『手当』の仕方を考える

友人と一緒に奈良の大神(おおみわ)神社に行った時のお話です。
大神神社は三輪山をご神体とし、山全体に様々な神社のある日本最古といわれる神社です。
山の中にあるだけあって、木々に囲まれ厳かな空気の流れる神秘的な場所です。
いわゆる『パワースポット』と呼ぼれる場所があちこちにあり、と言うより山や町全体が全てパワースポットのような雰囲気があります。

全部を巡ってもかなり広大な敷地なので(何せ山全体ですから!)かなりの時間を要します。
奈良は近いといえど、しょっちゅう来れる場所でもないので、少し足を延ばして外れにある
檜原神社にも行ってみることにしました。

土曜日でしたが、あまり人もおらず、私たちとあと一組の観光客らしき三人組がいるだけでした。
お参りをしていると、その三人組の話が聞くともなく聞こえてきました。
「その右側の木がすごくて(パワースポットで)、よく龍が現れるんですよ。」と三人組の中の一人、
70代くらいのおじさんがもう一人の30代くらいの女性に説明をしていました。
そしておじさんは、本殿の右側にあったその木の前に女性を立たせました。
左側には立派な杉が立っていたので、「ご神木」と言うならそちらの杉の方がふさわしい気がしたので私は意外だなと思い、
もっと話を聞きたくて友人と一緒に近寄って行ったのです。
私たちが近寄って行ったのでおじさんは私たちにも話をしてくれました。
そして「ちょっと貸してみて。(気を)入れてあげよう」
と友人の手を取って自分の手で包み込みました。
すると友人は、「温かくなってきた」と言います。
私は興味と疑心暗鬼の気持ちを持って二人を見比べてしまいました。
次は…そうですよね、お決まりのごとく私の番です。
「あなた(私)も、やってあげよう」と言って私の手を取り両手で包み込みました。
するとおじさんは「この人はちょっと時間がかかるわ」と少し眉間に皺を寄せましたが、
しばらくして「あぁ、入りだした、入りだした」と言います。
そう言われると、なんだか手がほんわか温かくなってきた気がしたので不思議です。

『時間がかかる』ってどういうこと?と考えていると、
おじさんは友人のことを「この人は『地』が出来上がっている」と言います。
信仰心が厚く、お参りなど行い、修業ができているという意味でした。
私は「まだまだ」なので、『地』が固く気が入りにくいということです。
…複雑な気分です。
世の中は不思議なことが多く、実際に目には見えないものを感じたり、
何かに守られているなんてお話はたくさんあります。
私はそういった目に見えないものに対して、肯定派でも否定派でもありません。
おじさんのことも、最初は半信半疑でみていました。
しかし、実際のところおじさんの見立ては当たっていたのです。
友人は自己啓発のためにたくさんの本を読み、たくさんの人と会って色んなことを吸収しようと常に前向きです。
神社仏閣が大好きで、よくお参りにも行っています。
そして、いつも、いろいろなことに感謝をしています。
私はというと普通です。悪いことはしませんが、煩悩はちょいちょい働きます。
おじさんの言うところの「まだまだ」な状態です。
こういう話の後、もしおじさんが壷やら水やらを勧めだしたら完全に怪しいということになりますが、
おじさんはただただ私たちに良い状態になってほしいと思っている様子だったので
信じるというよりありがたい気持ちになっていました。

昔から、治療のことを「手当」と言います。
実際に大昔は体の悪いところに医者(霊能者)が手を当てて治したり、今でも母親が撫でてくれると子どもの腹痛がおさまったり、
そんなことを一度は皆さん経験されたことがあると思います。
科学的にも、手を当てられると脳内に幸せホルモンと呼ばれる「オキシトシン」が分泌され、
実際に幸せな状態になっていることが証明されているそうです。
さすがに現代、手を当てるだけで実際に病気を治すというお医者さんは居ないでしょうが、
看護師さんに手を握ってもらって落ち着いたり、背中をさすってもらってホッとしたり、
足をマッサージしてもらって痛みが和らいだり、手当はずっと行われています。
そこで、ふと思ったのですが、私たち医事課の職員でも手当をすることができるのではないでしょうか。
お医者さんでも看護師さんでもないので治療はできませんが、温かい言葉をかけるだけでも手当になるのではと思いました。
そのおじさんのように相手を思って、患者さんに少しでも居心地よく居てもらいたいと思えば、
言うことすることが全部手当になるのではないかと思ったのです。
受付をするだけ、会計をするだけではなく、医事課職員としての手当の仕方を考える。
ただただ患者さんに良い状態になってほしいと思い、声を掛けたり、行動を起こす。
そうすれば私たちも治療の一環に携わることができると感じました。

病院全体で患者さんを治療する、手当する、みどり病院がそんな病院になれば素敵だなと思いつつ、
働きながら修業ができて私も『地』が固まっていくかもと考えています。
あ、でもこれって煩悩ですかね?