低血糖発現が少なくて、心血管イベント抑制効果もある注射薬『GLP-1受容体作動薬』

薬剤科

ここ数回は、膠原病、脂質異常症のお話が続きましたが、今回は久々の糖尿病関係のお話です。
では、早速ですが、皆さん『低血糖』とはどんなものかご存知ですか?
それではまず低血糖のお話をしていきましょう。

低血糖って?

低血糖とは、糖尿病の治療を行っている際、血糖値が下がりすぎてしまった状態の事を言います。
一般的には血糖値が70㎎/dL以下の状態になる事を指します。
血糖値が下がりすぎた状態になると、冷や汗や震えが起こったり、さらに血糖値が下がり続けると重症低血糖の状態となり、変な事を言いだしたり、放置すると昏睡状態に陥ってしまいます。
血糖値を下げる薬を使用している状態で、過度な運動療法や食事療法を行ったり、薬の量を間違ってしまった際にも起こります。

ではなぜ低血糖状態になるとこのような自覚症状が出てくるのでしょうか?

低血糖の自覚症状が現れるわけ

脳はブドウ糖を唯一のエネルギー源としているので、血糖値が下がってしまって血中のブドウ糖の量が減ってしまうと正常に働けなくなってしまいます。
ですから身体は、エネルギー不足の危険な状態から大切な脳を守るために危険信号を発して注意を促します。
これが低血糖の自覚症状として現れているのです。

低血糖を起こしすぎるのはあまり良くない・・・

ACCORD試験やADVANCE試験の結果より、重症低血糖を頻繁に起こす事はあまりよくない事がわかりました。
厳格な血糖コントロールを行う事は合併症を予防するためには必要ですが、ひどい低血糖を頻繁に起こしてしまうと良くないのです。

低血糖を出来るだけ起こさないためには

血糖降下作用のある薬を使用している場合は、低血糖が全く起こらないという事はありません。
ですから重症低血糖にならないように、低血糖の知識と低血糖が起きた時の対処方法をしっかりとマスターしておく事が大切です。
実際には、先ほどお話した自覚症状が出てきたら、ブドウ糖もしくは砂糖を摂取して、症状がおさまるまで約15分間安静にします。
ところで、先ほど”血糖降下作用のある薬は低血糖が起こらない事はない”と述べましたが、薬によって起こしやすいものと起こしにくいものがあります。
低血糖を起こさないためには、起こしにくい薬を使用する事も大切です。
その低血糖を起こしにくい薬の一つが、今回のテーマである『GLP-1受容体作動薬』なのです。

それでは、『GLP-1受容体作動薬』についてのお話をしていこうと思いますが、その前に少しだけインクレチンのお話をさせて下さい。

インクレチンって?

十二指腸に食事(栄養素)が入ってくると『K細胞』というセンサー細胞からGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)というホルモンが放出されます。
そしてさらに小腸の下部に達すると『L細胞』と呼ばれる別のセンサー細胞からGLP-1(glucagon-like peptide-1)というホルモンが放出されます。
これら2つのホルモンはインクレチンと呼ばれており、インスリン分泌を促進させる働きがあります。
インクレチンにはGLP-1とGIPが有るのですが、お薬になったのは、GLP-1だけです。
GIPにはグルカゴン分泌を促進する作用があり血糖値が上昇してしまうので残念ながらお薬にはなりませんでした。
ちなみに、2型糖尿病の患者さんは、健康な人に比べてGLP-1の分泌量が少なく、その働きも悪くなっている事が分かっています。
GLP-1の主な作用は、以下の5つです。
①インスリン分泌促進作用(ブドウ糖依存性)→食後血糖降下作用 
※血糖値が低い時はインスリンは分泌されない→低血糖が起こりにくい
②グルカゴン分泌を抑制→空腹時血糖降下作用
③β細胞(インスリンを出す細胞)のアポトーシス(細胞が死ぬ事)抑制や増殖促進→β細胞数の増加作用
④中枢神経系に作用し食欲を抑える→体重減少
⑤胃に作用し胃運動を抑制→体重減少
※食後血糖降下作用と副作用の消化器症状の発現にも関係

