みんなで支える在宅療養~チームケア(多職種連携)の重要性~

私達訪問看護師の役割は、療養中の利用者様のご自宅へ訪問し、健康状態の観察や服薬管理、日常生活の援助、医療処置や医療機器の管理、療養相談及び指導などを行います。
訪問看護師以外にも、医師・薬剤師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・ケアマネジャー・医療ソーシャルワーカー・ヘルパー・管理栄養士等、多くの専門職が在宅療養者様と関わります。
訪問看護師は、在宅療養者様が住み慣れた地域やご自宅で療養生活をしながら、その人らしく安心して生活できるよう支援します。そこで重要なのは「チームケア(多職種連携)」です。今回は、当訪問看護ステーションのある利用者さんご夫婦との関わりを通じ、どのようなチームケアが行われているのかご紹介したいと思います。

~Aさんご夫婦の背景~

・奥様(84歳)
疾患名:パーキンソン病(50歳頃)、大腸癌、人工肛門造設術(69歳)
8年前、食事量低下に伴い体重減少がみられたため、食道瘻(P-TEG)を造設されました。
退院後は在宅療養を希望され、ご主人と2人で生活されています。要介護5の認定あり。
現在寝たきりとなっておられますが、声かけをすると、時折お返事や笑顔を見せて下さることもあります。その瞬間は、ご主人も訪問看護師も自然と笑顔になります。

・ご主人(83歳)
疾患名:高血圧、認知症、大腸癌術後、パーキンソン病(今年7月診断)
要介護2の介護認定を受けており、週2回のデイサービスと訪問看護、週6回のヘルパーサービスを受けておられます。以前より右手の振戦が持続しており、倦怠感・下肢筋力低下もみられることから主治医の紹介で神経内科を受診され、今年の7月パーキンソン病と診断を受けておられます。
自営でケーキ屋を営まれていましたが、高齢となり現在は長男さんが後を継いでおられます。
奥様が自宅での療養を望まれ、ご主人はその想いを叶える為、人工肛門や経管栄養の管理、吸引方法について看護師より指導を受けられたそうです。ご主人も高齢となり、現在は訪問看護師が行っていますが、夜間咳や痰を鎮める薬を食道瘻より最近まではほぼ毎日注入して下さっていました。奥様が少しでも安楽に過ごせるようにいつも気にかけておられ、深い愛情を感じます。

・ご家族様
Aさんご夫婦には、2人の息子さんがいらっしゃいます。長男さんは自営のケーキ屋を継がれ、毎日忙しく働いていらっしゃいますが、受診や入退院の際などは可能な範囲でご協力頂いています。
次男さんは遠方にお住いの為、ご夫婦のキーパーソンは長男さんです。

~Aさん夫婦を支える専門職のチームの関わり~

・医師
奥様の主治医はパーキンソン病を診てもらっている神経内科医で、2か月に1回定期受診し、検査や内服の処方をして頂いています。また、消化器内科で2か月に1回食道瘻のチューブ交換を行っています。さらに、自宅近くの病院の医師(ご主人の主治医)が2~3週間毎に訪問診療に来て下さっています。奥様にとって大切な栄養剤や軟膏類の処方をしてもらっています。ご主人は、血圧の薬や眠剤・排便コントロールのための内服薬を主に処方してもらっています。またご夫婦の体調に変化がある際は連携し、必要な時はすぐ往診して頂いています。また、ご主人は7月にパーキンソン病と診断され、1ヵ月に1回神経内科に定期受診されています。いつも連携できる医師が近隣に居て下さり、大変心強いです。

・ケアマネジャー(介護支援専門員)
介護を必要とする方やそのご家族が抱える問題を把握し、介護サービスを利用する為の「居宅サービス計画書(ケアプラン)」の作成をします。居宅サービス計画書を作成するにはどんなサービスの利用を希望しているのかを把握し、目標を設定しその目標を達成する為にどのようなサービスを利用したらよいのか提案する、介護保険のスペシャリストです。
Aさんご夫婦は多くの職種(9職種)が関わっています。ケアマネジャーはその全ての事業所サービスの調整(奥様は医療・介護・障害者保険すべてを使ったサービスを受けています)や連絡、各書類の申請手続き、福祉用具・オムツ申請時の業者への連絡、ご家族への連絡など、その仕事内容は多岐にわたります。

