新型コロナウィルスの流行によって2020年 春頃から「コロナ禍」と言われ始め、私たちの生活が大きく制限されるようになりました。それから、あっという間に2年が過ぎ、3年目に入ります。皆さんも、感染対策に配慮した生活を送っていることと思います。
新型コロナウィルス流行当初の2020年3月から4月にかけてテレビ等で活躍しておられた有名人の方々が新型コロナウィルス感染症による肺炎を発症し、重症呼吸不全で亡くなられたニュースが報じられた事もあり、新型コロナウィルスによる呼吸不全は強く印象付けられたのではないでしょうか。今回は、この呼吸に関してリハビリの観点から、お話ししていこうと思います。
まず、生物における「呼吸」とは、酸素を体内にとりこんで、生命活動のエネルギー源として消費し、二酸化炭素を排出するという一連の流れの事をいいます。
人間では、横隔膜の動きによって、口や鼻から、一回に400~500mlの空気を肺内に吸い込みます。吸い込まれた空気は、口から喉(のど)、気管を経て、肺胞といわれる肺の一番奥にあるとても小さい袋状の空間に到達し、肺胞の毛細血管を通じて酸素を血液の中に取り込みます。酸素を受け取った血液は、各臓器へ酸素を供給し、不要となった二酸化炭素を回収しながら全身を巡ります。そして再び、肺胞で二酸化炭素を空気中へ排出し、口や鼻から体外へ吐き出されます。
その血液と空気中のガス交換が行われている肺胞は、肺の中にある直径0.1~0.2mm程の小さな袋状の集まりで、成人男性で3~6億個あり、その全部を広げると約70㎡、テニスコートの半分くらいの広さになると言われています。正常では、動脈血(肺胞で酸素交換をした直後の血液)のガス濃度が、常にPaO2(動脈血に含まれる酸素の量)80mmHg以上、PaCO2(動脈血に含まれる二酸化炭素の量)45mmHg以下になるように保たれています。
呼吸不全とは、上記で述べたような呼吸サイクルのどこかに不調が起き、バランスが崩れて体内に酸素が不足してしまう状態をいいます。日本呼吸器学会では、「原因の如何を問わず、動脈血ガスが異常な値(PaO2 60mmHg以下)を示し、その為に生体が正常な機能を営み得ない状態」と定義されています。
つまり呼吸不全は、何らかの原因で血液中に酸素を取り込み全身に送る一連のサイクルが障害され、血液中の酸素の量が低下して、意識障害、多臓器不全の症状をきたす状態です。
次に、呼吸不全の原因についてお話しようと思います。呼吸不全を引き起こす原因は、大きく分けて外傷性のものと、病気による内科的なものがあります。外傷性とは、事故などによる直接的な損傷で空気を肺内に取り込むことができなくなり、血液中の酸素濃度が不足する状態です。病気による内科的なものとしては、細菌やウィルスの感染により肺に炎症が起こる肺炎や、喫煙等により引き起こされるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、アスベストなどで話題になった慢性的な炎症により肺自体が徐々に固くなる間質性肺炎などがあります。
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COPDや間質性肺炎等は、症状がゆっくりと進行する為、徐々に肺胞が破壊され、自分で気が付かない間に徐々に、血中に酸素を取り込む能力が低下していきます。その為、肺胞の破壊が進行しても、日常生活では急激に体内の酸素が不足することはありません。
それは人間には、身体の酸素が不足した状態を、平常に保とうとする「ゆとり」が備わっているからです。全身からの酸素不足の信号を脳の呼吸中枢が認識し、必要な酸素を摂取できるように、呼吸回数や呼吸の深さを増加させ、体内の酸素量を補います。
肺胞の破壊が進行すると酸素を交換する部分が減少し、身体の酸素量を補おうとした際に、呼吸中枢の指令にて呼吸数や呼吸の深さを増加させても、十分な酸素を血中に取り込むことが難しくなり、この「ゆとり」がなくなっていきます。
ウィルス感染や風邪などで、体内に炎症が起こると、身体が必要とする酸素の量が増加します。「ゆとり」がなくなってしまった状態の身体では、必要な酸素を摂取するため呼吸数をさらに増加しなければならず、それにエネルギーを余計に消費してしまいます。
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それでは最後に、どのように対処すればよいかについてお話ししようと思います。2001年に発表された大規模な疫学調査研究によると、日本人の40歳以上の有病率は8.6%、患者数は530万人と推定されていますが、厚生労働省の患者調査では、その中で病院にてCOPDと診断を受けている患者数は22万人と言われています。つまり、呼吸器疾患があるのに、未受診や診断を受けていない患者が相当数いると予想されているのです。その理由の一つとして、COPD・間質性肺炎などの慢性呼吸器疾患は、普段の生活では症状が出ない方が多いことから、病院を受診せず、そのままにしている方も多いという事が挙げられます。
長期間タバコを吸っている方、最近歩くと息が切れやすくなったと感じる方は、病院で呼吸機能検査を受けることをお勧めします。一般的呼吸機能検査や胸部レントゲン撮影などの検査で、肺の炎症の程度や肺胞で酸素を受け渡す能力の程度を知ることが出来、適切な治療を受ける事で症状の進行を抑制することが出来ます。その上で、適度な運動を行う事により体力・免疫力を高め、風邪やウィルスに負けない身体づくりをする事が大切です。
みどり病院では、呼吸器内科の医師が在籍しており、画像診断や各種呼吸機能検査・血液ガス分析などの検査に基づいて診察が実施できます。リハビリテーション科では、呼吸訓練や運動療法を行い、患者さんの運動耐容能(運動に耐える事が出来る能力)を高めていく訓練を行います。呼吸訓練によって、しっかりと肺内の二酸化炭素を排出し、酸素を多く含む新鮮な空気を肺の中に取り入れる事が出来るように訓練します。そして、運動療法によって、下肢を中心に筋力強化していきます。下肢筋力を強化することにより、歩行や立ち座り時に働く筋肉での酸素の利用効率が改善し、動作時の息切れが軽減します。そうすることで、患者さんの運動耐容能を向上する事ができます。
このように、呼吸器の疾患をもつ患者様に対して、診察や検査から生活・運動指導まで対応することができる体制が充実しています。気になる症状がありましたらお早めに受診されることをお勧めします。
記事を書いている現在は4月ですが、みどり病院の近隣の公園では外周の桜が咲きそろい、地元の方々が並んで散歩をしている姿を多く見かけます。当院でも、入院患者さんと屋外歩行訓練の一環として感染対策に注意しながら近くまで桜を見に行きました。いつまでも地域で、自立した生活を継続できるような身体づくりを心がけ、身体と心の「ゆとり」を大切にしていきましょう。リハビリテーション科では、皆さんの自分でできるを応援しています。お気軽にお声掛けください。