GLP-1受容体作動薬とは? ~低血糖を起こしにくく、体重減少効果も期待できる~

このように、低血糖を起こしにくく、体重減少効果もあるGLP-1を糖尿病の治療薬にするためには、ある問題がありました。
このGLP-1は、分泌されると数分でDPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4)という酵素で直ちに分解されてしまうのです。
ですから、DPP-4で分解されにくいように工夫する必要がありました。
そしてまず開発されたのが、エキセナチド(商品名:バイエッタ)でした。
このエキセナチドは、アメリカドクトカゲ(ヒラモンスター:Gilamonster)の唾液中に含まれる化学物質でGLP-1と同様の作用をしますが、DPP-4で分解されません。
その後、エキセナチドが改良されたリキシセナチド(商品名:リキスミア)や週一回製剤ビデュリオンが発売されました。
又、GLP-1の形を少し変えてDPP-4で分解されにくくしたリラグリチド(商品名:ビクトーザ)や週一回投与が可能なデュラグリチド(商品名:トルリシティ)が発売され、現在では5種類の製剤が使用可能です。
そのうち当院ではビクトーザ、リキスミア、トルリシティが採用されています。

5種類のGLP-1受容体作動薬の違い 
~ターゲットとする血糖値が食前か食後か?体重減少の効果と副作用に違いあり~

GLP-1受容体作動薬は、作用持続時間によって大きくshort-actingタイプとlong-actingタイプの2つのグループに分ける事が出来ます。
まずshort-actingタイプに分類されるのは、バイエッタとリキスミアです。
これら2つは、食前血糖値よりも食後血糖値の方がよく下がります。
体重減少効果も高いのですが、消化器症状の副作用が多いのが特徴です。
一方long-actingタイプに分類されるのは、ビクトーザとビデュリオンとトルリシティです。
これらは、1日の血糖値を満遍なく下げてくれるのが特徴です。
しかし体重減少作用はそれほど期待できません。(ビデュリオンは体重減少効果もあります。)
その代わり消化器症状の副作用は少ないです。
成分でグループ分けした場合は、エキセナチドを元に作られたもの(バイエッタ、リキスミア、ビデュリオン)と、GLP-1の形を少し変えて作られたもの(ビクトーザ、トルリシティ)の2つに分類する事ができます。
一般的に、エキセナチドを元に作られたものは、体重減少効果が高い代わりに消化器症状の副作用が多く発現します。
一方GLP-1の形を少し変えて作られたものは、体重減少効果はあまり期待できませんが、消化器症状の副作用はあまり発現しません。

GLP-1受容体作動薬の適応と各製剤の使い分け ~週1回投与で良い製剤もあります~

基本的に単独投与では低血糖の副作用は殆ど起こらないので、特に低血糖を起こさせたくない患者さんには使用すべきです。
ですから、高齢者や、車の運転を職業にしている患者さんには良いと思います。
さらに詳しく使い分けるとしたら、体重を特に減らしたい場合は、バイエッタ、リキスミア、ビデュリオン、満遍なく血糖値を下げたい場合は、ビクトーザ、トルリシティが適していると思います。
また自己注射の手技に問題がある場合は、週1回製剤のビデュリオン、トルリシティが良いでしょう。
ただしどの薬剤を使用する場合でも、注射薬での治療を受け入れている患者さんでないとダメですけどね。

GLP-1受容体作動薬の今後は?

2016年のアメリカ糖尿病学会で、リラグリチドには心血管イベントの抑制効果がある事が発表(LEADER試験)されてからは、GLP-1受容体作動薬は糖尿病の分野だけではなく循環器の分野でも注目を浴びています。
私自身もGLP-1受容体作動薬の今後に注目しています。

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