血管の役割と動脈硬化
体の中に張り巡らされている血管、今日は特に動脈についてお話します。
動脈は、心臓から送り出された酸素と栄養成分に富む血液を体の隅々にまで行き届かせる仕事をしており、構造は内側から、内膜・中膜・外膜と呼ばれる三層で構成されています。
内膜は、基底膜上に扁平上皮細胞が並んだ柵のような構造になっており、これを特に内皮細胞と呼びます。
中膜には、弾性線維や膠原線維が含まれ、心臓から送り出された血液の圧力を受け止める仕組みとなっています。
内皮細胞について詳しく!
血管内皮細胞は、血管内で血液が凝固しないように、血小板凝固抑制作用をもつ物質を常に放出して、血液凝固を抑制し、線溶反応を起動し、結果血栓が形成されないように作用しています。
血管内を血液が流れると、血流により『ずり応力』が生じます。
このずり応力とは、液体の移動に対する抵抗力を意味しています。
ずり応力は、生体内では、血管内皮細胞に抗血小板凝集作用・抗血液凝固作用を発現させます。
高いずり応力がかかると、プロスタグランジンや一酸化窒素といった抗血小板作用物質や、組織プラスミノゲンアクチベーターという線溶促進物質が放出されます。
動脈硬化は「血流が変わる場所」に生じやすいといわれています。
これはどういうことなの?
血液の流れは、通常、血管の中央に最大流速を持ち端に行くほど速度が低下する集団、いわゆる層流を示しますが、分かれ道や湾曲している道、蛇行している道では、血流が変化し乱流となることがあります。(→川の流れを想像してみてください!岸辺より中のほうが流れが速く、蛇行したところは流れが速くなったり、ゴミがたまってたりしますよね?!)
このような動脈の分岐部・蛇行部などでは、乱流が生じ、ずり応力が低下しており、結果として血液凝固を生じやすい状態にあると考えることができます。
また、ずり応力が低下すると、血管内皮細胞と白血球間の接着分子の発現が亢進し、内皮細胞上に白血球が接着しやすい状態になります。
血球の接着とは・・・
血管内皮細胞は炎症などの障害時に、細胞表面に接着因子を発現し、白血球が結合するようになります。
結合した白血球は、組織に侵入し、障害部位にて異物を貪食するようになります。
組織内に遊走した白血球はマクロファージと呼ばれるようになります。
マクロファージとは、貪食能を持つ単核細胞で、抗原提示や異物処理などに関わる細胞で、単球から分化します。
動脈硬化の起こり方
一般に、何らかの原因により内皮細胞が障害されると動脈硬化が始まると考えられます。
障害の原因は、
①高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙などにより生じる代謝上の化学的刺激
②乱流による機械的刺激
と言われています。
刺激を受けた内皮細胞は、抗血小板凝固作用を示していた防御壁としての働きを失い、脂質に対する透過性が亢進し、内膜内にLDLを蓄積していきます。
1.内膜内のLDLは容易に酸化され、酸化型LDLとなる
2.酸化型LDLは細胞毒性を持つので、これを排除しようと内皮細胞が、単球遊走刺激因子を放出
3.それに応えて組織内に集まったマクロファージは、旺盛な貪食能で酸化型LDLを取り込み続ける
4.マクロファージは取り込んだ酸化型LDLの分解物を細胞質内に溜め込み、泡沫細胞となる
5.泡沫細胞は、さらに新たなマクロファージを呼び込む
これが動脈硬化の初期像と云われています。
実際に私たちの体の中では動脈硬化病変は、内膜の肥厚として現れます。
これをプラークと呼びます。
動脈硬化病変は、体の中の様々な血管に影響を及ぼします。
心臓の栄養血管である冠動脈に動脈硬化変化を起こせば、虚血性心疾患に、太い血管である大動脈には大動脈瘤や、ときには大動脈解離に、太ももや足先にかけての血管が動脈硬化におちいれば慢性動脈閉塞症を発症することになります。
私たち検査科では、臨床からのオーダーにより、これらの動脈硬化性変化を超音波によって調べています。
超音波検査を行う際には、ぬるぬるしたゼリーを当該部位に塗らせて頂いた上で、検査を行います。
体表と超音波プローブの間に空気の層があると強い反射により超音波検査がうまく行えないためです。
また、ゼリーにより体の表面でプローブを滑らすことで検査を早くスムーズに進めることができます。
体に害がないゼリーですのでご安心ください。
対象が丸い筒状の血管であるという特性上、可能な限り360°全ての方向から対象となる血管に超音波を当て調べる必要があります。
検査中に、仰向け・うつ伏せ・側臥位・座位など色々姿勢をかえてもらうことがあうのはそのためで、隅々まで観察をするために、検査対象部位を広く開けていただく事をお願いすることもあります。
例えば頸動脈エコーでは、首筋の検査になりますので、首回りを広く開けていただく必要があり、首の詰まっていない衣服できていただくとありがたいです。
*次回は頸動脈エコーについて・・・・お楽しみに!