かれいに年を取る

「もう嬉しないわ~。歳は忘れることにしてんねん。顔も体もシワだらけ、手足もこんなに細なって・・・。」

足の骨折で入院されリハビリ期間中に誕生日を迎えられた、私が担当している患者のおばあさんがリハビリ中におっしゃった言葉です。
人は誰でも1年に1歳、年を取る。
生まれたての赤ちゃんも、お年寄りも、大金持ちも、超一流のアスリートも、私たちも、みんな平等に。
常識ではありますが、これを書いている私も“アラサー”と言われる年代となり、毎年やってくる誕生日を素直に喜べなくなっています。
今回のリハビリテーション科の記事では、そんな加齢によって身体にどのような変化が起こるのかについてのお話をさせて頂こうと思います。

加齢により、身体の器官を構成している細胞数の減少、細胞の働きの低下、水分量の減少などによって、脳や心臓、骨、筋など各種臓器の機能低下が起こります。
また、回復力や予備力、防御力そして適応力の低下により、病気にかかりやすく治りにくいということにもなります。
加齢による変化としては、大きく分けて以下のようなものが挙げられます。

・運動機能の低下
・感覚機能の低下
・神経機能の低下
・呼吸機能の低下
・循環機能の低下
・消化、吸収機能の低下
・排泄機能の低下
・免疫機能の低下
・造血機能の低下
・性機能の低下       など

この他にも、挙げるとキリがないほどありますが、今回は特にリハビリ・運動療法と関係の深い、“筋肉”に焦点をあてたいと思います。

加齢より、筋肉を構成する筋繊維の数の減少、筋繊維そのものの萎縮、柔軟性の低下などによって筋力低下が起こります。
個人差はありますが、筋力は20~30代で最大となり、それ以降は徐々に低下していき、80歳までに30~40%低下すると言われています。
加えて、速筋繊維の筋萎縮が顕著で、持久力は瞬発力に比べてやや遅れて低下する傾向にあります。
また、男性に比べて女性の方が早期に筋力が低下する傾向にあります。
こう言われると、「もう歳だし、弱るのは当たり前・・・。」と考えてしまいそうですが、先ほども述べたように、筋力低下には個人差があります。
たとえ高齢の方であっても筋力トレーニングによって筋力強化は可能なのです。
90歳代の超高齢者を対象とした研究において、8週間の筋力トレーニングの結果、大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)の筋力が約2倍に増加し、筋断面積が約11%増大することが確認されています。
高齢者の筋力トレーニングによる効果については、筋力増強・筋肥大の他にも、以下のような効果が期待できます。
  
・筋量、筋力の増強
・関節可動域の増加
・骨密度の増加
・有酸素能力の向上
・歩行速度、安定性の向上
・バランス能力の改善
・身体的活動レベルの増加
・機能的自立度の改善  
・エネルギー消費の増加
・抑うつ症状の改善
・食欲増加
・睡眠の改善
・インスリン感受性の増加
・肥満改善、内臓脂肪の減少  など

こちらも挙げるとキリがないほどありますね。
では、どのような運動を行ったら良いのでしょうか。
自分でできる筋力トレーニングをいくつか紹介したいと思います。

<立ち上がり>

<かかと上げ>

<片足立ち>

※息は止めず、ゆっくりと呼吸しながら運動しましょう。声を出して回数・秒数をカウントしながら行うと良いでしょう。
※運動の強度としては、1セット10~20回、“ややきつい”程度とし、無理はせず、痛みのない範囲、次の日に疲れが残らない程度としましょう。
※運動の頻度としては、週2~3日を目安に行いましょう。1日あたりの運動量は少なくても、継続して行うことが重要です。

これに加えて、ウォーキングや階段昇降などの有酸素運動も有効です。
最初は5分程度から開始し、自身の体調に合わせ、20分以上の連続歩行を目標に行いましょう。
また、料理や掃除、洗濯など日々の家事を行うことでも有酸素運動になりますので、積極的に行いましょう。

さて、今回の記事では、加齢による変化、特に筋肉についてのお話をさせて頂きました。
人は誰でも1年に1歳、年を取る。
ならば、ネガティブにとらえるばかりではなく、いつまでも健康で、できるだけ前向きに、“かれい”に年を取りたいものですね。

ちなみに、冒頭に出てきたおばあさんはというと・・・
杖をつけば屋外も一人で歩けるようになられ、リハビリを終え、先日自宅へ退院されました。
「また会いに来るわな~(顔には笑いジワたっぷりで)。」