多すぎる薬は体に毒! ポリファーマシー問題を考える ~高齢者における適切な薬物治療のために~

昨今、高齢者では様々な疾患を合併し、お薬が増えていくという現状が問題となっています。これを「ポリファーマシー」と言いますが、今回は、日頃から外来・入院患者でポリファーマシー解消にご尽力されている循環器内科の武本医師にお話を伺ったのでご紹介させて頂きます。また、後半には薬剤科でのポリファーマシーへの取り組みについて紹介していますのでご覧ください。

高塚薬局長)
武本先生、先生は普段からポリファーマシー解消にご尽力されていますが、先生のご意見を聞かせて下さい。

当院循環器内科;武本先生)
高齢患者を診察する時、非常に多くの薬を服薬していることに驚くことがあります。生活習慣病をはじめとする慢性疾患は高齢になるにつれて増加するので、薬が増えていくのはある程度致し方のないことです。しかし、内科、整形外科、眼科など複数の医療機関にかかっている場合には、それぞれの処方薬を把握していないことで薬効の重複した薬が処方されていることを目にすることがあります。かかりつけの医療機関が一つの場合でも、長く通院することで徐々に薬が増えてきてしまうことがあります。また、高齢患者の場合、体に負担がかかるような侵襲的な検査が躊躇われることがあり、疾患を推測して処方される場合もあります。例えば、胸痛の訴えがあった場合、非侵襲的な検査を行ったものの、原因が特定できず、狭心症の可能性を否定出来ないと言うことで抗血小板薬や血管拡張薬などが処方されることがあります。一旦薬物治療を開始すると、その後に症状が消失していれば、それが薬効によるものなのか自然経過なのか分からないため、何となくと言った状態で継続されてしまうことが多々あります。
患者やその家族に薬の数が多いことを指摘した場合、多いと思ってはいるものの、そのことに疑問を抱いていることはまずありません。薬の効果を信じて疑うことはなく、逆に健康に害を及ぼす可能性については考えたこともないと言うのが伺い知れます。
近年、ポリファーマシーと言う言葉が医療現場でよく目にされるようになってきました。(詳細は後半の「ポリファーマシーとは?」の項を参照下さい)簡潔に言えば、薬の有害事象や服薬過誤、服薬遵守の低下など、「患者に害をなす多剤服用」の状態にある場合を指しています。この状態を是正するには、疾患のみに焦点を合わせるのではなく、認知機能や生活の質、予後を考慮して、患者個々で治療方針を決定して処方することが求められます。それには多職種がそれぞれの視点から意見を出し合い、それらを処方内容に還元していくことが求められます。例えば、医師が診察時に服薬状況を聴取しても、患者が不要と思って言い出さなかったり、忘れていたりした場合には把握出来ないことになります。その後の薬剤師や看護師による確認で明らかにされることがあります。また、専門外の医薬品やジェネリック医薬品、新発売の医薬品全ての名前を覚えている医師はほとんどいないでしょうし、それを限られた診察時間内に全て調べることは現実的に不可能です。薬剤師が同効薬の重複処方や併用禁忌薬の処方などを確認してくれているので、非常に助けられていることを実感します。看護師は患者の暮らしを確認することで自己管理が出来るか、出来ない場合には家族や介護者の状況を確認することで服薬が可能かなど、服薬遵守を向上させる上で重要な役割を担っています。セラピスト(リハビリテーション)は身体機能、嚥下機能を評価し、投薬量や薬の剤型を選択する上で必要な情報を提供してくれています。
このように処方一つをとっても医師、薬剤師、看護師、セラピストのそれぞれが担っている役割があり、様々な職種の意見を取り入れることで、患者にとって最適な薬物治療を行うことが出来ます。みどり病院は職種間の垣根が低く、意見を交わしやすい環境にあり、病院全体でこの問題に取り組んでいます。

高塚薬局長)
ありがとうございました。
ポリファーマシーに限らず、各医療従事者が専門性を発揮して患者の治療に参加していくことはとても大切ですね。

続きまして、薬剤科の取り組みとしてどのように導入していこうとしているのかをご紹介致します。武本先生のお話と少し被りますが、ポリファーマシーの概念、どんなリスクが生じてくるのか、スクリーニングツール、薬剤師の介入方法について考えていきたいと思います。

■ポリファーマシーとは? 〜ポリファーマシー=多剤併用+PIMs〜

ポリファーマシーとは「poly」+「pharmacy」の造語です。厚生労働省は、指針の中で『多剤服用の中でも害をなすもの』と定義しています。ポリファーマシーは、言葉の意味だけを捉えると、薬剤の数が多いということに注目されがちですが、それに加えて、潜在的に不適切な処方(PIMs:potentially inappropriate medications)が含まれていることが問題として取り上げられています。一般的には、高齢者に対してベネフィットよりもリスクが高いと考えられていることから、治療方針に関わらず使用中止を検討する薬剤です。
その要因は、高齢化により複数の疾患が合併していることによる他科受診・医療機関の併診、薬剤の副作用に対する薬剤の追加(処方カスケード)等です。

