、これからの手術成績はさらに良好なると考えられます。大動脈二尖弁逆流に対する形成術の方法を図5に示します。

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▲図5:大動脈弁二尖弁逆流に対する弁形成術
左冠尖―右冠尖の一緒になったconjoined leafletの自由縁の長さを調整して形成術を行う

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▲図6:機械弁
パイロライトカーボンによる二つの弁葉で開閉を繰り返す。弁口は十分であるが、ヒンジ部分の血栓形成予防のためにワーファリンによる抗凝固療法が必要である

一方で、形成術に適さない大動脈弁に対しては人工弁置換術となります。人工弁は弁の働きをする部分がカーボンでできた機械弁と生体材料(ブタ大動脈弁、ウシ心膜弁)でできた生体弁に分けられます。機械弁生体弁の写真を図6,図7に示します。機械弁では手術後に抗凝固剤であるワーファリンが不可欠であり、INR値2.0-2.5に維持することが重要となります。65歳以下の若い年齢では大動脈弁位機械弁でのワーファリン服用で血栓塞栓・出血の頻度は1-2%/患者・年ですが、高齢になりますと3-5%に増加します。そこで65歳以上では生体弁が薦められるようになっております。生体弁ではワーファリンの継続服用は不要でありますが、耐用年数に限界があり、若い年齢ほど耐久性が悪いとされております(図8)。

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▲図7:生体弁各種

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▲図8:大動脈弁位生体弁の耐久性
年齢が若いほど耐久性が悪い、高齢者ほど耐久性は優れている

しかしながら、抗凝固療法の継続を望まない若い患者さんには生体弁植え込みの時に将来の再手術の時期・追跡検査方法についてよく理解してもらってから手術をしております。再手術のリスクは心機能が良好な患者さんでは大きな問題とはなりません。人工弁の選択に関して患者さんと一緒に検討する課題、そして一応のガイドラインを表5,表6に示しますので参考にしてください。人工弁サイズは大動脈弁逆流では十分な大きさの機械弁あるいは生体弁が入りますのでサイズに関しての問題はありません。

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▲表5:大動脈弁位人工弁の選択

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▲表6:大動脈弁位人工弁の選択に関するガイドライン

拡大した上行大動脈手術でありますが、上行大動脈人工血管置換術を大動脈弁手術と分けて行う場合と、上行大動脈―バルサルバ洞―大動脈弁輪を一体として置換し、大動脈弁形成術(Remodeling法、Reimplantation法)(図9)、人工弁置換術(機械弁‐Bentall法、生体弁‐Biobentall法)(図10)を行う方法に分かれます。大動脈基部病変(上行大動脈拡大‐バルサルバ洞拡大)が見られるときは一体としての基部置換が必要です。
弁形成術が可能な時はRemodeling法かReimplantation法による大動脈弁温存手術が適応となります。弁の変性、石灰化が見られるときには機械弁(Bentall法)か生体弁(BioBentall法)が選択されます。
手術成績は手術前心機能に影響されますが、一般には良好であります。手術死亡率が5%を超えることなないと考えますので安心して手術を受けていただいてよいと考えます。

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▲図9:大動脈基部病変を合併した大動脈弁逆流に対する手術(Remodeling法とReimplantation法)

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▲図10:大動脈基部病変を合併した大動脈弁逆流に対する手術(機械弁によるBentall法と生体弁によるBioBentall法)

心臓弁膜症の治療について

頻度の多い弁膜症(大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症)について、それぞれ診断、重症度評価、手術適応、手術の方法、手術後の遠隔成績を説明します。

大動脈弁狭窄症

僧帽弁閉鎖不全症-1

僧帽弁閉鎖不全症-2

大動脈弁閉鎖不全症

三尖弁閉鎖不全症

心房細動に対する外科治療 -メイズ手術-

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