前回の管理栄養士からの投稿(https://midori-hp.or.jp/nutrition-blog/swallow/)では飲み込む力が落ちてきた方の食事形態についてお話しました。
今回は経口から必要な栄養量が満たせなくなった方への栄養補給方法についてお話したいと思います。
口から食べられなくなったときの栄養補給のルートは?
栄養補給の選択肢としては経静脈栄養と経腸栄養があります。
経静脈栄養は一般的には点滴と表現されることが多いと思います。
血管から栄養を提供する方法です。
経腸栄養とは口を通らず、流動食を腸管に入れて栄養管理する方法です。
経静脈栄養について次回、薬剤師からお話します。
今回は経腸栄養法についてお話したと思います。
2つの選択肢のどちらかを選択する場合に経腸栄養法をどういう判断基準で選択するか。
大原則は「腸が機能している場合は腸を使う」です。
理由として、経腸栄養は経静脈栄養に比べて生理的であり、消化管本来の機能である消化吸収、あるいは腸管免疫系の機能が維持されることが挙げられます(静脈経腸栄養ガイドラインより)
経腸栄養ってどんなもの?
① チューブを鼻から入れてのど・食道を経て胃もしくは十二指腸に入れる
② お腹に手術で穴をあけて胃もしくは十二指腸に入れる
などがあります。
鼻からチューブを入れていることが、本人の苦痛も多く、嚥下訓練の妨げになる場合があることから、長期間、経腸栄養が続く場合は②を選択することが多いです。
栄養剤はどんなもの?
今では既製品の栄養剤が主流ですが、50年前の経口摂取困難な患者さんの経腸栄養は胃につながっているチューブに漏斗をつけ、やわらかくした食事をミキサー状になるまで自分の口で噛んだ後、漏斗に吐き出し胃に入れていたと聞きました。
それから50年、既製品の栄養剤が普及しました。
イメージは牛乳や豆乳のように不透明で少しとろっとしています。容量は1回量、200ml~400mlが主流です。
栄養剤の成分は日本人の摂取基準に準じて栄養が過不足ないように作られています。
また、不足しがちな栄養素は少し多めに入っていることもあります。
衛生面においてもチューブの付着性をいかに減らし、菌の繫殖を防ぐかなど工夫があります。
当院で使っている経腸栄養のご紹介
当院で使っている栄養剤を元に栄養剤の選択肢の一例をご紹介します。
液体の栄養剤を中心にお話します。
当院で使っている液体の栄養剤の種類は主に3種類あります。
① K2sなど:短期使用型、刺激の少ない栄養剤
② K3sαなど:長期維持型、1日に必要な栄養素を満たす栄養剤
③ K4sなど:長期維持型、②よりもたんぱく質の割合が多い栄養剤
があります。
使い分けは経口摂取ができなくなり、経腸栄養に入るまでに経静脈栄養で栄養を取っていたなど、腸を使っていない期間が長い場合はまず①を使います。
水分と脂質の乳化剤に卵黄レシチンと使用しているので、消化吸収されやすいと言われています。
少しずつ腸を慣らす目的で使います。
次に②を使います。
②はたんぱく質がやや少ないため腎機能が落ちている方や小柄な方などに使います。
そして、腎臓機能に問題がない場合や栄養状態が悪い場合は③を使います。
経口栄養から経腸栄養に移行する期間が短い場合は①を使わず、②や③から開始することもあります。
さらに栄養剤の種類だけでなく、栄養剤の量や入れる速度を調節する場合もあります。
その他に形態の違いで半固形のもの選択肢することもあります。
経腸栄養での栄養摂取は経口で食事を取っているときよりも体内に入れる栄養に左右されやすい状態です。
状態を経過観察するために、血液検査や身体検査をします。
血液検査からは入れている栄養剤がしっかり吸収されているか、栄養素の過不足はないかなどがわかります。
身体検査では脂肪が増えてないかなどを確認しています。
栄養剤として手作りの食事を注入したいんです
今は多くの方が既製品の栄養剤を使って栄養補給されます。
しかし、ご家族の希望で一例だけご家族が食べている食事と同じものをミキサーにかけてチューブからいれたことがあります。
まず、家族の方に注入することに慣れてもらう
「注入するのだいぶん慣れてきたわ。」
「家に帰っても出来る気がしてきた。」
「ミキサーした食事を入れたい。」
「ミキサー食を入れたことはないですがやってみましょう。」
そのため・・・。
注入できるミキサー食を厨房で作ること
「え?口から食べる用ではないんやね。」
「細いチューブを通すんやね。」
厨房では出来上がった食事をミキサーにかけ、ザルで越して、粒はないかを1品1品確認して、適度なとろみをつけて、注入しやすい器に入れて用意しました。
「これくらいのとろみ具合でいいんかな・・」
そして、病棟で家族に注入してもらう
その出来上がったものを15cmくらいある大きめのシリンジで吸い、チューブを通して、胃に入れていきます。
「これなんやろ?」
「すき焼きです。」
「ほんまや!おいしそうなにおいがするね。」
自宅に帰るため奥さんにミキサー食を作ってもらう
「私、料理することは好きなんよ。」
「あれはミキサーしても粒が残るね。」
「おかずと野菜の量は1日にこれくらいです。」
「ワカメもミキサーはかかりにくいですね。」
1つ1つ段階を踏みながら初めての試みでしたが大きなトラブルもなくミキサー食の注入を続けることが出来ました。
ミキサー食を注入するには細心の注意と周りの理解や協力がかなり必要になりますが1つの選択肢になりうると感じました。
このように経腸栄養を始めて
どんなものを栄養として取るかは1種類ではありません。
その方の状態に合わせて種類や速度、量などを調整しながら栄養を入れていきます。
これが栄養を取ることは生きることにつながると考えています。
どのような栄養剤が入っているか興味を持たれた方は管理栄養士にお声かけください。