肌と肌の触れ合いで癒せる心と身体~訪問看護とアロマセラピー~

<アロマとは>

みなさんはアロマ、アロマセラピーと聞いて何をイメージするでしょうか。
いい香り、おしゃれ、癒される、贅沢、優雅、洗濯柔軟剤…
認知度は高くなっていますが、理解されている人はまだまだ少ないように思います。

アロマセラピーが日本で広まったのは比較的最近で、1990年代前後。専門誌が創刊されるなど、急速に普及するようになります。
経済への不安や1995年に阪神大震災が起こり、日本中が「癒し」に対して関心が高まっていたことも影響しました。

<アロマとの出会い>

私がアロマと出会ったのは、15年以上前、ホスピス病棟で働いていた頃でした。
月に1回セラピストの方がボランティアとして、患者さまの足浴とアロマオイルを使用し、主に下肢のマッサージを行ってくれていました。
患者さま、ご家族さまにはとても好評で、ほとんどの患者さまがアロママッサージを希望され、施術を受け、とてもいいお顔になっておられました。
どの患者さまも身体的にも、精神的にもつらい状況にあり、医療だけではなかなか取り切ることのできない苦痛と日々戦っておられるのを看護師として身近に見て、感じていたので、アロマの力に驚き、関心を抱くようになりました。
月に1回、アロマボランティアの活動日に勤務だった時はアロマのいい香りに癒され、私もほっこりしていたのを思い出します。

その後、時は流れ、在宅での看取りが比較的多い、須磨区の訪問看護ステーションで働くようになりました。
そこで再び、アロマとの出会いがありました。
先輩の訪問看護師がアロマを取り入れ、症状緩和に努めていたのです。
がんの患者さまは痛みのある方も多く、医療用の麻薬を使用し、痛みのコントロールを行っている方も少なくありません。薬であるため、副作用もあり、便秘には注意が必要です。
その患者さまも痛みがあり、医療用の麻薬を使用していました。
先輩看護師の訪問に同行することになり、訪問すると、痛みは緩和されていましたが、3.4日排便がみられていないということでした。
緩下剤も服用していましたが、なかなか排便がみられず、ご本人もつらそうでした。
病状が進み、ほとんどベッド上での生活となっていたため、ご家族の方も心配そうにされていました。
先輩看護師はオレンジの精油を使い、ゆっくりとお腹のマッサージを行っていきました。
マッサージを行いながら、症状を聞き、緩下剤の調整を行い、また、ご家族のお話も聴き、今、何に不安を持っているのか、探っておられました。
オレンジの精油のいい香りと、お腹をマッサージしてもらっているというタッチングの効果もあり、ご本人はウトウトとされ、ご家族も安心したお顔になっていました。
病状が進み、毎日訪問となっており、次の日は私が1人で訪問しました。
「昨日の夜に便が出たのよ」とご本人もご家族もうれしそうに報告して下さり、アロマだけの効果ではないかもしれませんが、アロマの力にとても衝撃を受け、いつか、自分もアロマを学びたいと思うようになりました。

その頃、本屋さんに行くと、自然とアロマについて書いてある本を手に取るようになり、一冊の本、「香りとタッチングで患者を癒す 臨床アロマセラピストになる―命のそばで寄り添うケアリングとは」相原 由花 著に出会い、感銘を受け、アロマを学ぶことが、漠然ではなく、目標となりました。

<看護師・訪問看護師としての学び、そしてアロマへの第一歩>

結婚や転職、そして出産や子育て‥
訪問看護を続ける中で、子供に「どうしてお母さんは働いているの?」と聞かれることがよくあります。
そんな時は「お母さんは看護師の仕事が好きで働いているのよ」と答えています。
私から訪問看護師という仕事をなくしても私なのですが、私が私ではなくなるような…そんな感覚があります。
患者さまやご家族を通して自分自身が学び、成長させてもらっていることを実感しているからだと思います。
ホスピスで働きたいと思った頃は、家で母を看取り、その経験が患者さまやご家族を支える大きな力になると思っていました。
しかし、ホスピスでのケアはそんな甘い物ではなく、痛みやだるさと戦っている患者さま、どうしてこんな病気になってしまったのだろうと悩んでいる患者さま、死の恐怖と戦っている患者さまや共にいるご家族をどう支えていけばいいのか分らず、毎日毎日「これで良かったのか」と悩み、自分の無力さを感じていました。
ホスピスでは自分ではどうしようもできないこと、自分の無力さを感じる時でもその場から逃げず、その場に立ち止まることが患者さま、ご家族、私自身にとって大切であることを学びました。

訪問看護師として働く中では、患者さまやご家族を信頼すること、誠実であること(自分自身にも)、できないことを認める勇気を持つこと‥たくさんの学びがあります。
私たちが関わる中で患者さまが元気になったり、患者さまやご家族が変わっていく姿を見たり‥患者さまと看護師という関係ではあるのですが、人間対人間、お互いが影響し合っているということに気付かされます。

訪問看護は、その人やご家族の日常を支えるために、ケアを行っています。
それぞれの患者さまは病気や障害と日々、向き合い、折り合いをつけ、生活を送っておられます。
痛みやだるさ、むくみ‥身体的苦痛、
寝られない、気持ちが落ち込む‥精神的苦痛、
金銭面の問題、家族の問題‥社会的苦痛、
どうしてこんな病気になってしまったのか‥スピリチュアルペイン
全人的苦痛が少しでも緩和でき、日常に彩りを添えることができれば…
以前のアロマの記憶がよみがえり、急にアロマの勉強がしたくなり、相原 由花先生が学院長であるホリステックケアプロフェッショナルスクールに入学しました。

「すべては患者さまのために」という学校の理念の元、一年をかけていろいろなことを学びます(基礎医学、精油学、アロマの実技など)。生徒の方は様々で、看護師や薬剤師などの医療関係者から、現役のアロマセラピスト、一般の会社員の方、美容師、保育士、大学院生、主婦など、幅広く、とても刺激を受けました。

<最後に>

学校を卒業し、数名ではありますが、訪問看護の中でアロママッサージの施術をさせていただいております。
アロママッサージを行っていると、アロマの力でしょうか、患者さまが自分自身について語って下さることがあります。
患者さまの価値観でどれだけ理解し、受け止められているのか…患者さまの言葉一つ一つに誠実に耳を傾け、言葉にできない「語り」にも耳を傾け、目を配り、患者さまの立場になって考えられているのか…
想像力や直感力を養い、患者さまを最後まで信じきれる強さを持ちたいと思います。

タッチは肌と肌が触れるという原始的な行為ですが、人を大切に思うというケアリングの自然な表現です。
手の中心に心があるのか、ないのか。
さらにどんな心を相手に伝えるのか。それによってタッチが、ただ触れただけの行為になるのか、それとも、共感や感動をもたらし深い一体感を生み出すような相互作用になるのか、大きく違ってくると思います
。施術の腕を磨くのはもちろんですが、施術に慣れず、今後も心を込めて施術を行っていきたいと思います。