血管造影検査という検査を聞いたことがあるでしょうか?
血管造影検査とはX線を用いてカテーテルという細い管より体内の血管へ造影剤(血管を写す薬剤)を注入し血管の状態を知る検査です。当院でも心臓カテーテル検査を週に2日ほど行っています。心臓カテーテルはカテーテルを手首や足の付け根から挿入し心臓まで進め冠動脈と呼ばれる心臓の表面にある血管に造影剤を注入し異常がないかを調べ、異常があれば治療するといったものです。また、この方法を用い足の血管を観察する下肢造影検査も行っています。この場合は足の付け根からカテーテルを挿入し下肢の動脈まで進め造影を行います。
両者とも検査の際に造影剤という薬剤を使用しますが、腎臓の悪い方は造影剤が負担となります。この造影剤は通常の方であれば尿と一緒に体の外へ出ていきますが腎臓の機能が悪い方は腎臓の機能が更に悪化する場合があります。腎臓が悪い方には造影剤の使用量をなるべく少なくし補液で充分に造影剤を洗い流し、そういった副作用を抑えることができますが、腎臓の機能に問題がなくても造影剤アレルギーがある場合には造影剤を使用することができません。造影剤アレルギーには血圧低下、蕁麻疹や発疹、唇が腫れてくるといった症状から気道の閉塞、ショックを起こすなど重篤なものまで患者さんにとって様々です。数10年以上前の造影剤はこの様な副作用が出やすいものでしたが造影剤も改良され副作用が出る患者さんが少なくなりましたがゼロではありません。
では、このような腎臓の悪い患者さんはどの様な方法で造影をするのがより安全なのでしょうか?
数年前より炭酸ガスを用いた炭酸ガス造影というものがあります。これは単純に造影剤の代わりに炭酸ガスを血管へ注入するといったものです。炭酸ガスはアレルギーが少なく、血管内に注入しても血液に溶けやすい性質なので人体に害は少なく安全に行える検査です。
当院でも過去に数例ですが炭酸ガスを用いた造影検査・治療を行った経験があり、実際に当院で週に3日の透析治療を行っており更に造影剤アレルギーのある患者さんの下肢造影の検査・治療を行いました。結果としては何の問題もなく検査・治療を行うことができました。その患者さんは今でも自身の足で歩いて病院まで歩いて来られて透析治療を行っており透析を行っています。
ただ、この炭酸ガス造影には悪い点もあります。炭酸ガスを注入した時に痛みを生じることが稀にあること、造影剤の様な液体と違い炭酸ガスは気体なので血管内に注入する際に外気の空気と混ざらないように注意を払うこと、また検査の都合上心臓の血管に用いることはできません。
カテーテルによる検査・治療は心臓に限らず全身の血管に対し行われ患者さんに最も適した治療法が選択できるようになり、様々な器具・薬剤が開発され治療の幅も広がりましたが、その分我々医療従事者も勉強することが増え初めてその検査・治療に立ち会う時はドキドキして頭の中もいろんなことを想定して準備しています。そして何よりも患者さんが安全に検査・治療に向かってもらえるようにという思いは今も昔も変わりません。将来、人工知能“AI”が発達していったとしても人と人の繋がりはなくさずに検査・治療に立ち会っていきたいものです。