僧帽弁閉鎖不全症(逆流)-2

いわゆる複雑病変による僧帽弁逆流に対する弁形成術

僧帽弁逆流の原因はさまざまであり、最も多いのが弁逸脱による弁逆流で手術となる症例の70~80%であります。その中でも後尖逸脱が50~60%を占めており標準的な術式で弁形成術が可能であります。しかしながら、表1に示しますように前尖逸脱、Barlow氏病を含む両弁尖逸脱、感染性心内膜炎、リウマチ性僧帽弁逆流、先天性僧帽弁逆流、そして弁形成術後の逆流再発に対する弁形成術は経験や形成手技の熟練度が必要となります。現在の日本における形成術の頻度が60%前後であることは、熟練を要する形成術症例が人工弁置換術になっていることを物語っております(図1)。

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▲表1:複雑病変による僧帽弁逆流に対する弁形成術

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▲図1 僧帽弁逆流に対する形成術の施行状況

両弁尖逸脱(含Barlow disease)

両弁尖逸脱による僧帽弁逆流で手術となる年齢層は後尖逸脱症例と比べて若年層(30歳代~50歳代)が多いので、手術後の生命予後が優れている治療手段が望まれます。機械弁による人工弁置換術では抗凝固療法(ワルファリン)による出血や血栓塞栓症の問題が残り、生体弁では構造的な劣化による再手術が避けられません。何よりも弁形成術による左室機能の回復は人工弁置換術に比べて優れておりますので、前尖逸脱、両弁尖逸脱に対しては形成術の良い適応であると考えており、前任地から全ての患者さんに形成術を行ってきました。両弁尖逸脱は図2に示しますように前尖・後尖組織が余剰で逸脱しております。図3は両弁尖逸脱症例の手術中写真でありますが、前尖・後尖共に余剰組織に富んでおり図4に示しますように後尖優位に弁逸脱が見られます。後尖の逸脱・余剰組織を切除あるいは人工腱索再建により弁逸脱を修復して、さらに前尖逸脱を人工腱索による腱索再建術を行い、人工弁輪による弁輪形成を行いますと図5の術中写真に示しますように逸脱が消失して弁の接合が良好になります。手術後の心エコー図検査でも良好な弁接合が確認でき、逆流の消失により左室機能の改善が見られました。

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▲図2:僧帽弁逆流の形態
後尖逸脱と両弁尖逸脱(含Barlow)

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▲図3:両弁尖逸脱の術中写真(弁形成術前)
前尖後尖の余剰組織がみられ、多数の部位での逸脱が観察される

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▲図4:両弁尖逸脱の手術前の経胸壁心エコー図検査
後尖の逸脱が優位であるが前尖の逸脱もみられる。カラードプラーでは高度の僧帽弁逆流が観察される。

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▲図5:弁形成術後の手術中写真と傍胸骨カラードプラ―心エコー図検査
心エコー図検査にて、前後尖の逸脱は消失し、十分な弁接合が観察される。

こうした形成術後の遠隔成績を検討した結果ですが、形成した僧帽弁の逆流再発は10年で3%、すなわち形成術後10年で再手術の必要な患者さんの確率は3%であります。この成績は後尖逸脱症例に対する形成術後の成績と何ら変わることはありませんでした。したがって、両弁尖逸脱症例であっても手術時期のタイミングを失することなく形成術が勧められます(図6)。

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▲図6:後尖逸脱、前尖逸脱、両弁尖逸脱に対する形成術後の逆流再発の程度

感染性心内膜炎による僧帽弁逆流

感染性心内膜炎とは血液中に細菌が増殖して高熱を伴い(敗血症)、心臓弁に障害を来す病気であります。感染性心内膜炎による僧帽弁逆流と診断されますと、細菌の種類に感受性の高い抗生物質が大量投与されます。細菌の種類は連鎖状球菌からブドウ球菌が多くなり、薬物治療後の手術よりも緊急手術が増加しております。心不全、血栓塞栓の既往などリスクのない症例では薬物治療が継続され、薬物治療後に僧帽弁逆流の程度によって手術適応かどうか判断されます。一方で、心不全、塞栓症の既往、塞栓症のリスクの高い症例、抗生物質の効果が不良な症例では緊急手術、準緊急手術が行われます。こうした感染性心内膜炎による僧帽弁逆流に対して旧来は抗生物質の治療で感染が終息した後に人工弁置換術が行われてきましたが、感染部分の切除と自己心膜の補填により待機的手術ではもちろん、緊急手術でも人工弁置換術ではなくて弁形成術が可能となってきています。全体症例の80~90%の患者さんで形成術が可能であります。感染性心内膜炎による僧帽弁逆流の患者さんの特徴は、平均年齢が若く(平均46歳)、心機能が良好であることです。形成術ですますことができれば抗凝固療法は不要であります。
写真は感染性心内膜炎によって緊急手術となった僧帽弁の形成術前(図7)と形成術後の術中(図8)を示しております。

