透析患者さん!そのかゆみあきらめないで

透析患者さんの中に全身、または部分的なかゆみを訴える患者さんが多くいらっしゃいます。
特に透析中は4時間もの長い間、片方の腕が透析機器とチューブでつながり、自由がきかない状態での背中のかゆみや手の届かない箇所のかゆみは特に耐え難いものとなります。
体が温まるとかゆみがさらにひどくなるようで、「昨日も夜中、布団で温まったら痒くなって全然眠れなかったわ…」「看護婦さんすみません、背中掻いてください!…もっと!全体的に!…もっと!爪立てていいから!」などなど、患者さんの切実な訴えを耳にします。
中にはあまりのかゆさに耐えられず皮膚を掻き壊すまで掻いてしまう患者さんもいらっしゃる程です。

もう一度、かゆみへの対策を見直してみませんか?

そこで今回は透析患者さんの皮膚の特徴、かゆみの原因から対策について紹介したいと思います。
まず、皮膚には

1.水分の喪失・透過を防ぐ
2.体温の調節
3.微生物、物理・化学的な刺激から生体を守る
4.感覚器としての役割

以上がありますが、皮膚の最大の機能は「皮膚のバリア機能」です。

これは皮膚の構造上、一番上層にある表皮が担っています。
さらにもっとも外側の角質層では、天然保湿因子(NMF)、セラミド、皮脂膜がこの角質層の水分を保持し潤いを保っています。
この角質層が外部からの刺激(アレルゲン・微生物・化学物質・紫外線など)をブロックします。
そして体の中からの水分ものがさないように皮膚表面を覆っているのです。

角質層が断裂するとその隙間に外からの刺激が入り込みます。
そして体の中の水分も体の外へ出てしまい皮膚の乾燥につながります。

透析患者さんに特徴的な皮膚障害には、

1.皮脂欠乏症→皮膚の脂分が少なくなり、水分が失われ乾燥を起こす状態で主に下半身に好発します。
2.皮膚掻痒症→皮膚にはっきりとした発疹はないものの、かゆみのある状態です。
3.皮膚裂傷→摩擦やずれによって皮膚が裂けてできる表皮のさらに下(真皮)の損傷です。
4.シャント部湿疹→シャント部である前腕内側は皮膚が特に薄く角質層が10~15層程度とされています。(手のひらや足の裏は約50層)透析患者さんは、透析日毎に消毒・穿刺・テープ固定と化学的・物理的刺激、剥離刺激を受け続けている状態にあります。

そして透析患者さんの皮膚の特徴には、

1.汗が少なくなり、皮膚が乾燥しやすい
2.皮膚掻痒症により擦過傷ができやすい
3.透析ごとに消毒や穿刺、テープ固定などの刺激を常にうけている

など、これらの特徴から皮膚のバリア機能が働かずに皮膚炎・組織損傷・細菌感染が起こってきます。こうならないためにも皮膚のバリア機能を維持するために潤いのある皮膚を目指すスキンケアが必要です!

スキンケアは、洗浄+保湿・保護を正しく行うことが何といっても重要です!

洗浄方法→皮膚のバリア機能を担う角質層を守り、ターンオーバーを整える!

・皮脂膜と同じ弱酸性の泡洗浄剤を使いましょう
・擦らずに泡を押さえるようにして洗浄しましょう←ナイロンタオルなどでゴシゴシ擦らない、素手でやさしく洗いましょう!
・洗浄剤を使うのは1回/日程度←多いと保湿因子が流れてしまいます
・湯温は40度以下で。←高くなると皮脂膜を流してしまいます

使用する洗浄剤は、普通石鹸・一般的なボディーソープではアルカリ性のものが多く、皮膚の乾燥を招いてしまいます。
泡タイプの弱酸性ボディーソープや乳幼児用ベビー石鹸が適しています。(新生児用のものは皮脂や汗の分泌の多い新生児のために作られたものであり強アルカリ性のため適しません。)

洗浄した後は保湿・保護をしっかりとしましょう!

当院で処方している保湿剤にはこのようなものがあります。

尿素系・ヘパリン類似物質系の軟膏→角質層に水分を送り込み、皮膚が柔軟で滑らかになる効果があります。 
*ウレパール・ケラチナミン・ヒルドイドなど
ワセリン系の軟膏→皮膚表面に脂の膜を作り、皮膚からの水分が出ていくことを遮ることによって角質層の水分を保持します。
*白色ワセリン
内服薬:アレグラ・セレスタなど
他には、止痒水・NS軟膏なども即効性があります。
保湿剤の塗り方にも注意してみましょう

・入浴後角質層の細胞の結合が緩んでいる10分以内に保湿剤を塗布することで皮膚からの吸収を高めます
・生活リズムに合わせ、朝、夕の着替えの時など2回/日
・ティッシュが皮膚に付着する程度に塗布する。

いかがでしたか、皮膚のかゆみは個人的な感覚でありなかなか人には伝えきれず、辛い思いをされている方も多いと思います。
まずは、普段使っている石鹸や軟膏の塗布の仕方を参考にしてみて下さい。
保湿入浴剤もおすすめです、ぜひ試してみて下さいね。