高血圧の治療薬を服用されている方は多くいらっしゃいます。私がお会いした患者さんの中には、「なぜ何種類もの血圧の薬を飲まないといけないの?」「同じ高血圧症なのに家族の薬と自分の薬が違うのはなぜ?」という疑問を持つ方、中には「薬がなくなったから他の人に薬をもらって飲んでいた」という方もおられました。現在では、高血圧の薬の種類も増えており、最近は患者さん一人一人にあった薬が選択できるようになっていますので、今回は高血圧症とその治療薬について簡単に説明したいと思います。
高血圧の分類
高血圧は原因疾患の有無によって本態性高血圧と二次性高血圧に分類されます。本態性高血圧は原因の明らかでないもので、遺伝や体質、生活習慣、加齢などが関与していると考えられています。二次性高血圧は原因疾患の症状としての高血圧で腎性高血圧、内分泌性高血圧、血管性高血圧、薬剤誘発性高血圧、閉塞性睡眠時無呼吸症候群による高血圧などがあります。本態性高血圧は、まず生活習慣の修正が必要となり、必要に応じて薬物治療を開始します。二次性高血圧は、原因疾患を適切に治療すれば血圧は降下し寛解します。高血圧患者さんの約9割が本態性高血圧であると言われています。ここからは本態性高血圧を高血圧と省略します。
ガイドラインの改定 〜高齢者の降圧目標の引下げ〜
2019年4月に日本高血圧学会により高血圧治療ガイドラインが5年ぶりに改定されました。高血圧の基準値は従来通り、診察室血圧が140/90mmHgで、家庭血圧が135/85mmHgです。正常血圧は120/80mmHg未満となっており、それ以上の全ての人は生活習慣の修正が必要であると記されています。降圧目標の改訂を次の表で記します。糖尿病患者、CKD(慢性腎臓病)患者(蛋白尿陽性)、抗血栓薬服用中の患者などの降圧目標は、脳卒中や心筋梗塞などの脳心血管病のリスクが高いため、従来より目標値が低く設定されています。75歳以上の降圧目標に関しては従来より強化され、さらに併存疾患などによっては降圧目標がさらに強化されています。
治療の第一歩 〜生活習慣の修正〜
血圧を上げる要因は色々あります。修正基準を→で記しています。
1 食塩のとり過ぎ→減塩6g /日未満
血液中にナトリウムがたまり、水分を蓄えてナトリウム濃度を調節しようとする働きにより循環血流量が増加し血圧が上がります。
2 肥満→BMI(体重(kg)÷[身長(m)]2)が25未満
肝臓には摂取エネルギーに応じて脂肪の蓄積量を変える調節機能があり、栄養をとり過ぎると基礎代謝を活発にし、体重が増えないように調節しています。エネルギーのとり過ぎが日常化していると、その機能が逆に交感神経を活発化させてしまい血圧が上がります。
3 ストレス→ストレスの軽減を心がける
ストレスは血圧を一時的に上昇させます。ストレスが繰り返されると、交感神経の緊張状態が続き血管収縮により血圧が上がります。
4 飲酒→エタノール*で男性20〜30mL /日以下、女性10〜20mL /日以下
普通、飲酒により一時的に血圧は下がりますが、飲酒が続くと交感神経を活発化させ血管収縮により血圧が上がります。
*エタノール20〜30mL相当は、日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合弱、ウィスキー・ブランデーダブル1杯、ワイン2杯弱
5 喫煙→禁煙、受動喫煙の防止
喫煙と高血圧の因果関係は明らかではないですが様々な研究で血圧を上げる作用があると報告されています。さらに動脈硬化も進行させるので、狭心症や心筋梗塞のリスクも高まります。
治療薬について〜積極的適応と禁忌〜
生活習慣の修正にも関わらず高血圧が持続する場合に降圧薬を使用することになります。降圧薬には様々な種類があり、その選択はとても複雑です。患者さん一人一人の症状や合併症によって選択される薬は異なります。第一選択薬として推奨されている薬について、それぞれ積極的な適応と禁忌について紹介します。
【Ca拮抗薬】
アムロジピン、シルニジピン、ニフェジピン、ジルチアゼム等
