クロストリジオイデス(クロストリジウム)・ディフィシル腸管感染症と再発 ~新薬「フィダキソマイシン錠」に期待すること~

クロストリジオイデス(クロストリジウム)・ディフィシル感染症

クロストリジオイデス・ディフィシル感染症(CDI)は、抗菌薬の投与によって腸内細菌叢が乱れ、クロストリジオイデス・ディフィシル(CD)が大腸に定着し、増殖して産生された毒素により発症する感染症です。
症状としては繰り返す下痢、腹痛、発熱が出てきますが、重篤になると消化管穿孔、敗血症を併発する等、致死的な場合もあり、幅広い病態が特徴です。
欧米では特に高齢者における院内集団発生事例の増加に伴って死亡率も上昇し、重要な感染症として認識されています。
近年、本邦においてもCDIが数多く報告されてきており、治療上の課題としては既存治療薬のバンコマイシン(VCM)やメトロニダゾール(MNZ)で治療しても再発率は20~30%と高く、私達の医療現場では対応に苦慮することも少なくありません。
そこで今回2018年7月、新たに承認された新薬「フィダキソマイシン錠200mg」が発売予定なので、その特徴についてご紹介したいと思います。

本邦でのCDIの課題と欧米との違い 〜本邦でのCDI対策は重要なのか?〜

欧米では強毒素を産生するCD株が多く、CDIによる死亡率が高い現状にあります。
一方、本邦では重症化する株はほとんど認められていません。
しかし、課題はあります。
術後のCDIは死亡率が上昇する、CDIの治療により在院日数が2週間延長する、医療コストが約80万円増加する等の報告もあります。
つまり本邦では重症化する事は少ないのですが、予後や原疾患の影響が大きいためCDI対策は重要になります。

CDI発症の原因と再発 ~芽胞形成の機序~

CDIが発症する主な要因は「抗菌薬の使用」、「高齢」、「疾患の重症度」、「長期入院」等とされています。
もちろん宿主側(患者側)の影響もあり、高齢者などでは低栄養により液性免疫の低下を招き、CDの毒素に対する抗体産生に影響しているとの報告もあります。
また、再発してくる主な原因としては①抗菌薬による腸内細菌叢の攪乱、②CDが芽胞を形成する点だと言われています。
CDは自分が発育・増殖困難な環境になると、芽胞を形成し卵のように一時休眠状態になり長期生存する事が出来るようになります。
菌体内に芽胞が形成されると、厚い被膜に覆われた球状体に変化します。
同時に周辺の菌体は崩壊し、芽胞のみが残る形となります。
この時期は治療薬も効きにくい状態にあります。
また、環境が良くなると発芽して再び細菌に復元するので、これが再発を繰り返す大きな原因となっています。

フィダキソマイシンの作用機序と特性 〜再発率が低い〜

フィダキソマイシン(FDX)は18員環のマクロライド系抗菌薬に分類される全く新しい治療薬です。
① RNAポリメラーゼ阻害作用を示す(蛋白質合成阻害作用)
② 芽胞形成及び発芽後の生育を抑制する
③ 抗菌スペクトルが狭い
④ 腸管内で作用し、体内へはほとんど吸収されない
⑤ 1日2回の経口投与で、高い治癒率と再発抑制効果を示す
という特性を持ちます。
RNAポリメラーゼ阻害作用で生育を抑制して毒素産生を抑制し、かつ芽胞形成を開始する過程でもRNAポリメラーゼが関与しており、芽胞形成も抑制します(①②)。
これは他剤にはない特徴的な作用と言えます。
③により腸内細菌叢を撹乱しにくくなります。
④は分子量が大きいため吸収されないので、全身的な副作用も出現しにくくなります。
臨床的にもVCMと同等の有効性を示し、更に再発率はMNZやVCMより有意に再発が少ないとの成績が示されています(⑤)。

主な副作用

主な副作用としては、悪心、嘔吐、腹部膨満、貧血、胃腸障害などが報告されています。

CDIの薬物療法 ~本邦の「CDI診療ガイドライン」が策定~

本邦でも日本感染症学会と日本化学療法学会合同で、2018年度末には「CDI診療ガイドライン」が策定される見通しです。
CDIの薬物療法の原案では、初発の非重症例にはMNZ、初発の重症例にはVCM、再発・難治性の症例にはVCM又はFDXが推奨されています。
指針にはFDXの位置づけとして、再発例、再発リスクの高い症例にFDXは有用であると盛り込まれてくるかと思います。

最後に

これまでCDI治療薬にはMNZとVCMしか選択肢がなく、しばしば再発に苦慮していました。
FDXは上記薬剤とは異なる作用機序を有しており、再発抑制効果を持つ新たな治療薬として期待されています。
発売が楽しみです。