人工透析を行っている時にスタッフから「温度を下げますね」と言われる事が時々あると思います。これは一体何の目的があって何の温度を下げているのでしょうか。
これは血圧を上げるために身体に返ってくる血液の温度を下げています。
血液の温度を下げるとなぜ血圧が上がるのか、これは身体に戻る血液が冷たくなるにつれて人間の体は末梢血管の抵抗があがるためです。つまり血管が寒さで収縮し細くなる、すると体内で血液が流れにくくなる。しかし心臓をそれに対応してより強く血液を送り出そうとする。
これにより血圧が上がったという事になります。
では逆に温度を上げたらどうなるか。この場合は下げた場合とは逆に血圧は下がります。
原理としては下げた場合の逆で血管が広がるので心臓の血液を送り出す力が弱まるという事になりますね。
しかし上限なく温度を下げたり上げたりしていいというわけではなくやはり限度があります。
あまり患者様の体温から離れた温度にしすぎると寒すぎる、もしくは暑すぎるなど不快な症状をきたす恐れがあるのでみどり病院では透析中の温度は35~37度の範囲で設定しています。
ではどこで温度を下げているのか。これはダイアライザーの内部で温度が上下しています。
ダイアライザーとは写真にある筒状のもので、この中には約一万本の細い糸と透析液という液体が流れています。細い糸の中には血液が、その外側には透析液。
それらがダイアライザー内部で糸を介して温度を等しくしようとします。ダイアライザーから出てきた血液は尿毒素や余分な水が取り除かれた綺麗な血液となって体内に返ってきています。
温度を下げるといわれた場合は今説明したダイアライザーの中にある透析液の温度が下げられたということになります。
・血液は赤の⇒の向きにダイアライザーという筒へ入って血液の中の毒素等を除去しつつ温められて出て行きます。シャント肢から出た血液はダイアライザーの赤い方から青い方へ流れ出て体内へ帰っていきます。
・透析液は青の⇒の向きに流れ、毒素の除去と血液の温度を調整していきます。
シャント肢から脱血した血液はチューブの中で外温により温度が下がります。
それがダイアライザーの中に入り、糸を介して触れる透析液の温度によって血液の温かさが上下し、ダイアライザーから出た綺麗な血液はまたチューブを通して外温によって少し冷たくなりながら体内に返ってきます。
返ってきた血液がどれほどの温度かによって体は反応し、血管が収縮もしくは拡張して心臓がそれに対応。心臓一回の拍動の強さが調節される。これが血圧の数値の変化となります。拍動が強まれば血圧上昇。弱まれば血圧下降の反応が出やすくなります。
現場での実際の効果
温度調節はあくまでも一時しのぎの手段でしかなく、血圧がこれで上がったからと言って患者様の負担がとても軽くなるという事には必ずしも繋がるとは限りません。
温度を下げてもその効果自体はそれほど劇的に変わるというほどでもなく、透析にて大量の体内の過剰な水を引けば心臓にそれだけの負荷がかかり血圧は下がっていきます。
更にそこに血液を循環させるために、下げた温度の分だけ狭まった血管に血液を対して全身に巡らせる為の拍動をさせるのですから透析が終わった時にはとても疲れていると思います。しかし温度を下げて血圧を上げなければ血圧は下がり続け、血圧が下がれば吐き気を始めとした不快な症状をきたしてしまうでしょう。
こういったジレンマが人工透析の温度調整にはあります。
他にも血圧を上げるために足を高くする。血圧を上げる効果のある薬を投与するといった手段もありますが、いずれもやはり一時凌ぎにしかなりません。過剰な体重増加をしてしまった患者様の余分な水を引いた場合、温度低下よる血圧上昇させる作用より水を抜いたことによる負荷が勝り血圧は下がる事も多いです。
ではそもそも水を抜かなければいいのでは?と思うかもしれませんが身体に余剰な水分が残れば残るほど人体には害があり、程度によっては命に関わります。その為余分となっている水を抜くことは必須となります。
しかし水抜きをしたからと言って必ずしも血圧が下がるというわけではなく、抜く水の量が少なければ少ないほど血圧は変動しづらくなり、身体の負担は減少します。
その場合は温度を下げる必要もなくなります。
最後にまとめとして人工透析における温度とは
・温度を下げれば個人差はあるが血圧が上昇する効果がある
・水抜きの量や体調次第では血圧上昇には至らない
・血液はダイアライザーの中で温度が調整されている
以上となります。
ダイアライザーによる温度調整の影響で患者様には寒さを感じさせる事もあるかもしれませんが、血圧への影響も加味して透析スタッフは温度調整をしています。
しかし患者様の希望でも温度を調整いたしますので何かあれば遠慮なく声をかけていただければと思います。