一人一人の患者さんがしっかり治療できる吸入薬選びを〜吸入薬デバイスの選択〜

薬剤科

吸入薬の指導を行うと、きちんと吸入できていないのではないかと感じる事がよくあります。「何年も使ってきたから使い方はよく知っているよ。大丈夫、大丈夫」とおっしゃる患者さん。気管支喘息・COPD(慢性閉塞性肺疾患)の症状悪化で入院となり、持参された吸入薬が継続となりました。

いざ吸入の確認をしてみると、手技が自己流になっていて、吸入後のうがいも十分に行えていませんでした。これでは吸入をしても十分な効果が期待できませんし、副作用のリスクも高くなります。また、高齢者では認知機能の低下や身体機能の低下によりデバイス操作が不良となっていることもあります。そこで、吸入薬のデバイスの種類や特徴と使い方の注意点、その選択についてまとめてみました。

注)本文中と表中の薬品名、デバイス名の登録商標マーク(®)は省略しています。

吸入薬デバイスの種類〜特徴の違う11種類のデバイス〜

吸入薬のデバイスは多種類あり、それぞれ操作方法や吸入方法が異なります。

ICS:吸入ステロイド、LABA: 長時間作用性β2刺激薬、LAMA: 長時間作用性抗コリン薬、SABA: 短時間作用性β2刺激薬、SAMA:短時間作用性抗コリン薬

表1.吸入薬と吸入デバイスの種類

1.エアゾール製剤

<特徴>
  • ガスの圧力で薬剤を噴射する
  • 薬剤の噴霧と薬を吸い込むタイミングを合わせる(同調)必要があるが、ある程度同調できれば吸気流速が小さくても吸入可能
<注意点>
  • ボンベが上、吸入口が下になるようにして垂直に持つ
  • 薬剤の噴霧と同時に息をゆっくり深く吸う
    吸入が速すぎると薬剤の肺への到達度が減少する
  • ボンベは最後までしっかり押しきる

2.エアロスフィア

<特徴>
  • 複数の成分を多孔性粒子である担体に装着させ、均等に肺の中枢から末梢まで送達することを目指した新タイプの加圧式定量噴霧吸入器
  • 吸気力の低下により十分な吸気流量が得られにくい患者さんでも少ない負荷で吸入できる
  • 従来型のエアゾール製剤よりも噴霧速度が緩やかなため同調しやすい
<注意点>
  • 従来型のものよりボンベを押す強い力が必要
  • 押す力が弱い場合、吸入補助器具「プッシュサポーター」を使用する
  • 週に1回、アクチュエーター(ボンベを外した本体)の洗浄が必要
  • カウンターロックがないため上部のカウンターで残回数が「0」でないことを確認する

3.タービュヘイラー

<特徴>
  • 2段階操作で吸入準備が完了する
  • ディスカス、エアゾール製剤と比較しても肺への沈着率が高く、息止めが上手くできなくても薬剤の効果が得られる
<注意点>
  • 実際には息止めは不要だが、他のデバイスに変更する可能性もあるため無理のない程度に息止めの指導を行う
  • 空気取り入れ口を塞がないように回転グリップを持ち、速くできるだけ深く吸入する
  • ドライパウダー製剤のため、使用後は乾いた布で吸入口を拭く、水洗いは厳禁

4.ツイストヘラー

<特徴>
  • ワンステップで吸入準備完了
  • キャップを外すと同時に「カチッ」と音がしてカウントが1つ減り、薬剤が充填される
  • カウンターが「0」になるとキャップが開かなくなる
  • 吸気流速にかかわらず、薬剤が安定して放出される
<注意点>
  • しっかり最後までキャップを閉めないと、次回の吸入準備ができない
  • キャップポインターとカウンターが同じ位置になるようにしておく必要がある

5.ハンディヘラー

<特徴>
  • カプセルタイプのドライパウダー式吸入器、デバイスと薬剤が別になっている
  • 吸入準備が少し複雑
    カプセルを縦に挿入し、マウスピースをしっかり閉める
    次にボタンを押してカプセルに穴を開ける
<注意点>
  • ボタンを押した時に「パリッ」というカプセルに穴が開く音を確認する
  • ボタンを押したまま吸入するとカプセルに針が刺さったままとなり、薬剤が吸入できない
  • カプセルは25℃以下、凍結を避けて保管する
  • 月1回、本体の洗浄が必要

6.ディスカス

<特徴>
  • 2段階の操作で吸入準備完了
  • グリップに親指を乗せてカバーを開けてからレバーを下げて薬剤をセットする
  • マルチドーズタイプのドライパウダー式吸入器、空打ちが不要
<注意点>
  • レバー操作は1吸入につき1回のみとする
  • 速く深く吸入、吸入流速が十分でないと十分な効果が得られない
  • 吸入残数が「0」のまま吸入しないようカウンターの確認を行う
  • 使用後は乾いた布でふく、水洗いは厳禁

