厚生労働省は、個々人に最適な健康管理や診療、ケアを実現するため、膨大な健康・医療・介護データを収集し分析するためのプラットフォームを構築する「データヘルス改革」を推進しています。
今回は、データヘルス改革のうち、マイナンバー制度と密接に関係する医療情報サービスとして、いま話題となっている ①オンライン資格確認と②電子処方箋 を取り上げたいと思います。
1 サービスの概要 ~オンライン資格確認、電子処方箋とは~
①オンライン資格確認
オンライン資格確認は、医療機関窓口に設置された顔認証機能付カードリーダーによりマイナンバーカードの電子証明書を読み取り、リアルタイムに健康保険資格を照会する仕組みです。また、本人同意を得ることにより医療機関の医師や調剤薬局の薬剤師は、薬剤情報等をオンラインで閲覧することができるようになります。
本サービスは、令和3年10月から本格運用が開始され、令和5年4月以降は医療機関・調剤薬局での導入が原則義務化されました。厚生労働省は、オンライン資格確認の利用促進のため、令和6年度を目処に保険者による保険証発行の選択制や保険証の原則廃止を進める方針です。
②電子処方箋
電子処方箋は、オンライン資格確認を基盤として電子的に処方箋の運用を行う仕組みで、令和5年1月から全国での運用が開始されました。本人同意を得ることにより、医療機関・調剤薬局間での処方・調剤情報や疑義照会等の情報連携が可能となります。電子処方箋の発行には、医療従事者専用のHPKIカード※が必要になります。
※医師・薬剤師などの国家資格等を認証する電子証明書を格納したカード。紙の処方箋に対する記名押印の代わりに、電子処方箋へ電子署名を行うことができる。
2 サービスの効果 ~医療従事者の活躍の幅が拡がる~
各サービスを導入した際の効果について、医療事務と医師・薬剤師の視点に分けて紹介します。主な内容は表1のとおりです。
表1 オンライン資格確認と電子処方箋の比較
オンライン資格確認の導入により、従来手入力していた保険資格情報がシステムに自動反映されるようになり、医療事務の受付事務の手間が削減されます。また、保険資格情報をリアルタイムに照会することで、資格過誤によるレセプト返戻を減少させることができます。
医療機関の医師や調剤薬局の薬剤師は、患者の本人同意により、過去の薬剤情報(令和3年9月以降に保険医療機関・調剤薬局で調剤された、過去1ヵ月以降~3年分の情報)、診療情報(令和3年9月以降に行われた診療行為について令和4年6月以降に提出されたレセプトに含まれる情報を元にした過去3年分の情報)及び特定健康診査情報(令和2年度以降に受診された特定健診の過去5回分の情報)を確認できるため、重複防止や相互作用の処方監査ができます。
さらに、電子処方箋を導入することで、上記に加え、過去1ヵ月分の薬剤情報も閲覧可能となります。また、当該患者が過去一定期間内に処方された薬剤情報を元に、現在服用中の薬剤が抽出され、調剤中の薬剤との重複・併用禁忌の確認が自動的に可能になります。
なお、医師が重複・併用禁忌に該当する薬剤を処方する場合は、システム上での確認が必要になります。さらに、医師が処方意図を入力することで、薬剤師側に情報共有ができ、疑義照会が減少します。一方で、薬剤師も調剤内容や後発医薬品への変更状況等を入力できるため、オンライン上で医師に情報共有することができます。
表2 医療機関・調剤薬局の間で電子的な処方箋のやり取り
令和4年7月25日 厚生労働省オンライン説明会「そうだったのか、電子処方箋」より抜粋
3 課題 ~データヘルス改革の壁~
オンライン資格確認・電子処方箋は導入されて間もないサービスです。このため、政府も医療現場も様々な課題に対応していく必要があります。現時点で解決すべきと思われる課題をまとめてみました。
①デジタルデバイスの普及率
サービスの拡大には、カードリーダーやマイナンバーカード、HPKIカードなどデジタルデバイスの普及が必要不可欠です。直近の普及率は次の通りです。
表3 カードリーダー申込率と接続率 R5.2.12時点(厚生労働省調べ)
※「接続率」は、「本番接続機関数」を「医療機関等数」で除したもの
表4 マイナンバーカード交付枚数率 R5.1.31時点(総務省調べ)
表5 HPKIカード取得率 R4.12.31時点(日本経済新聞調べ)
医療機関に設置するカードリーダーは、無償化等の対応により、既にかなり普及しています。マイナンバーカードは様々なキャンペーンが実施され、交付枚数は顕著に伸びてきているものの、現時点では60%程度の普及率となっています。
また、保険資格を紐づける電子証明書は5年毎に更新する必要があり、既に交付されているマイナンバーカードの電子証明書が失効している方が一定数存在することも課題です。
HPKIカードについては取得率がかなり低い状況です。民間団体が認証局・発行局を担っていることから、発行手数料や年間利用料が必要になる(一部は無償化済)など、取得のハードルが高いことも一因と思われ、政府が電子処方箋のメリットを強調することが優先されると思われます。
②保険資格情報の登録作業
オンライン資格確認で照会する資格情報は、社会保険診療報酬支払基金及び国民健康保険中央会が保有していますが、これらの情報は各医療保険者等が事前登録する必要があります。被保険者の資格情報に異動があった場合、医療保険者は資格情報を速やかに更新する必要がありますが、医療保険者の規模も大小様々であり、作業のデジタル化が進んでいない小規模な医療保険者等では、更新に相当の期間を要する場合もあると考えられます。このため、医療保険者における課題が解消されるまでは、資格過誤がほぼゼロになることは無いと思われます。
表6 オンライン資格確認の導入(マイナンバーカードの保険証利用)
令和4年11月厚生労働省保険局
「オンライン資格確認の導入で事務コスト削減とより良い医療の提供を」より抜粋
③オペレーションの多重化
マイナンバーカード交付率を踏まえると、医療機関窓口で従来の紙の健康保険証を提示する患者は引き続き存在しており、マイナンバーカードによる場合と2通りのオペレーションに対応する必要があります。また、電子処方箋の導入医療機関は令和5年2月12日時点で564件に留まっており、多くの医療機関では引き続き紙の処方箋が利用されています。
政府はマイナンバーカードを取得していない国民向けに紙の「資格確認書」を発行する方針ですが、このような制度が創設されることで、オペレーションの多重化が残り続けることになり、医療機関が事務効率化のメリットを享受できない可能性があります。
④国民の負担増
令和4年診療報酬改定で「電子的保健医療情報活用加算」が新設され、オンライン資格確認システムを通じて患者の薬剤情報又は特定健診情報等を取得した場合に算定が可能となりました。この加算は同年9月に廃止され、令和4年10月からは、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」として、オンライン資格確認の導入など施設基準を満たす医療機関は初診料に加算できるようになりました。当該加算はオンライン資格確認の原則義務化に向けた措置であり、医療機関の負担を軽減する一方、患者はマイナンバーカードの利用により追加の医療費を支払う必要が生じています。
デジタル化の初期においてコストが増大し、費用の補填が必要になることは一定理解できますが、この加算が残り続けることで、社会全体のコストが長期的に増大することがないように配慮する必要があると考えます。
4 まとめ
医療分野のデジタル化が推進される中、オンライン資格確認については原則義務化されるため、全ての医療従事者が理解を深め、活用していくことが求められています。
オンライン資格確認・電子処方箋の導入により、重複投与の確認を漏れが無く正確にできるようになることは薬剤師にとって非常に重要であり、この仕組みを最大限活用することで、医療の質向上に貢献していきたいと思います。