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▲図7:感染性心内膜炎の僧帽弁手術写真
症例1(左)、症例2(右)共に感染巣を切除した後に自己心膜を補填して形成した。

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▲図8:感染性心内膜炎による僧帽弁逆流に対する形成術後の写真

感染性心内膜炎に対する形成術後の遠隔成績は図9に示しますように優れたものです。

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▲図9:感染性心内膜炎による僧帽弁逆流に対する形成術の割合、遠隔成績

その他の複雑病変に対する僧帽弁形成術

リウマチ性僧帽弁逆流はリウマチの感染によって僧帽弁に炎症が起きた後、徐々に僧帽弁組織が硬くなって癒合してくる病気であります。石灰化など硬化病変が進行した僧帽弁狭窄では人工弁置換術となりますが、癒合短縮部分が限定的で弁の柔軟性が維持されていれば形成術の対象となります。リウマチ性僧帽弁膜症の形成術前と形成術後の心エコー図検査結果を図10に示しますので参考にしてください。
また、小児期より心雑音が指摘されている時には先天性僧帽弁疾患が疑われます。最近では心エコー図検査の進歩、特に3Dエコー図で僧帽弁の形態、逆流の構造がわかるようになってきました。僧帽弁組織の欠損による弁逆流が多いので、自己心膜による補填を行えば形成術が可能なことが多いと考えられます。

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▲図10:リウマチ性僧帽弁狭窄症に対する弁形成術
手術前(左):弁狭窄による僧帽弁のドーム形成が見られる
手術後(右):狭窄解除と自己心膜補填により開放がよくなり逆流もない

僧帽弁形成術後の再発僧帽弁逆流に対する再形成術

僧帽弁逆流に対する形成術後の弁逆流再発は外科医の熟練度、形成術式の選択などによって異なりますが、手術後1~2年での再発は形成術式の破綻によることが多く、手術後8~10年以降は病気の進行によることが多いとされています。いずれにしても逆流の原因・メカニズムが判れば再度の形成術が可能であり、一般的には再発僧帽弁逆流の半数の症例で再形成術が可能であると報告されております。形成術後の僧帽弁逆流再発の症例の手術前、手術後の術中写真と心エコー図検査を図11、図12に示します。
僧帽弁逆流を来す疾患は以上のように多くありますが、逆流が高度で左心室、左心房に負荷がかかって心機能が低下し、更に症状が出現するようになると外科治療しか選択肢がありません。その外科治療の中で自己弁を修復する技術は進歩しておりますので、どのような僧帽弁逆流でも心エコー図検査で逆流のメカニズムが判れば形成術が可能です。
このように弁の逆流の構造が判れば心膜の補填を利用することで10%以上形成の可能性が拡がります。弁逸脱だけではなく多くの僧帽弁逆流に対して形成術が可能であります。

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▲図11:弁形成術後の逆流再発
(左)再手術所見で弁葉は短縮している
(右)手術前エコー図検査:逆流が高度で左房も拡大している

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▲図12:再弁形成術後の僧帽弁
(左)自己心膜を用いた形成術後は弁葉が拡大して逆流は消失した
(右)手術後心エコー図検査:弁の開放閉鎖が良好になっている

心臓弁膜症の治療について

頻度の多い弁膜症(大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症)について、それぞれ診断、重症度評価、手術適応、手術の方法、手術後の遠隔成績を説明します。

大動脈弁狭窄症

僧帽弁閉鎖不全症-1

僧帽弁閉鎖不全症-2

大動脈弁閉鎖不全症

三尖弁閉鎖不全症

心房細動に対する外科治療 -メイズ手術-

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