7.エリプタ

<特徴>
  • カバーを開けるワンステップで吸入準備完了
  • 1日1回で薬効が得られるため高いアドヒアランスが維持できる
  • カウンターの文字か大きい
<注意点>
  • カバーの開閉で薬剤がなくなるため吸入時以外に開閉をしない
  • ドライパウダー製剤のため、使用後は乾いた布で吸入口を拭く、水洗いは厳禁
  • レルベアとテリルジーは規格によって適応症が異なる
    レルベア100・テリルジー100:COPD、喘息
    レルベア200・テリルジー200:喘息

8.スイングヘラー

<特徴>
  • ワンタッチで準備が完了する
  • コンパクトで持ち運びしやすい
  • タービュヘイラーよりも吸入流速が必要
  • 100回の使用回数を超えると薬剤充填のボタンがロックされるため空投与が防止できる
<注意点>
  • デバイスを立てずに水平な状態で操作する必要がある
  • ボタンを押した後、離さないと薬剤がセットされない
  • 空気取り入れ口を塞がないように咥えて吸入する
  • ドライパウダー製剤のため、使用後は乾いた布で吸入口を拭く、水洗いは厳禁

9.ブリーズヘラー

<特徴>
  • 準備操作が細かい
  • マウスピースは咥えやすく、吸いやすいが吸入のコツをつかむ必要がある
    「吸いはじめはやや弱めに、カプセルが回る音がしたら強く吸入する」
<注意点>
  • ボタンを押した時にカプセルに穴が開く「バリッ」という音を確認する
  • LAMA含有製剤では、使用後のカプセルは手で触れずに捨てる
    薬剤が手についたまま目を擦ると、目に異常がおこるおそれがある

10.ジェヌエア

<特徴>
  • マウスピースを咥えた状態で小窓から吸入時は「緑」、吸入後は「赤」を確認できる
  • カウンターがゼロになるとロックがかかり、空投与が防止できる
  • 吸入後、誤ってボタンを押してしまっても薬剤がこぼれないように保管していれば、そのまま次の吸入ができる
<注意点>
  • 全ての操作はボタンを上にして吸入器を水平にして行う必要がある
  • カウンターのメモリは10単位で表示される
  • ボタンを押したまま吸入しない(吸入はできているが、小窓が赤くならずに吸えていないと勘違いするため)

11.レスピマット

<特徴>
  • 噴霧速度が穏やかなため、吸気流速が小さくても吸入可能
  • 使用開始時にカートリッジを挿入する必要がある
  • 吸気速度が速すぎるとむせるため、ボタンを押すと同時にゆっくり吸い込む
<注意点>
  • 初回に4回の空打ちを行う
  • 7日以上使用していない場合は1回の空打ち、21日以上使用していない場合は4回の空打ちを行う

身体機能にあわせた吸入デバイスの選択 〜3つの評価(吸気流速・同調・デバイス操作)〜

まず、吸入薬を使用する患者さんは呼吸機能が低下していることが多く、しっかり吸入できない場合があるため、吸気流速の評価をする必要があります。DPIでは吸気流速が保てていないと薬剤が十分に肺に到達しないため、吸気流速が低下している場合はpMDIやSMIを選択します。一時的な吸気流速の低下の場合は短期間のネブライザー使用も考慮します。

次に、噴霧と吸入の同調可否の評価が必要です。同調不可の場合、吸気流速が保てていればDPIを選択します。吸気流速が低下しているようであればpMDIを選択し、スペーサー(吸入補助器具)の使用を検討します。スペーサーを使用しても吸入困難の場合にはネブライザー使用や、吸入薬以外の治療を選択します。

最後にデバイス操作の評価です。握力低下や末梢神経障害、視力障害、聴力障害、認知機能低下等によりデバイス操作が不十分な場合があります。このような場合、吸入補助器具の使用やそれぞれのデバイスの特徴をみて代替薬への変更で吸入可能になることもあります。いずれのデバイスでも手技獲得が難しい場合には、貼付剤や経口剤などの選択を検討する必要があります。

最後に

私たち薬剤師が患者さんへの吸入指導を行なう中で、吸入薬導入後のフォローが如何に大事であるかということを強く感じています。特に高齢者では認知機能の低下や身体機能の低下による吸入操作不良となるため継続した吸入指導が必要です。それぞれの吸入器の特徴を知り、一人一人の患者さんに適したデバイスかどうかを評価することで、より良い治療薬を提案、症状をしっかり改善する治療に繋げていければと思います。