A型インフルエンザ治療薬アマンタジンの側面 ~ くすり小話 ~

薬剤科

冬が近づき、今シーズンもインフルエンザが猛威を振るうのだろうかと心配に思われているのではないでしょうか。
そろそろ予防接種を受けておこうかと考え始める時期かもしれません。
たとえ様々な対策を講じていたとしても、インフルエンザに感染する可能性はゼロではありません。
インフルエンザ治療で処方される薬として、オセルタミビル(タミフル®)を真っ先にイメージする方が多いかもしれませんが、今回はアマンタジンを中心に取り上げたいと思います。
まずは、抗インフルエンザ薬について整理してみましょう。

抗インフルエンザ薬 ~ タイプ別まとめ ~

(1)ノイラミニダーゼ阻害薬
・オセルタミビル(タミフル®)…内服
・ペラミビル(ラピアクタ®)…点滴静注
・ザナミビル(リレンザ®)…吸入
・ラニナミビル(イナビル®)…吸入
⇒A 型及びB 型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼを特異的に阻害し、宿主細胞からの遊離を抑制することにより、ウイルスが別の細胞へ拡散することを防ぎ、結果的にウイルス増殖を抑えます。

(2)M2蛋白阻害薬
・アマンタジン(シンメトレル®)…内服
⇒インフルエンザウイルスA型に存在し、脱殻に関与するM2チャネルを阻害して、リボヌクレオプロテインの遊離、細胞核への取り込みを阻止します。
脱殻を阻止されたウイルスは増殖することができなくなります。
A型インフルエンザウイルスの複製を初期段階で阻害しますが、B型インフルエンザウイルスには無効です。

(3)RNAポリメラーゼ阻害薬
・ファビピラビル(アビガン®)…内服
⇒RNAポリメラーゼを阻害して核内でのウイルスRNA合成を阻害し、インフルエンザウイルスの増殖を抑制します。
他の抗インフルエンザ薬が無効又は効果不十分な新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、緊急事態であると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討されます。

(4)キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬
・バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ®)…内服
⇒インフルエンザウイルス特有の酵素であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼの活性を選択的に阻害し、ウイルスのmRNA合成を阻害することでインフルエンザウイルスの増殖を抑制します。
A型及びB型インフルエンザウイルス感染症患者に対して単回経口投与で有効性が期待できます。

インフルエンザ治療 ~ ノイラミニダーゼ阻害薬の主流化に影を潜めるアマンタジン ~

作用機序別に抗インフルエンザ薬を紹介しました。
重症度や肺炎合併の有無、年齢等の患者背景を考慮して適切な薬剤が選択されます。
患者の状態に応じて入院治療か外来治療か選択されますが、治療の中心はノイラミニダーゼ阻害薬の投与となります。
ノイラミニダーゼ阻害薬の投与は、発症よりできるだけ早期(48 時間以内)に開始することが推奨されています。
多くの場合はオセルタミビルやラニナミビルあるいはザナミビルの使用が考慮されます。
ラニナミビルは1回で治療が完結する吸入薬であり、医療機関で吸入することにより確実なコンプライアンスが得られると期待されています。
経口や吸入が困難な場合には、ペラミビルの点滴による治療が選択される場合もあります。

しかし、近年懸念されているのは、ノイラミニダーゼ阻害薬耐性化ウイルス出現の問題です。
新規に開発されたファビピラビルは RNA ポリメラーゼ阻害作用があり、ノイラミニダーゼ阻害薬耐性となったインフルエンザにも効果が期待できますが、副作用(特に催奇形性)の為にその使用には厳しい制限が設けられています。
先駆け審査指定制度対象となり、2018年3月より発売されたインフルエンザの新薬バロキサビル マルボキシル。
この薬剤はウイルスの増殖を抑える新規の作用機序を持っており、1回服用すればいいという簡便さも利点です。
今シーズンどれだけ活躍するかが期待されています。

前述で抗インフルエンザ薬を列挙しましたが、今のところ臨床現場において処方が多いのはノイラミニダーゼ阻害薬でしょう。
アマンタジンはA型インフルエンザにしか効果がなく、耐性の問題もあることから、近年ではインフルエンザ治療としての使用は推奨されていません。
「あまり必要とされてない薬」と思われるでしょうか?
実はこのアマンタジンには別の適応もあるのです。

アマンタジンの裏話 ~ 抗インフルエンザ作用以外の効果 ~

A型インフルエンザウイルスに対し選択的に増殖を抑制することが発見されたアマンタジンは、1959年米国において抗ウイルス剤として合成開発され、1967年より発売されました。
1968年、パーキンソン病患者の婦人にアマンタジンが投与された際、パーキンソン症候の著しい改善効果が見られたことから抗パーキンソン病薬としても使用されるようになりました。
日本国内では抗パ-キンソン病薬として1975年に発売されました。
その後、脳器質障害に伴う精神神経障害に対し有効であることが発見され、体系的な臨床試験が行われた結果、脳梗塞に伴う意欲・自発性低下の改善効果が確認され、効能・効果が追加承認されました。

このように、アマンタジンはA型インフルエンザウイルスに対する作用だけでなく、精神活動改善作用、抗パーキンソン作用も持ち合わせています。
インフルエンザとは全く別の領域の疾患にも効果が期待できるのです。
さらに、保険適応外使用にはなりますが、アマンタジンは誤嚥性肺炎予防に用いられることもあります。
嚥下と咳の反射を司っている神経伝達物質はドパミンとサブスタンスPです。
嚥下反射や咳反射が鈍ると誤嚥を起こしやすくなります。
ドパミンやサブスタンスPを増やす、あるいは分解を抑制するなら、嚥下と咳の反射を改善させ、誤嚥性肺炎の予防につながると言われています。
脳内でのドパミン遊離を促進するアマンタジンは、高齢者の嚥下機能改善により肺炎の発症を抑える効果があるとされています。

新たな価値を見出された薬剤 ~ 薬の可能性 ~

アマンタジン以外にも、全く別の疾患に使用されるようになった薬剤はいくつかあります。
例えば、アザラシ肢症の薬害でも有名なサリドマイド。
発売当初は睡眠薬・胃腸薬として使われていましたが、薬害にて販売停止となりました。
しかし近年、多発性骨髄腫や骨髄異形成症候群の治療薬として、サリドマイド誘導体のレナリドミド(レブラミド®)が用いられています。
このように、元々の開発経緯とは全く異なる分野の治療に役立てられる薬剤もあるのです。

今回は抗インフルエンザ薬の中から、アマンタジンの側面についても取り上げました。
歴史的に少し古いと思える薬剤であっても、新たな効能が追加されるなどして利用価値が高い薬剤もあります。
ちょっと裏話を聞くだけでも、また違った目線で薬を知ることができるかもしれませんね。

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