透析患者と骨粗鬆症と骨折

「透析患者様は転倒するとすぐに骨折してしまう」とよく聞きます。なぜでしょうか。
これは透析患者様が、多くの場合、骨折しやすい状態、骨粗鬆症の状態にあるからです。
骨粗鬆症とは、骨の中がスカスカの状態になり、骨がもろくなる病気です。背中の骨が痛くなる、背骨が曲がる、身長が低くなったなどの症状が出て、年齢とともにだんだん進んでいきます。最近では、高血圧、糖尿病、腎臓病などの病気があると、骨粗鬆症になりやすいことが解ってきています。
骨の材料となるカルシウムの吸収には活性化されたビタミンDが必要です。ビタミンDは腎臓で活性化されますが、腎臓の機能が低下すると、ビタミンDの活性化が行われず、カルシウムの吸収が阻害されます。カルシウムの吸収が阻害され、血液中のカルシウム濃度が低くなると、副甲状腺からのホルモンが指令を出し、骨からカルシウムを流出させ、血液中の濃度を上げて一定に保とうとします。骨が溶けると骨の成分であるリンも上昇し、副甲状腺ホルモンを一層増やすという悪循環に陥ってしまいます。骨は新たに作る骨形成と、骨を溶かして壊す骨吸収を行うことで、バランスを保っています。腎機能が悪いとこのバランスが乱れ、骨密度が低下して、骨粗鬆症が進行していくことになります。
骨密度は骨のカルシウムなどミネラルがどの程度あるかを測定しますが、若い人の平均と比べ今の骨密度が何%あるかという値、YAM値を使います。YAM値70%以下が骨粗しょう症と診断されますが、骨折歴があれば、YAM値80%以下とされています。しかし、糖尿病や慢性腎臓病があると、骨密度が正常でも骨質が低下し、骨が弱くなっていて、同じ骨密度でも骨折リスクが高いことがわかってきています。骨質は骨の微細構造や微小骨折の有無などが関係しています。最近では、骨の強度は骨密度70%、骨質30%といわれています。

骨粗鬆症は、骨折しやすい状態ですが、骨折は打撲や転倒で強く骨に刺激を与えた時に起こります。
骨折しやすい所は、大腿骨の付け根(大腿骨頚部骨折)、背骨(脊椎の圧迫骨折)、手首(橈骨遠位端骨折)で、自宅で生活する人の転倒発生率は年10~25%と言われています。

具体的には、
・起きた時、ベッドから降りようとしてしりもちをついた。
・トイレに行くときに、足元がふらついてしりもちをついた。
・家の中で、足の指や膝、腕をドアや家具にぶつけてしまった。
・透析後、家に帰るとき、送迎バスを降りて家に入るときや、家について玄関に入った時に、転倒してしまった。
など、ちょっとした事で骨折になっています。
少しぶつけただけでも、骨にひびがはいっていたり、後日、打撲し弱くなっているところが骨折になったなど、骨粗鬆症は骨折に繋がる可能性が大変高い状態です。ひどい時には、咳をした時や知らない間に疲労骨折を起こすこともあります。(ひびが入った場合でも骨折となります)
骨折となれば、コルセットを使用したり、手術をしたりしますが、安静が必要になったり、体動が制限されたりします。このことで更に、脚や全身の筋力が低下し、転倒のリスクが高まることになります。また、骨が治るのは、他の傷が治る場合に比べて時間がかかります。これらのことを考えると骨粗鬆症状態は骨折を起こしやすく、それが、筋力低下、転倒、骨折と悪循環に繋がる可能性が高いと言えます。

最後に転倒予防には
・スリッパ等は避け、滑りにくい靴を履きましょう。
・ベッドから降りるとき、特に朝の寝起きは、目をしっかり覚ました後、動作をゆっくり行いましょう。
・じゅうたん、カーペットの端がめくれていたり、拠れていたりして段差があるときは、ひっかからないよう注意し、ゆっくりと歩きましょう。
・部屋や玄関をかたづけましょう。
・夜間、トイレに行くときなどは電気をつけて行いましょう。
・骨粗鬆症などの薬は飲み忘れないようにしましょう。

透析患者様は週3日、病院に通院する機会があり、特に透析後は血圧低下やふらつきのため、転倒する可能性が高いです。骨粗鬆症と言われたら、特に打撲や転倒には気をつけるようにしましょう。また、転倒や打撲があれば、早めに受診するようにしましょう。