・訪問入浴
奥様の訪問入浴を行って頂いています。以前は、訪問看護師2人でシャワー浴を行っていましたが、日常生活動作の低下に伴い、現在は週2回訪問入浴を利用されています。市営住宅の9FがAさんのご自宅で、2分割にできる浴槽や必要物品を、エレベーターで運搬します。訪問入浴は3人体制(うち1人が看護師)で行うので、安全に入浴することができます。入浴剤入りの湯船にゆっくり浸かることができるので、訪問入浴中の奥様はとても穏やかな表情で全身の力も抜け、リラックスしておられます。お風呂上りの少し赤らんだ頬を見るたび、こちらもほっこりした気持ちになります。

・訪問介護(ヘルパー)
ヘルパーサービスを利用されている方のほとんどは、1か所のヘルパー事業所からサービスに入っていますが、Aさんご夫婦の場合は、月~日曜日まで毎日2~3回/日の訪問が必要で、1か所の事業所ではまかなえない為、3か所の事業所からサービスに入って下さっています。お二人のサービス内容としては、洗濯・掃除・買い物・食事の準備片付け・デイサービスの準備・奥様のオムツ交換・体位変換・人工肛門の袋に溜った便出しなど、様々なことに関わっていただいています。
また、医療的ケア(吸引・経管栄養)を行うことができるヘルパーさんが3名いらっしゃいます。一定の研修課程を修了した介護職員が行えるようになりますが、対象の利用者さんのご自宅で実地研修を行い合格すれば、そのご利用者さんに医療的ケアを行うことができるようになります。奥様にとって痰の吸引・経管栄養は生命に関わる程重要なことです。1人でも多くの人が医療的ケアを行えるということは、ご本人・ご家族様や訪問看護師にとっても心強い存在です。

・薬剤師
神経内科や訪問診療で処方された内服薬・栄養剤・軟膏類は自宅近くの薬局より配薬サービスを利用し、自宅まで配薬して下さいます。処方して頂いた内服薬・栄養剤・軟膏類があることで、安定した状態を保つことができているので、薬剤師と連携しそれらを切らすことがないよう注意しています。急ぎで薬が必要な際など連携させて頂くことが多いですが、いつも快く対応して下さり大変助かっています。

・福祉用具担当者
Aさんご夫婦は下記の福祉用具を使用されています。使用している福祉用具の交換の際、ケアマネジャーを通じ連携させて頂いています。Aさんご夫婦が状態の維持・悪化を予防し、安心して在宅生活を送ることができるのは、これらの福祉用具が備わっているからこそだと思います。

<ご主人の使っている福祉用具>
・室外用歩行器→下肢筋力低下がみられるため、転倒予防に歩行器を使用されています。疲れた時は座る事もでき、外出時の強い味方です。
・リハビリパンツ→最初は使用するのに抵抗があったオムツですが、リハビリパンツを着用することにより「安心して外出できるようになった」と話されています。

<奥様が使っている福祉用具>
・ベッド、高機能マット、クッション(バナナ・スネイク)、スライディングシート→寝たきりで皮膚トラブルを起こすリスクが高いですが、これらの福祉用具を使用することにより皮膚状態の悪化を予防しています。スライディングシートを体の下に敷いて使用することにより、1人でも体位変換などを容易に行うことができます。またギャッチアップ時の座位保持のため、バナナクッションやスネイククッションが大活躍です。
・リクライニング式車椅子、車椅子用クッション→デイサービス・2か月に1回の受診の際、利用されています。リクライニング式なので、受診が長時間になっても、ご本人の負担を軽減することができます。また車椅子クッションは備え付けの物ではなく、ジェル状のクッションを使用することで皮膚トラブルを予防しています。
・オムツ→テープ式のオムツと尿とりパット(昼用・夜用)を使用されています。日中はヘルパーや看護師が訪問時にオムツを交換するため小さめの尿とりパットを使用していますが、夜は吸収率の高いパットを使用し、尿漏れを予防しています。

