三尖弁閉鎖不全症(逆流)

三尖弁閉鎖不全症(逆流)とは

三尖弁は図1に示しますように、右心房と右心室の間にある房室弁です。上大静脈、下大静脈から右心房へと還流してきた静脈血がこの三尖弁を通過して拡張期に右心室に流入します。収縮期には三尖弁は速やかに閉鎖して、右心室は肺動脈弁を通して肺動脈に血液を拍出させます。三尖弁は図2に示しますように前尖、後尖、中隔尖の3つの弁尖で構成されております。僧帽弁膜症(僧帽弁狭窄、僧帽弁逆流)の患者さんでは左心房圧が上昇し、肺循環を経由して右室圧が上昇して右室負荷を生じるようになりますと、図3に示しますように三尖弁輪が拡大して機能的三尖弁逆流を生ずるようになります。初期の段階では三尖弁逆流による症状はすぐには現れませんが、下肢や顔面の浮腫があるときには三尖弁逆流が原因であることを考える必要があります。また、僧帽弁膜症が進行して心房細動を来している場合には多くの患者さんで三尖弁逆流が見られます。下肢や顔面の浮腫に対しては利尿剤がよく効きますが、重症になりますと利尿剤効果も限定的で外科的治療が必要となります。
古くから三尖弁逆流は知られておりましたが、左心系弁膜症の手術により改善すると考えられておりました。しかしながら、心臓手術後の患者さんの長期遠隔成績をみますと、手術後に三尖弁逆流の再発が見られる症例では、日常活動の制限が生じ、利尿剤の必要な場合の生存率、心不全回避率は不良であることがわかってきました。

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▲図1:三尖弁、僧帽弁の解剖

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▲図2:三尖弁の構造

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▲図3 機能的三尖弁逆流の発生、弁輪拡大

三尖弁閉鎖不全症(逆流)の診断

機能的三尖弁逆流

三尖弁逆流のうち機能的三尖弁逆流が90%以上を占めます。主に左室側の弁膜症によって右心室の血圧が上昇し右室拡大を生じて、同時に三尖弁輪が拡大することにより機能的三尖弁逆流を発症します(図3)。三尖弁逆流が生じますと日常運動などの心臓負荷で右心室に容量負荷がかかりますので、三尖弁逆流の悪化をもたらします。

器質的三尖弁逆流

先天性心疾患エプシュタイン病、感染性心内膜炎など三尖弁の構造に障害があって三尖弁逆流を生じている状況ですが、左心系が正常であることが多いので高度三尖弁逆流とならなければ症状を来すことは少ないと言われております。

三尖弁閉鎖不全症(逆流)の重症度評価

図4に示しますようにカラードプラー心エコー図検査法によって診断されます。カラーで表示される逆流の面積、逆流弁口の幅などで表されます。中等度以上の三尖弁逆流となりますと、右心室・右心房の拡大、下大静脈の拡大が同時に観察されます。そして逆流シグナルの血流速度を計測して推定の右室圧を算出することができます。正常は30mmHg以下でありますが、左心系の弁膜症、特に僧帽弁疾患による三尖弁逆流では50mmHg以上の肺高血圧が観察されることがあります。
三尖弁逆流が著しくなりますと、顔や下肢の浮腫、胸水貯留、さらには腹水貯留をもたらします。徐々に日常生活での活動能力が制限されるようになります。

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▲図4:三尖弁逆流の重症度評価

三尖弁閉鎖不全症(逆流)に対する手術適応

三尖弁逆流の重症度により遠隔期の生存率が大きく影響を受けるとの報告が10年前にあり、最近の10年間で手術適応も大きく変化してきました。機能的三尖弁逆流は左心系弁膜症(僧帽弁、大動脈弁)の手術の時に手術前の心エコー図検査による三尖弁逆流の程度や身体所見によって手術適応かどうか決められます。三尖弁逆流が中等度以上の症例では人工弁輪による弁輪形成術が勧められますが、三尖弁輪径の拡大症例(>21㎜/m2)(図5)、心房細動(図6)、肺高血圧を伴う症例でも三尖弁輪形成術の適応と考えております(表1)。積極的な三尖弁形成術の介入によって手術後の三尖弁逆流は改善して遠隔期の生存率はよくなると報告されております。
また、心臓の手術後に高度の三尖弁逆流が観察され、利尿剤が必要な患者さんでは再手術による三尖弁形成術が必要であると考えられております。 中等度―高度の三尖弁逆流が外科的治療によって改善しますと、日常生活での活動能力は改善します。

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▲図5:三尖弁逆流の重症度、三尖弁輪径の測定

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▲図6:心電図(正常洞調律と心房細動)

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▲表1:機能的三尖弁逆流に対する弁輪縫縮術の適応

三尖弁閉鎖不全症(逆流)に対する外科治療の方法

三尖弁逆流に対する外科治療法は、1)人工弁置換術、2)弁形成術に分けられますが、多くの機能的三尖弁逆流では人工弁輪(リング)による弁輪形成術で対応できます(図7)。器質的な三尖弁逆流でも自己心膜等を用いて形成術が行えることがほとんどであります。しかしながら、右心不全が顕著で三尖弁閉鎖が弁のテザリングによって不十分な症例では自己心膜を用いた弁葉拡大術あるいは生体弁による人工弁置換術が選択されます。用いる人工弁は血栓弁を回避する意味で機械弁よりも生体弁を用いることが多いのが現状です。

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▲図7:機能的三尖弁逆流に対する人工弁輪による弁輪縫縮

心臓弁膜症の治療について

頻度の多い弁膜症(大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症)について、それぞれ診断、重症度評価、手術適応、手術の方法、手術後の遠隔成績を説明します。

大動脈弁狭窄症

僧帽弁閉鎖不全症-1

僧帽弁閉鎖不全症-2

大動脈弁閉鎖不全症

三尖弁閉鎖不全症

心房細動に対する外科治療 -メイズ手術-

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