■なぜ問題なのか

薬剤の数が増える事で、高齢者では様々な問題が生じてきます。
1. 薬剤有害事象の増加
機能低下・転倒・死亡が増えるとの報告
2. 服薬アドヒアランスの低下
本当に必要な薬剤のアンダーユーズが増加し治療効果の低下を招く
3. 医療経済への影響
日本の国民医療費40兆円の2割を薬剤費が占める
残薬は数百~数千億円/年と予測されている(平成27年度厚生労働省科学特別研究より)

■多剤処方と薬物有害事象及び転倒の発生リスクについて ~多剤処方は良いこと無し〜

6剤以上になると、薬物有害事象の頻度は13%と有意に上昇することがわかっています。
(図1の1))
都内診療所通院患者165名の転倒の発生頻度を2年間追跡調査した結果、5剤以上になると転倒リスクが有意に増加する傾向にあリました。(図1の2))

■PIMsをスクリーニングする方法は?

PIMsを検出するためのツールも複数提唱されており、主なものとしては3つあります。
Beers criteria(米国)
STOPP&START criteria ver.2(欧州)
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会)

「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」は、日本老年医学会により2015年に作成され、高齢者の処方適正スクリーニングとして「特に慎重な投与を要する薬物リスト」と「開始を考慮するべき薬物リスト」が含まれます。
その他、領域別の指針(精神疾患、呼吸器疾患、循環器疾患等)が示されています。
また、代替薬の考え方についても記載があります。

STOPP criteria ver.2は、領域別に80項目の記載があります。以下は一部例示です。
< Section B: 心血管系 >
1. 左室収縮能が保たれた心不全にジゴキシン投与
→エビデンス不十分
2. NYHA Ⅲ〜Ⅳの心不全患者にベラパミル、ジルチアゼム投与
→心不全悪化
3. ベラパミル、ジルチアゼムにβ遮断薬を併用
→房室ブロックのリスク
4. 徐脈(50回/分未満)や2度心ブロック、完全房室ブロック
がある患者へのβ遮断薬
→完全房室ブロック、心静止のリスク

(日本老年学会ホームページより)

■Criteriaの特徴

「Beers criteria2012」
65歳以上の介護施設入所者を対象として、2012年度版からはシステマティックレビューを行って作成されています。
「高齢者の薬物療法ガイドライン2015」
システマティックレビューを行っておらず、単一研究のみ。
「STOPP criteria ver.2」
「Beers criteria2012」よりPIMsの検出率が高いという報告と低いという報告があります。その他に、薬物有害事象との関連が強かったという報告もあります。また、3~5分でスクリーニングが可能であること、掲載されている薬剤が日本の市場に多く存在するものであるという利点もあります。
よって、薬剤科で参考にしていくツールとしては、短時間でできる「STOPP criteria ver.2」
がbestかと考えています。
「STOPP criteria ver.2」による処方整理の効果を調べますと、転倒、せん妄、入院期間、受診回数、薬剤費用は減少させていますが、QOLと予後は改善しなかったという報告があります。

■減薬をどのように行うのか?

では、具体的にどのように薬剤を減らしていったらいいのか、その方法を調べてみると、海外ではScottらが提唱している「減薬のプロトコール5つのステップ」というプロトコールが活用されています。このプロトコールは5つのkey stepから成ります。
1. 全薬剤について処方理由を確認する
2. 薬剤有害事象のリスクを把握し、積極的に介入をすべきか評価する
3. 潜在的なリスクとベネフィットを評価し、中止の妥当性を検討する
4. 低リスク・高ベネフィット、退薬症状、患者の希望などを考慮して中止薬剤の優先順位を決める
5. 減薬の実施とモニタリングを行う

病棟担当薬剤師はこれを参考に、減薬を慎重に行っていくこととしました。

■薬剤師が介入するタイミングは?

入院時インタビューの時に、お薬が多いと感じているかどうかの確認を病棟担当薬剤師が行なっており、持参薬が切れる時が介入しやすいタイミングかと思います。

■最後に

ポリファーマシーに対する介入は、個々の薬剤の適否を患者ごとに判断していくプロセスが重要です。単なる減薬が目的ではなく、患者の状態を継続的に観察しながら、他職種と連携してチーム医療で患者を支えていく事の必要性を武本先生同様に私も感じています。
もう一つ重要なことは、病院薬剤師と保険薬剤師との連携(薬薬連携)です。せっかく入院中に処方整理をしても、退院後、元々のかかりつけの医療機関に変更意図が伝わらずに処方が元に戻ってしまっては元の木阿弥です。
当薬剤科では、患者がかかる予定の保険薬局へ、必要な情報を提供・共有していく取り組みを行なっています。また、介入していくプロセスや退院後のフォローも含めてポリファーマシーの方法についての検討も行なっています。各人の知識の向上のためには、朝礼後に勉強会を行ない、情報を共有しながら進めています。
高齢者の適切な薬物治療のために、私達薬剤師は病院全体でポリファーマシーの問題に取り組んで行きたいと考えています。