大動脈弁狭窄症

大動脈弁狭窄症の診断

大動脈弁の狭窄は加齢による動脈硬化の一つとして進行するので、高齢化社会となった日本では増加しています。正常では 図2 に示すように半月の格好をした3枚の弁尖(半月弁)が揃って心臓の収縮拡張に合わせて良好な開放・閉鎖を繰り返しています。この弁尖が動脈硬化により石灰化を来たして十分な開放が得られなくなる病気が大動脈弁狭窄症です。聴診器では収縮期に心雑音が聴こえるようになります。大動脈弁にカルシウムが沈着して重症の狭窄症となった大動脈弁を 図3 に示します。ゴツゴツしているのは大動脈弁に沈着したカルシウムです。一方で、生まれながらにして3枚ある弁尖が2枚の場合(大動脈2尖弁)も大動脈弁狭窄症の原因となります。この頻度は人口の約1~2%と言われています。大動脈2尖弁による狭窄は若い時から生ずることがあり、他の先天性疾患を合併することが特徴です。2尖弁の場合は、上行大動脈の拡大を伴うこともあります。
大動脈弁狭窄症は心雑音が最大の特徴です。胸部X線写真や心電図から診断されることは多くなく、左室肥大を指摘される程度です。従って、胸部聴診で心雑音が聴こえた時には、心エコー図検査を行うことが大動脈弁狭窄症を診断するために重要となります。大動脈弁狭窄症の重症度診断、治療方針は心エコー図検査を中心になされるので、心雑音で大動脈弁狭窄症が疑われる時には、心エコー図検査を受けて頂き、重症度の評価に沿って治療方針を決定します。

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▲図2:正常の大動脈弁
左の図にあるような半月弁3つ(左冠尖、右冠尖、無冠尖)によって大動脈弁が作られており、速やかな開閉が行われる

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▲図3:石灰化による大動脈弁狭窄症の手術中写真
大動脈を切開して大動脈弁を観察すると三尖で、著明な石灰化が見られる。三尖の一つを切除した写真では弁中央から弁輪の石灰化が見られる。

大動脈弁狭窄症の重症度評価と治療方針

大動脈弁狭窄症の重症度評価は心エコー図検査を用いて、大動脈弁の狭さの程度(大動脈弁口面積)、弁を通過する血流の速さ(速いほど重症)、左心室と大動脈に生じる圧較差(大きいほど重症)などから、軽症、中等症、重症狭窄に分けられます。
重症度が中等度の場合までは積極的な外科治療の対象とはなりません。大動脈弁狭窄症の心エコー図検査を 図4 に示します。心エコー図検査による重症度評価の区分を 表3 に示したので参考にして下さい。大動脈弁狭窄症を改善させることのできる薬物治療法はありませんので、これらの数値を参考にして手術のタイミングが決定されます。軽症、中等症であればすぐに手術の適応とはならずに年に1~2回の心エコー図検査で進行の程度を観察することとなります。
大動脈弁狭窄症は長期間にわたって無症状で経過しますが、少しずつ確実に進行し、左心室内の圧上昇による圧負荷を来すようになり、重症になると、息切れ・動悸や胸痛、失神などの症状が現れます。こうした症状が見られるようになると急激に大動脈弁狭窄症の病状が進行するか、突然死の危険が高くなりますので、症状(息切れ・動悸や胸痛、失神)がみられる重症大動脈弁狭窄症をきたした方は、年齢に関係なく外科治療(手術)の対象と考えられます。
高齢者の場合、腎臓、肺などの他の臓器機能が手術成績に影響を及ぼしますが、症状のある大動脈弁狭窄症は、たとえ高齢者でも外科治療の方が内科的な治療に比し圧倒的に良好ですので、早めに我々心臓外科医に相談して頂ければ幸いです。

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▲表3:大動脈弁狭窄症の重症度

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▲図4:大動脈弁狭窄症の心エコー図検査
心エコー図検査では白くなったエコー輝度が強く、可動性が低下した大動脈弁が観察される

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▲図5 大動脈弁狭窄症による左心室圧の変化

大動脈弁狭窄症の手術適応

重症大動脈弁狭窄症、すなわち大動脈弁口が体表面積あたり0.6cm2(0.8-1.02)以下、最大血流速度4m/秒以上で手術適応となります。最大血流速度4m/秒以上の生命予後は図6に示しますように不良であるために手術の適応となります。
手術の際に問題となるのは、1)冠状動脈閉塞あるいは狭窄の有無、2)上行大動脈の石灰化の有無、3)他臓器の機能不全、特に腎機能低下、呼吸機能低下、4)四肢の閉塞性動脈硬化症、などであります。これらが合併症として診断されますと、手術に伴う合併症の発生や死亡率が高くなります。高齢者であっても合併症のない患者さんの手術死亡率は高くありません。

