認知症高齢者の生活を守るために!

住み慣れた地域で暮らし続けるために

今、日本は超高齢化社会となり、平均寿命は男性80.79歳、女性87.05歳(2016年)となりました。
ここまで長生きができるようになると、昔からは想像もできない新たな社会問題が起こっています。
その一つが認知症です。

認知症はずっと昔からあったと思うのですが、人前に出てもらうと困ると家族が家の中に閉じ込めてしまったり、病院に入院させてしまったりということもあり、地域の中で暮らす認知症の方はじっと息をひそめていたように思います。
しかし今は違います。
超高齢化社会となり認知症を有する高齢者はどんどん増えています。
認知症は老化のひとつであり、症状に差はあれ誰もがなるかもしれません。
高齢の一人暮らし世帯が増えていることなど、どれも他人事ではありません。
認知症になっても住み慣れた地域で、臆することなく安心して楽しんで暮らし続けるためにはどうすればいいのか。
それを考えることは認知症の方だけではなく、自分自身のためでもあるように思います。
日々の現場の中で、訪問看護師として何をすればよいのか、何ができるのかを考え、奮闘することがしばしばあります。
今回はMさんの事例を紹介します。

認知症、独居男性Mさん(79歳)が夏を乗り切るために

Mさんは奥様と二人暮らし。
子どもはありません。
パーキンソン病だった奥様の介護をMさんがされていました。
平成25年、奥様が転倒により大腿骨骨折をされてから介護負担が増強。
心臓の病気があったMさんとの生活が困難となり、奥様は特別養護老人ホームに入所となりました。
奥様の訪問看護サービスに入っていた当ステーションとのお付き合いは、そこで一旦終了となりました。
平成27年12月、ケアマネさんよりMさんの訪問看護の依頼がありました。
どうやら認知症がすすみ、服薬管理ができていないということでした。
久しぶりにお会いしたMさんは、少し年をとられたと感じましたが以前と変わらず穏やかで、部屋はきちんと整理されていました。
一瞬どこが認知症なのだろうと思うほど会話もはずみました。
Mさんは要介護認定で要支援1でしたので、訪問は週1回、月4回となりました。
訪問看護以外にも週1回ヘルパー訪問、週2回デイサービスを利用されていました。
Mさんの楽しみはデイサービス利用の際に、併設施設に入所されている奥様と面会できること、そして毎日1缶のビールを味わうことでした。
当初、病院への通院は忘れないよう部屋のカレンダーに記入し、声かけをするだけで一人で何とか出来ていました。
服薬管理は手作りの薬BOX(牛乳パックを切って作った物)を使用し、訪問した際に1週間分の薬を準備すれば自分でほぼ忘れずに服薬ができていました。
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2月頃から飲み忘れが増えてきたため、薬箱を目につきやすい食卓台の上に変更し、一包化された薬袋に日付を記入するようにしました。
このころから訪問日を忘れ、買い物に出かけて不在のこともみられるようになりました。
訪問ができないと次の訪問までの薬の準備ができませんので、そんな時は再度時間を変更し訪問しました。
4月、5月と通院日を忘れることが続いたため、当日朝に必ず電話を入れるようにしました。
6月には何とか通院ができたものの、精算せずに帰宅。
処方箋をもらって薬局に行くことも忘れていました。
キーパーソンに妹さんがおられましたが、仕事もあり度々付き添うことは困難な状態でしたので、7月からは訪問看護師が通院に付き添い、診察後に清算、薬局で薬をもらい帰宅するようにしました。
この頃より訪問すると窓を閉めたままクーラーもつけていないことが続きました。
夏場の暑い季節です。
室内でも熱中症となり生命に危険を及ぼすことが予測されましたので、すぐにケアマネさんに報告しました。
ヘルパーさんやデイサービスの送迎スタッフからも同様の報告があったということで、直ちにサービス担当者会議が行われました。

このように介護保険サービスではケアマネさんを中心に、各サービス事業者がその方が生活を続けるために必要な情報を共有するために、必要に応じて顔を合わせて話し合うサービス担当者会議が開催されます。
そこで話し合った結果をもとに、各事業所が協働してその方の生活を支えていくのです。
担当者会議の結果、それぞれのサービス回数を増やしMさんの見守りを強化することとなりました。
また必要なサービスを導入するために介護保険の変更申請が行われました。
8月の受診に付き添った訪問看護師が主治医にも相談し、薬は1日2回から1回に、薬の種類もシンプルとなりました。
訪問した誰かが内服の声かけをすることで、薬の飲み忘れが少なくなりました。
夏場になりMさんのお楽しみの缶ビールは1日1缶から2缶に増えています。
Mさんは周囲の心配を知ってか知らぬかいつもニコニコいい調子。

認知症のMさんがこの先もずっと今の暮らしが続けられるよう、Mさんを囲む多職種で協力し、支えになりたいと感じる今日この頃です。