高齢者の転倒は社会問題!~原因の一つに薬剤が関連!ポリファーマシー(多剤服用による弊害)を考えるver.3~

薬剤科

高齢化に伴って、高齢者の転倒と転落に関連する有害事象が社会的に関心事項の一つになっている。
今回、高齢者の転倒リスクの高い薬剤は何なのか?また、具体的な予防策は何か?という臨床的な疑問から、論文のレビュー(N Engl J Med 382; 8 Feb.20.2020)を読んでみた。主に薬に関連する課題を見ていきたい。

■背景

高齢者の転倒により、米国では年間280万件の救急外来受診と80万件の入院が発生しており、総医療費は495億ドル(5兆2975億円)にのぼる。転倒後の骨折を含む有害事象は国家レベルで大きな財政負担となっている。
超高齢化社会を迎えた本邦においても、高齢者の転倒・骨折は生命予後だけでなくADLやQOLに及ぼす影響が大きく、要介護や寝たきりの主要な原因になる。
今回のポイントは以下の通り。

①臨床上での問題:転倒の約10%で骨折、脱臼、捻挫、挫傷を起こす

②症状評価のポイント:「過去に年2回以上の転倒歴」、「転倒に恐怖感があるか」を確認 易転倒性である

③主な転倒のリスク因子:歩行障害、バランス障害、視力障害、起立性低血圧、薬剤、環境、認知症、うつ病

④運動による転倒予防:運動療法は筋トレ、バランス訓練が有効 ウォーキング自体に転倒予防効果はない

⑤包括的な転倒予防の評価と管理が重要:薬剤に関しては全ての薬を確認し減薬を試みる 抗認知症薬、抗うつ薬、起立性低血圧の原因薬を減らす

■臨床上での問題 〜転倒の10%で骨折、脱臼、挫傷〜

65歳以上の高齢者の29%が年に1回以上転倒している。「転倒の約10%で骨折、脱臼、捻挫、挫傷を起こす」という米国の調査報告がある。
しかし、米国の大腿骨近位部骨折は1995年以降、減少に転じている。これは米国での骨折減少は骨粗鬆症治療薬であるビスフォスホネート系薬剤の使用率の増加によるものと言われている。

Fig.1)大腿骨近位部骨折率の推移

Fig.2)骨粗鬆症治療薬の使用率の推移

JAMA. 2009 Oct 14;302(14)より

一方で、本邦はビスフォスホネート系薬剤の導入は同時期であるにも関わらず、増加し続けている。
米国と本邦との違いを考えると、米国では高齢者の不眠、興奮、せん妄に対し、州によっては外来でのベンゾジアゼピン系薬の処方が禁止されている。多彩な副作用を生じるからである。

日本ではようやく2018年の診療報酬改訂で、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬及び抗精神病薬の4種類以上の投薬に関して、処方料、処方箋料の減算改訂が行われ、多剤併用が多い向精神病薬の適正化に向けて見直されるようになった。後で記載するが、これは包括的な管理が重要であることを意味している。

■症状評価のポイント

「過去に年2回以上の転倒歴」、「転倒に恐怖感があるか」を確認。これらは転倒のハイリスクである!
米国老年医学会及び英国老年医学会のガイドラインでは、65歳以上の患者の転倒リスクを評価するために年1回のスクリーニングを推奨している。

転倒歴がある時は、更に情報収集する。内服薬、飲酒の有無、失神の前駆症状、転倒箇所の周囲の環境、外傷の有無、病院受診の有無などである。失神発作や心臓症状がある場合は専門医にコンサルトする。
また、転倒後、約30%は転倒に対する恐怖を抱くようになり、ADLやQOLの低下につながる。
1年間に2回以上の転倒歴は大きな転倒リスクであり、本人は転倒した事を言わないため、「この1年で2回以上転倒したか?」と質問する必要がある。

■転倒の主なリスク因子は?

