心に残るエピソード~最期に好きだった珈琲ゼリーを召し上がった患者様の話~

私は病棟に勤める看護師です。
患者様には病気の治療が最優先と考えるところがあります。
しかし、人が最期の時を迎えるとき、患者様やそのご家族が普段から愛用している物が側にあったり、好きだったものをもう一度味わえるなど、普段と変わらないことがとても大切だと学ばせて頂いた患者様とご家族に出会いました。
そのエピソードをお話したいと思います。

患者様は80代男性で、心臓病の患者様でした。
心臓に持病がありながらも内服薬でコントロールしつつ、施設に入所され余生を送っておられました。
施設にいらっしゃる間は食事の度に車椅子に乗車され、お好きなものを召し上がり、レクリエーションなどを楽しむ生活を送っていらっしゃいました。
しかし徐々に食が細くなり、足にむくみが出て受診された時には深刻な心不全となっていたため、入院し治療を受けることになりました。

入院されてからは強心剤などの重要な点滴での治療を行う必要があったので、より体の中心に近い足の付け根より点滴のチューブを挿入しました。
頻繁に血圧を測定したり、不整脈の監視を行う必要もありました。
酸素も投与されましたが、呼吸は少し体を動かすだけで不規則で辛そうな呼吸をされました。
それでも、食事は少しずつ召し上がっていました。
しかし、徐々に食事を飲み込むことさえも辛い状況となり、食事の代わりにプリンやゼリーといった飲み込みやすい物を提供することとなりました。
ご家族は面会の度に、「今日は何か食べましたか?」と心配されましたが、少しでも召し上がったことをスタッフから聞くことで安心されたご様子でした。

ある夕食、普段どおり私がお手伝いするとその患者様はコーヒー味のゼリーとフルーツ味のゼリーをゆっくりと召し上がり、食べ終わると笑顔で「おいしかったよ」と仰いました。
これがその患者様の最期の言葉でした。
臨終の際にご家族がベッドサイドでこう話しかけられました。
「お義父さん、好きなコーヒー飲ませてあげられなくてごめんね。ずっと、コーヒーが飲みたいって言ってたもんね。ごめんね」と。
私は、夕食時の言葉を思い出しご家族に、今日はコーヒー味のゼリーを召し上がり、「おいしかったよ」と喜ばれていたことをお伝えました。
ご家族様は安心されたようでとても喜ばれていました。

病気が重症化した場合、食事は回復してから摂って頂くなど優先度が低くなる場合があります。
この患者様はいつそのときが来てもおかしくない状態でしたが、最期に好物をとっていただいたことで、ほんの少しですが満足していただけたと思います。
そしてずっと我慢させていたと感じていたご家族にも、最期の一言は思い出に残ったのではないかと思います。
そして私自身も人の最期を考えさせられる忘れられない患者様となりました。

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