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▲図6:最大血流速度による心臓イベントの回避率
大動脈弁と通過する最大血流速度が4m/秒を超える患者さんの70%が2年以内に心臓イベントを発症する

最近のカテーテル治療

重症の大動脈弁狭窄症で手術困難と判断された患者さんにはカテーテルによる大動脈弁口拡大術、あるいはTAVRといわれるカテーテルによる人工弁置換術が行われるようになっています。カテーテルによる大動脈弁口拡大術は、合併症は少ないのですが長期的な効果が期待しづらく、2~3年での再狭窄率が高いとされております。また、TAVRは手術困難な症例で行われますが、特別な手術室(ハイブリッド手術室)のない施設では行えません。合併症も10%前後報告されており、今の段階では手術に取って代わる治療法までには至っておりません。そのため症状が強く、かつ手術治療が困難と思われる患者さんのみカテーテル治療は適応となります。

大動脈弁狭窄症に対する手術方法

全身麻酔で胸の正面にあります胸骨という骨を縦切開(胸骨正中切開)して、手術のできる範囲に胸を観音開きにして手術を行います。胸骨の上半分で行う小切開手術もあります。
心臓を露出した後、心臓を覆っている心嚢という袋を切開して体外循環の準備をします。心臓手術では心臓を停止させて病気の弁を修復あるいは人工弁に交換しますので、一時的に心臓と肺の機能の代わりをしてくれる体外循環装置が必要となります。上行大動脈、上大静脈、下大静脈にカニューレを入れて手術台の横に設置した体外循環装置とつないで心臓・呼吸を停止させても全身の臓器血流が維持できる環境をつくります(図7)。体外循環装置につないだ後に薬物で心臓を一旦停止させて、上行大動脈を切開して患者さんの硬くなった大動脈弁を摘出し(図8)、大動脈弁を摘出した跡(大動脈弁輪)に人工弁を縫って固定します(図9)。これが終わりますと切開した上行大動脈を縫合して、心臓内の空気を抜きながら心臓の拍動を再開させます。手術中は経食道心エコー図を用いてリアルタイムで心臓の動き、人工弁の機能を評価できますので、経食道心エコー図の情報を参考に安全を確認してから体外循環を停止して、止血を確認後に切開した胸を閉じます(閉胸)。手術において心臓を止めている時間を大動脈遮断時間といいますが、大動脈弁置換術における大動脈遮断時間は一般に60~70分程度です。

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▲図7:開心術中の写真
胸の正面にある胸骨の真ん中で切開して(胸骨正中切開)胸を左右に開けて、動脈、静脈にカニューレを入れて体外循環を開始したところの写真です。こうしてから心拍動を止めて手術を行う。大動脈や心房を切開して心臓内腔の手術を行います。

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▲図8:開心術、大動脈弁狭窄症に対する人工弁置換術の写真
写真は左から、大動脈を切開すると石灰化して硬い大動脈弁が見える。次いで、大動脈弁を切除し(中)、右図のようにどのような大きさの人工弁が植えれるかの測定をする

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▲図9:開心術、大動脈弁狭窄症に対する人工弁置換術の写真
左の写真は機械弁、右は生体弁を植え込む途中の写真で、患者さんの弁輪に通した糸を人工弁に縫ったところを示す。

大動脈弁狭窄症に対する人工弁置換術の遠隔成績

図10は大動脈弁狭窄症に対する人工弁置換術後の遠隔成績(生存率)をグラフにしたものであります。手術の時の平均年齢は76歳で手術時の死亡率は3%、8年後84歳まで生存できる確率は85%であることを示しております。これは手術を受けない場合の生存率と比べて明らかに優れており、大動脈弁狭窄症の方に対して手術治療を積極的に進める大きな根拠となっております。

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▲図10:大動脈弁狭窄症に対する人工弁置換術後の遠隔成績

心臓弁膜症の治療について

頻度の多い弁膜症(大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症)について、それぞれ診断、重症度評価、手術適応、手術の方法、手術後の遠隔成績を説明します。

大動脈弁狭窄症

僧帽弁閉鎖不全症-1

僧帽弁閉鎖不全症-2

大動脈弁閉鎖不全症

三尖弁閉鎖不全症

心房細動に対する外科治療 -メイズ手術-

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