人と機械によるAI(愛)のあるチーム医療とは?〜患者さん一人一人により良質な治療を提供するために〜

こんにちは、みどり病院臨床工学技士のMです。
先日、とある循環器系の学会に参加し、気になった演題があり話を聞くことにしました。それは「Co-Medical + AI」というものでした。Co-Medical (コメディカル)とは医師の指示の下に業務を行う看護師、臨床工学技士、診療放射線技師、臨床検査技師などの医療スタッフの事を指します。

また最近巷でよく聞くAI(エーアイ)とはArtificial Intelligenceの略で人工知能の事を言い、医療現場にも活用されることが増えてきたと感じます。普段の生活の中で最も普及してきた代表的な医療アイテムとしてはスマートウォッチが挙げられると思います。時計としての役割だけでなく、万歩計としての機能、消費カロリーの計測、ハイスペックの物になると血中酸素飽和度の計測も可能で、多機能に活躍してくれます。

その中でも心拍数の計測機能により、失神やめまいなどの症状が出た時の心電図の観察ができる様になった為、発作性の不整脈を発見できたり、一部には重症不整脈の可能性が示唆され早期発見や治療(ペースメーカーなど)に繋がったケースも報告されています。

今回の学会では、そういったAIが実際の医療の現場でも活用されることにより、今後どういった医療・社会の変化が起きうるか、その展望や課題などが取り上げられ、議論されていました。検査・治療において、病変部の大きさや状態を知るために機械を用いて計測するのですが、操作するスタッフによって誤差があること、計測にかかる時間に差があることが、医療課題として取り上げられてきました。

これから、AIがますます医療現場で活用されることにより、簡単な操作でどのスタッフも同じ計測結果を出せるという均一性の確保が最大のメリットと言われていました。

しかし、一方では、それがデメリットであるとする意見もあります。今までは機械を操作・計測するには熟練の腕が必要とされ、新人スタッフがそこまで達するのには長い時間と経験を積むという事が課題とされていました。それがAIの活用により長いトレーニング時間と経験の蓄積が不要になり、AI活用環境で育ち、それに過剰に依存したスタッフでは、将来不測の事態に対応できず、また日常診療の中でもメディカルスタッフ自身の病変部を診る力が低下するのではないかと懸念が指摘されています。

さらに、誰でも同じ計測結果を得られるのならば、現在の専門資格職に限らず、他職種スタッフで代替することも可能で、検査プロセスの簡便化により、医療スタッフの人員削減につながるのではないか等々、現段階で多くの懸念が挙げられていました。

医療AIセッションで印象に残ったディスカッションは、人がAIや機械に使われるのではなく、あくまでも私たちは使う立場なのだということです。データ解析や情報収集ではAIや機械に劣るが、人間は測定結果をそのまま用いて治療するのではなく、人体のダイナミックな病態や社会背景、そして時間による変化(病歴)も加味して、ある種時空間的な治療の判断を多職種が連携してチーム医療を行なうことが、患者さんへの良質な医療提供に最も重要なのではないかと言われていました。

私たちの普段の日常生活も、ITによる自動化やAIの普及が進み、どんどん便利になってきていると思います。スーパーのセルフレジ化、有人の銀行より自動ATMの普及、車の自動運転技術の向上、ファミレスではロボットが料理を持ってくるなど便利になってきた半面、トラブルがあった時などは、やはり人間が対応しなくてはなりません。個人的にも何回かトラブルに巻き込まれた経験があり対応してくれたスタッフに助けられ完全な自動化は難しいのだと感じたこともありました。

将来の医療現場の理想は、AIの特長をよく理解し適切に活用、共存し、私たち人間の強みをより活かして、患者さん一人一人により良質な治療を提供できるような、人と機械によるAI(愛)のあるチーム医療なのかもしれません。