大変興味深いのは様々な転倒リスクのオッズ比である。
オッズ比とは1で効果なし、1より大きければ有害で、数値が大きいほど暴露因子とアウトカムの因果関係があることを示す。
バランス障害、歩行障害も有力な転倒のリスク因子だが、やはり注目すべき点は薬剤の転倒リスクが総じて大きいことである。転倒予防のために抗精神病薬や抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬等の薬剤はなるべく処方を避ける。また、ポリファーマシー(多剤併用で害をなすもの)のオッズ比(1.75)がベンゾジアゼピン系薬のオッズ比(1.40)より高いことに医療従事者は注意を払うべきである。ループ利尿薬も脱水を起こす可能性があるため注意が必要。

薬剤の他にはアルコール、視覚障害、認知障害、環境的危険因子も寄与する。また、原因不明の転倒として失神もあるため、心血管疾患も関与している可能性がある。高齢患者は多疾患合併等で意図せずポリファーマシーになりやすい状況にある。処方は必要最低限に限定するよう、監視しなければならない。

【転倒リスクとオッズ比】

■運動による転倒予防

運動は転倒予防にエビデンスがあり全患者に運動を推奨すべき。
転倒リスクを減らすためには、下肢筋力を向上させバランス感覚を向上させる運動が最も重要。
運動プログラムを開始する前に、歩行(6分間歩行距離や10m歩行速度など)、バランス(片足立ちなど)、筋力(握力や膝伸展筋力など)を評価することで、患者が安全に運動できるかどうかを判断する。
ウォーキングは運動プログラムに含まれていることが多いものの、ウォーキング自体には転倒予防効果はない。

筋トレは下記を10−15回繰り返す
1)椅子に浅く腰掛け、背もたれに着かぬように背をそらす(腹筋の運動)
2)次に両手を前に出し膝を曲げ中腰で立つ(腸腰筋、大腿四頭筋の運動)

バランス訓練は下記を10−15回繰り返す。
1)椅子の後ろに立ち片手で背もたれを掴み片足で10秒間立つ
2)慣れたら背もたれは指1本で支えて行う

■包括的な転倒予防の評価と管理

・認知症、うつ病、抗うつ薬は転倒リスクあり、抗認知症薬は失神を起こす。
認知症、うつ病はそれ自体に転倒リスクがあり、抗うつ薬使用もリスクである。抗認知症薬のコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト®、レミニール®、イクセロン®)やメマリー®は失神リスクがある。迷走神経刺激作用により、徐脈、不整脈を起こすため洞不全症候群や房室ブロック患者では注意が必要である。
なお、フランスではこれら4種類の抗認知症薬は、副作用の割に効果が低く有用性不十分であることから、2018年8月に保険適用除外になった。

・起立性低血圧
起立性低血圧は立位3分以内に収縮期血圧20mmHgまたは拡張期血圧10mmHg低下し、失神を起こすこともある。
直後に血圧が復帰してもゆっくり立ち、すぐに歩き出さないよう指導する。
起立性低血圧患者では、必要のないαブロッカー、抗認知症薬を中止し、また脱水を避ける。

・「ヒッププロテクター」は効果なく推奨しない。
下着の大転子部にプラスチック板を入れて、転倒時の大腿骨近位部骨折を予防するもの。しかし、メタアナリシスで効果に有意差は認められず推奨しない。当院でも採用しているが、ほとんど使用されていない。

その他の包括的管理として、

・バランス、歩行、筋力が最も重要である。

・視力障害
視力<0.25は転倒リスクが高いため、1〜2年に一度の眼科受診を勧める。

・環境
歩行補助具(杖等)の調整、トイレ環境、電気コードなど健常者では予想もつかないものが高齢者では転倒リスクとなるため確認する。

■おわりに

私達医療従事者は、高齢者が薬物の有害事象を起こしやすいこと、一旦転倒・骨折を起こすとADLや生命予後に大きな影響を与えてしまう事を念頭に置かなければならない。
当院でも薬物の有害事象が原因と考えられる転倒での入院症例は決して少なくない。薬物有害事象の多くは「不適切」な処方に気付いていない医療従事者が原因となりうる。このため、多職種で薬剤情報を共有し、処方内容がその患者にとって本当に「適切」かどうか、常に確認することが必要である。
この論文を読んで、改めて「ポリファーマシー」の重要性を認識した。

メニュー