
コロナ禍を経て、飲食店やショッピングモールの入り口に消毒薬がおいてある光景がすっかりおなじみになりました。手指消毒は感染対策において「安価だけど効果が高い」といわれています。ですが、正しい方法でないとあまり効果がないことをご存じですか?
置いてあるから一応使っておくか…、と適当にシュッシュと消毒薬を付け、パパッと手を合わせるだけでは効果的な手指消毒とは言えません。
今回は、当院のスタッフを対象に、手指消毒液による消毒前後で手のひらの菌を培養し、視覚的に分かりやすく消毒効果の確認を行いましたので、皆さんも普段の手洗いや手指消毒を思い返しながら読んでみてください。
方法:
手のひらの形をした培地(細胞や菌が成長するように人工的に作られた環境のこと)の上に、手をペタッと押し付け、手のひらについていた菌を培地側に移します。培地に付着した菌を発育させ、消毒前後で菌の発育状況を比較し、手指表面に付着している菌への効果を確認しました。
まず正しい消毒ができている培養結果です。


培地上に点々と見える白っぽい粒々がコロニーと呼ばれる菌の塊です。
消毒前は全体にコロニーを認めますが、消毒後は全くありません。手のひらをきれいに除菌できています。
次は消毒が不十分だった培養結果です。


先ほどの例とは菌の種類が違うのでコロニーの色の違いはありますが、消毒前は同じように全体にコロニーを認めます。しかし消毒前と比較してコロニーの数は減っているのですが、消毒が不十分になりやすい箇所に残っています。
ではアルコールなど手指消毒液による手指消毒だけをしっかりしていれば感染対策は十分かといわれると、それは間違いです。
菌やウイルスにはアルコールが効かないものも存在するのです。
アルコールに抵抗性のある菌が手についていた時の培養結果です。


消毒前に検出されていた白い大きなコロニーが、消毒後では手のひらや指全体にまんべんなく広がってしまっています。アルコール消毒が全く効いていません。この例で検出されている菌はおそらく納豆菌ですので害はありませんが、嘔吐や下痢の原因となるノロウイルスだとしたらどうでしょう...恐ろしいですね。
アルコールに抵抗性のある菌やウイルスの場合、流水と石鹸による手洗い(物理的な病原微生物の除去)が重要になります。
消毒液でささっと手指消毒し、除菌したつもりであちこち触っているその手に、実は菌が残っていたとしたら...
そんなことにならないための正しい手指消毒の方法です。
① できる限り、まず流水と石鹸による手洗いをしましょう
手に汚れがついていると汚れの中まではアルコールが浸透せず、消毒されない部分ができてしまいます。また、先ほどのアルコールが効かない菌やウイルス、特にノロウイルスは嘔吐物や便から多く検出されます。
嘔吐物の処理やおむつ交換などをしたあとは必ず、流水と石鹸できちんと手指を洗いましょう。洗った後はしっかり手の水分を拭き取ってからアルコールなどで手指消毒をしてください。濡れたままだと、アルコール濃度が薄まり、消毒効果が下がってしまいます。
② 消毒薬の量と乾くまでの時間に気をつけましょう。
商品によって1プッシュの量は異なるため、プッシュの回数で適量を決めるのは難しいですが、1回の消毒には手指用アルコール消毒液3ml以上必要だといわれています。ポンプタイプ消毒液では、下までポンプを押すと量が多すぎるように感じるのか、途中までしか押さない方をよく見かけますが、おそらく量は足りていません。
手のひらに3mlのせたときどんな感じになるのか、目安が分かるように一度計ってみてはいかがでしょうか?そのほかにもすり込みながら乾くまでの時間が30秒程度かかる量を目安にする方法もあります。
「思っているよりたくさんの量で消毒しないといけないんだな」と感じられた方もいらっしゃるのではないのでしょうか?これを機に正しい手指消毒の方法を身につけて、きれいな手で毎日を健康的に過ごしましょう。

▲厚生労働省ホームページ「感染対策普及リーフレット」より