日本で最も多く使用されています。合併症があっても比較的安全に使用できる薬剤で高齢者、狭心症、脳血管障害を有する高血圧に対して積極的に使用します。心不全を有する高血圧では慎重投与となっています。Ca拮抗薬のうちジルチアゼムのみ心拍数の減少効果がある為、頻脈を有する高血圧には積極的適応となりますが、徐脈を有する高血圧には禁忌です。
【アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)】
アジルサルタン、イルべサルタン、オルメサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン等
糖尿病、脳血管障害、慢性腎臓病、心不全、心筋梗塞後を有する高血圧に積極的に使用されます。中でも心不全では少量から開始し、注意深く漸増します。妊娠高血圧、高カリウム血症を有する高血圧には禁忌です。また、両側性腎動脈狭窄の患者に使用すると急速な腎機能の悪化をきたすことがあり、原則禁忌となっています。
【アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬】
イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩等
積極的適応や禁忌はARBに類似しますが、咳の副作用を利用して誤嚥性肺炎を有する高血圧にも積極的に使用されます。稀に血管神経性浮腫で呼吸困難をきたすという欠点があります。
【利尿薬】
フロセミド、トリクロルメチアジド、スピロノラクトン等
多くの国で第一選択薬として多用されている薬剤で、高齢者、心不全、脳血管障害を有する高血圧に積極的に使用されます。ループ系利尿薬(フロセミド等)やサイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド等)は低カリウム血症では禁忌、カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン等)は高カリウム血症では禁忌となっています。また、痛風や高尿酸血症を有する高血圧には慎重に使用する必要があります。
【β遮断薬】
アテノロール、ビソプロロール等
心不全、頻脈、狭心症(冠攣縮性狭心症以外)を有する高血圧に積極的に使用されます。喘息、高度徐脈を有する高血圧では禁忌となっています。また、閉塞性肺疾患や末梢動脈疾患では慎重に使用する必要があります。
【α遮断薬】
ドキサゾシンメシル酸塩等
交感神経活性亢進、脂質代謝異常、糖尿病、前立腺肥大を有する高血圧に積極的に使用されます。早朝高血圧には就寝前投与が推奨されています。副作用として、起立性低血圧が起こることがあります。
なぜ何種類もの薬を飲むのか〜併用療法の降圧効果〜
降圧薬の投与は基本的に単剤から開始されますが、効果が不十分であれば、増量または他の降圧薬を併用します。高血圧治療ガイドラインでは推奨される組み合わせが記されています。Ca拮抗薬とARB、Ca拮抗薬とACE阻害薬、Ca拮抗薬と利尿薬、ARBと利尿薬、ACE阻害薬と利尿薬です。また、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(ジルチアゼム)とβ遮断薬、利尿薬とβ遮断薬、利尿薬とα遮断薬、β遮断薬とα遮断薬の組み合わせも推奨されています。降圧目標達成の為には、2〜3剤の併用が必要な場合も少なくありません。最近では、ARB+Ca拮抗薬(レザルタス®️、ユニシア®️等)やARB+利尿薬(エカード®️等)の配合剤も発売されており併用薬剤の減量が可能となってきています。
最後に
高血圧症の患者さん一人一人の症状、合併症によって内服薬は異なります。最適な薬が選択され、服用を続けていても年齢を重ねると状態も変わってきます。患者さんの状態を観察して、生活習慣の再修正が必要ではないか、薬の副作用が出ていないか、選択されている薬が現在も最適であるか等を確認していく必要があります。決して患者さんが自己判断で服用を中止したり、他の人の薬で代用したりすることがないよう、普段から患者さんの声に耳を傾けてしっかり服薬指導をしていかなければならないと感じています。