・デイサービス
奥様は週1回日曜日デイサービスに通所され、入浴、ストマのパウチ交換、栄養剤・内服の注入、リハビリ・リラクゼーションを行っています。週6日間は自宅のベッドで過ごされていますが、週1回の外出は気分転換やご主人の休息の時間にも繋がります。毎日栄養剤の注入や吸引が必要な奥様。もちろん年末年始も例外ではありません。年末年始(大晦日・お正月の三が日)も通常通りデイサービスの利用ができます。ご主人は奥様と別のデイサービスで、リハビリ特化型のデイサービスに週2回通所されています。リハビリを行った後での入浴は爽快感が得られ、気分転換にもつながります。また介助で入浴できるので安全に入ることができ、ご本人の安心感も得られます。

・介護タクシー担当者
奥様は2か月に1回食道瘻のチューブ交換と神経内科の受診に通院されています。2年程前まではご主人も付き添って通院されていました。しかしご主人も高齢となり負担も大きいことから現在は介護タクシーの担当者2名で通院介助を行っています。担当の方はご主人に「ゆっくり休んでいて下さいね。」と優しく声を掛けて下さり、ご主人も大変安心されています。今後も欠かす事のできない食道瘻チューブ交換・神経内科受診ですが、ご家族様の介護負担の軽減となっています。介護タクシーの担当者さんとAさんご夫婦との関わりは通院時のみなので、状態に変化がある時や必要な情報は訪問看護師から伝達するよう心がけています。

・訪問看護師
月~土曜日まで3回/日(土曜日と病院受診日は2回/日)訪問し、状態観察、オムツ交換、経管栄養、食道瘻・人工肛門・服薬管理、吸引、清潔ケアなどを行っています。状態の変化があれば、医師・ケアマネジャーに適宜連携しています。またご自宅の介護ノートで日々多職種と連携を図り、情報共有に努めています。ご主人が1日のスケジュールを把握しやすいよう、訪問看護師の案で手作りカレンダーを作成しました。このカレンダーはご主人だけでなく、多職種間でも把握できるものとなっています。訪問看護利用者さんの多くは2~3名の看護師が交代で訪問に伺っていますが、Aさんご夫婦は訪問回数が多いので、みどり訪問看護ステーションの看護師全員が訪問できる体制をとっています。多職種との連携はもちろん、看護師間での連携も密に行い、状態に合わせて流動的にケアの変更を行っています。看護師1人1人の意見やアドバイスは大変重要で、日々のミーティングでも話し合い、一貫したケアができるよう心がけています。

その他に・・・
奥様は人工肛門(ストマ)で便を溜めておく袋を装着されています。ストマの必要物品は、半年に1回申請手続きを行います。奥様は身体障害者の認定を受けていらっしゃるので、役所で申請手続きを行い、支給額が決定し、その支給額の範囲内であればご負担なく必要な物品を支給して頂けます。ストマやその周囲の皮膚状態に合わせ、物品の変更など適宜行っています。

~私たちは一人一人の在宅療養者様をこれからも地域のチームで支えていきます~

Aさんご夫婦の多職種連携で心がけているのは、日々の連携はご自宅の介護ノートで行っていますが、チーム皆で情報共有した方が良い場合は、ケアマネジャーを中心に多職種連携しています。また、連携するに当たり、ご本人はもちろん、ご家族の気持ちも十分に考えるようにしています。
どの専門職の方々もAさんご夫婦にとってかけがえのない存在です。またAさんご夫婦と同様に訪問看護師にとっても、多職種の存在は大変心強いと日々感じています。Aさんご夫婦のように、多くのサービスを受けている方もいらっしゃいますが、介護度・サービスの内容に関係なく、チームケアは大変重要です。各事業所様と連携する機会も多いですが、いつも快く対応して下さっています。その根底にあるのは、やはり在宅療養者さんが住み慣れた環境で、いつまでもその人らしく療養生活を送って頂きたいと願っているからこそだと思っています。これからも皆様が安心して療養生活を送って頂くことができるよう、チーム一丸となって支援していきたいと思っています。