お話し好きなTさんのこと。「なんやったかいなあ、忘れたわぁ、うふふ」

「四国から来られたTさん(女性82歳)」

Tさんは平成30年4月から希の丘で暮らされています。
それまでは香川県高松市の施設で2年余りを過ごされていました。
前の施設ではそこでの生活に慣れるまで時間がかかったそうですが食事の席が隣になったKさんと話が弾み、同郷だったこともあり仲良くなりだんだんと施設に馴染まれたそうです。
Kさんとはどこに行くのも一緒、お風呂も一緒に入るくらい仲良しになられたそうです。

「娘さんの想い」

娘さんが希の丘に入居の相談にこられたのが平成29年9月末。
家族で相談に来られました。
小さなお子さん2人を連れられ心配そうにお母さんのことをお話に来られました。
現在入居されている施設では仲のよい友人が出来たのでその方と離れてしまうのは「母にとってすごく寂しいことになってしまうのではないか」という心配な気持ちの反面、自分がまめに会いに行けないもどかしさとの狭間で悩まれていました。
でも「母にきちんと話して納得して神戸に来てほしい、自分の近くに来てくれたらいつでも会いに行ける、自分を頼ってくれる母の力になりたいから」と施設の写真を撮られ「母に見せてしっかり話します」と言われ施設を後にされました。

「Tさんと親友Kさん」

平成30年4月の初め、私たちはTさんに会いに四国高松に行きました。
初めてお会いしたTさんは私たちを満面の笑みで迎えてくださいました。
Tさんの隣にはこちらも笑顔の素敵なKさんが座っておられました。
「神戸から来ました。娘さんに聞いてTさんに会いに来ました」と話して、「あとしばらくしたら神戸の娘さんの近くに来られる予定です」と伝えました。
Tさんは娘さんから聞いて神戸に行くことは納得されている様子でした。
色々お話をした後「せっかく四国に来たのでうどんを食べて帰りたいと思います。
どこかお勧めのお店を教えてください」と話して教えていただきました。
四国からの帰り道は所どころ桜の花が満開に咲いていて、2週間後のTさんとの再会を楽しみに神戸に帰ってきました。

「そろそろ帰ります」

4月末、Tさんは希の丘に入居されました。
娘さんや息子さんと一緒に来られたTさんは少し緊張された様子と同時に少し寂しそうでした。
無理もないですね、いつも隣にいらしたKさんが居ないんですもの。
そんなTさんを心配した娘さんは毎日仕事帰りにTさんに会いに来られ冗談を言って楽しい会話をして帰られました。
可愛いお孫さんも連れてこられTさんが少しでも寂しくないように通ってくださいました。
それでも入居当時は夕方になると「そろそろ帰ります」とシルバーカーを押し玄関に向かわれるTさんを毎日見かけました。
そんなTさんにわたしたちはTさんがここに来た経緯やご自身で決めてここに来られたことなどを丁寧に説明させていただきました。
時にはバス停まで一緒に歩きました。

「新しい友人」

Tさんが入居されてから半年を過ぎたころには夕方の「帰ります」という声は減ってきたようでした。
夜眠る前には隣の部屋のKさんとお互いの部屋を行き来してしばしの女子トークをされています。
そしてどちらか眠くなった人に合わせて「おやすみ」と各部屋に戻られます。
色々話ができる友人ができTさんも安心されたようです。
友の力は偉大だと痛感しました。
Tさんのお部屋にはたくさんの写真があります。
娘さんやお孫さんと一緒に写った写真や以前の親友との写真を時々懐かしそうに眺めておられます。
ここに来られてから写した写真やご自身で描かれた絵手紙も飾ってあります。
お部屋で眺めておられるTさんの顔は穏やかです。

「うふふふ」

ここでの暮らしも9か月が過ぎようとしていますが時々「姉ちゃん、私帰ろうと思うんやけどバス停はどういったらええん?」と聞かれることがあります。
色々お話をしていくうちにTさんは「あれ?何やったかな?忘れたわ」と言って笑顔で「うふふ」と笑われます。
寒い冬が過ぎたら桜の季節になります。
わたしたちはTさんと桜を見に出かけてTさんに神戸の桜を好きになっていただきたいです。