寂しがり屋のHさんのこと

Hさんは昨年の8月、ご自身のお誕生日の日に希の丘に入居されました。
Hさんはお寺の娘としてお生まれになり、学生時代は、女学校を卒業され、その後は東京の大学へ進学されたそうです。
ですが戦争が激しくなり4年制の大学でしたが2年で卒業されたそうです。
大学では家政科や英語も履修されていたそうで、今でも「昔は東京の大学に行っていて、外人さんに道を聞かれたら英語で教えてあげていたよ」とか「東京に居たときは“さようでございますかあなたさま”と話していたよ」とにこやかにはなしてくださいます。
結婚生活では娘様を三人出産され、専業主婦として過ごされ、40代の頃には地域の民生委員をされ、子供たちにお菓子を配ったりしていたそうです。
ご主人を亡くされてからはしばらくお一人で暮らされていて、仲の良いお友達とお遍路参りや、カルチャースクールで卓球やプール、書道などもされ、活動的に過ごされていたそうです。
お友達とワイワイと楽しく過ごすのがお好きだったようです。

ですが、脳梗塞を起こして入院され、徐々に活動範囲がせまくなっていったそうです。
入居して半年ほど経った頃から寂しさのせいか、時々大きな声で「帰ります」「こんなところに居たくない」との声が聞かれるようになりました。
スタッフ間で“どうしたらHさんの寂しさを埋めることができるのか?”“Hさんに笑って過ごしていただくにはどうしたらいいのか?”
など何度も話し合いをしました。
ご家族様も協力してくださり、Hさんの生まれたお寺に行って来られ、写真を撮って、それを大きくプリントアウトして、Hさんのお部屋に貼ってくださっています。
少しでも寂しくないようにとの心優しい写真がたくさん貼られています。
時々Hさんとその写真を見てお話します。

介護のプロとしてかかわりを通して、Hさんらしく、自尊心のある、その中にユーモアもあり、笑顔が素敵で、時々イタズラっぽく笑われる、そんなHさんを取り戻してほしいとスタッフ全員で取り組みました。
当たり前のことですが、目線を合わせてしっかりとお話を聴く。
初めは他の入居者さんの前ではあまりお話をされませんでしたが、だんだんと心を許して下さり、そうしていくうちに3か月ほど経ち、今では、失礼ですが、笑顔がとてもかわいらしく、ジョークを言ってイタズラっぽく笑われ、「迷惑かけてごめんな」「ありがとう」と、言ってくださいます。
少し前、他の入居者様からとてもうれしいお話をきかせていただきました。
「この人が(Hさんのこと)“ここに入って良かった”と言っていたよ」と。
その話を聞き、少し涙があふれました。
今年ももうすぐHさんの誕生日がやってきます。
とびきりの笑顔でケーキを召し上がるそんなHさんが見える気がします。