「階段の上り下りがしんどい」身近な症状が手がかりに!?僧帽弁閉鎖不全症とは

僧帽弁閉鎖不全症とは…

心臓の僧帽弁が閉まらなくなり、血液が逆流している状態です。
「軽い運動や階段を上ったときにしんどい」「足がむくんでだるい」といった症状が現れます。
重症になると、座っている時よりも寝ている時のほうが、息が苦しくなる起坐呼吸と呼ばれる症状などが現れます。

ではまず、僧帽弁について簡単に説明したいと思います。
心臓はだいたい握り拳大の臓器で、心臓の中には左心室・左心房、右心室・右心房という4つの部屋が存在します。
左心室と左心房の間で血液を送り出すために開いたり、血液が逆流しないように閉じたり、ドアのような役割をしているのが僧帽弁です。
その僧帽弁が正常に機能せず閉まらなくなってしまうのが僧帽弁閉鎖不全症です。

心臓は全身へ血液を送り出す働きをしていますので、本来体へ送り出されるはずの血液が逆流してしまうと、体に行き渡る血液の量が減ってしまいますね…
心臓は足りない血液を送り出すために心臓自体を大きくし、より沢山の血液を送りだそうと一生懸命頑張りますが、無理が続けばいずれ心臓は疲れてしまいます…
そうなると正常な機能を保てず心不全と呼ばれる状態に陥ります。

ここで、僧帽弁閉鎖不全症で手術を行った実際の症例を紹介したいと思います。
患者さんは健康診断で「僧帽弁の逆流の音がある」と心雑音を指摘され精査目的で当院を受診されました。
そのときに行った心エコー(心臓超音波検査)の画像です。
僧帽弁の先がしっかり閉まっていませんね。
もっと分かりやすくするためにエコーでは血液の流れる向きや速さ、量に合わせて色をつけて表すことができます。
右の画像で激しく色がついているのが逆流です

この患者さんは高度な僧帽弁閉鎖不全症であると診断され、その後、閉まらなくなっている僧帽弁を治す手術『僧帽弁形成術』を受けられました。

僧帽弁形成術とは…

弁膜症の外科治療の方法の1つで、自分の弁を残し、その弁を切ったり、縫い合わせたりして自己の弁を手直しする手術方法です。
僧帽弁置換術という自分の弁を取り出し、人工の弁を新たに入れる手術に比べ、心臓血管外科医の高い外科的技術が必要となりますが、感染症や血栓症のリスクが低いというメリットがあります。

僧帽弁置換術とは…

僧帽弁置換術で使用する人工弁には機械弁と生体弁という2種類の弁があります。
機械弁は血栓という血液の塊ができやすくなり、血液をさらさらにするための抗凝固薬(ワーファリン)を生涯服用し続ける必要があります。そのため、出血のリスクや女性の場合、妊娠が困難となります。
生体弁の場合は機械弁のような心配はなくなりますが、耐用年数が短く10年~15年で構造的な劣化をしていき、そのときには再手術が必要となります。

このように僧帽弁形成術の方が、感染症や血栓症のリスクが低いだけでなく、生存率や心臓機能の回復度などあらゆる面で弁置換術より優れています。

では、僧帽弁形成後の患者さんの心エコーの画像を見てみましょう
弁の先がしっかり合わさって閉まっており、手術前に見えていた逆流も綺麗になくなっています。
このように、障害がおきていた弁でも、弁を形成し直すことで治療が可能になります。

今回、紹介した患者さんは健康診断を受けることで病気を発見することができました。
健康診断を受けることはもちろん大切なことですが、普段感じることのある、動悸や息切れなどの身近な症状が、病気への大きな手がかりになるかもしれません。
気になったことがあれば、お近くの心臓専門の病院へ相談してください。