皆さんこんにちは。
私は当院で栄養に関わる仕事をしているのですが、皆さんも聞き馴染みのある栄養素といえば、炭水化物、タンパク質、脂質などが有名ですよね。
その中で、たんぱく質は筋肉、皮膚、髪など人体の構成成分としてはもちろん、免疫機能やホルモンや酵素の生成に関わる重要な栄養素です。
タンパク質を多く含む物といえば、やっぱり肉が思いつくと思いますが、皆さんは熟成肉ってご存知ですか?
熟成肉はここ数年のブームの影響で、街中でも熟成肉専門店やチェーン店での熟成肉をアピールしたメニューなどをよく見かけるようになりました。
肉の中でも特別美味しいという評判もあり「熟成肉」や「熟成」という言葉は今やお客の目を引く一つの売りになっています。
しかし、最近、熟成肉についてのあるニュースを目にしました。
牛肉などを寝かせてうまみを引き出す「熟成肉」について、東京都が初めて実態調査を行ったところ、熟成期間などに大きなばらつきがあることがわかった等の内容でした。
熟成肉を扱う店は増えてきている一方、業界内で統一された定義や規格基準はなく、東京都が都内11の飲食店や販売店などを対象に実態調査を行ったところ、肉の熟成期間は、大半が28日前後だったが、全体では14日から100日とばらつきがあったそうです。
また、熟成によってついたかびを取り除く「トリミング」という作業では、全ての事業者が目で見て確認するだけだったそうです。
聞き取り調査では、失敗して肉を腐らせた経験があったり、熟成肉を生で食べられると間違った認識を持つ事業者もいたそうです。
今回の結果を受け、東京都は、熟成肉の低温管理の徹底や十分な加熱などの必要性を、事業者や消費者に伝えていくというニュースが放送されていました。
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えっ?熟成肉って安全じゃないの?腐る手前のことなの?
冷蔵庫に3日間入れているのと、管理のなされた肉は何が違うのか?
そもそも熟成って何?
と、熟成肉の謎は闇の中。。。
正直、私もそんなハテナを持つ一人だったので、色々調べてみました。
肉を熟成させる方法には色々な方法があり、公式的な定義はありませんが、大きく2つに分けられます。
1つ目は、ドライエージングビーフ=乾燥熟成肉といわれているもので、手間もかかり、旨みも多いアメリカを本場とする「ザ・熟成肉」のことです。
日本ドライエージング普及協会では①温度は1~2℃前後、②湿度は70~80%、③強い風を当てる事を熟成肉の基本的な要素と挙げており、この徹底した管理を受けた肉こそ、旨みであるアミノ酸を多く含んだ肉になるのです。
①の温度帯や②の湿度帯は活動する微生物に合わせコントロールするための環境であり、そこから外れると毒素を持つ雑菌やその他の熟成に向かない微生物を育ててしまう可能性もあり、とてもシビアな環境作りが求められます。
③の強い風を当てる意味は、食品中には水分が含まれていますが、その水分は「自由水」と「結合水」の2つに分けることができます。
「自由水」は食品中の成分とはくっつかず、凍ったり、蒸発したりする微生物が利用しやすい水の事です。
肉を買った時に見覚えがあるピンクのドリップ。
これは自由水が流れ出しているものです。
「結合水」は食品中の栄養成分とくっついていて、また、微生物が利用しにくい水の事です。
つまり微生物が利用できる水が多い=自由水が多い食品こそ腐敗しやすいというわけなんです。
この工程では強い風を当てることで食品内の自由水は表面に出て、表面に必要な常在菌がカビを形成します。
表面のカビをそぎ落とすため、最初の重量の60%程に減ってしまうため、金額も高くなるわけです。
つまり①②③の環境条件を満たしたものは、腐敗させる菌を抑え、熟成の際に有用な働きをする特定の菌は、酵素をつくり出してたんぱく質を分解し、アミノ酸を増やすため、肉の内部の旨みが凝縮されるんですね。
牛肉の水分は赤身に含まれているので、熟成肉は赤身肉に向いています。
逆にサシの入った脂身の多い肉は乾燥により脂の酸化が進んで風味が落ちてしまうことがあるそうです。
熟成には40日~60日の期間が必要であり、旨みであるアミノ酸は5~6倍に増え、繊維もほぐれます。
これまでに書いた内容を全部クリアできたとしても、自宅でできるかと言えば、答えはノーで、熟成庫に菌床をつくったり、ほかの雑菌を寄せつけない工夫をしたり、シビアな環境づくりに取り組む必要があるため、冷蔵庫に置いておくだけでできるわけではないのです。
2つ目にウェットエイジングビーフという熟成肉があります。
ウエットエイジングは、もともとは輸送の際の肉の劣化を防ぐため、保存のための方法で、
肉を数日寝かせると肉質がやわらかくなり、うま味が増すことがわかり、ウエットエイジングと呼ばれるようになったのです。
日本でよく取り扱われているのがこれです。
しかし、元々保存が目的なので、お肉はやわらかくなるのですが、うま味はドライエイジングと比べると、それほどアップするわけではありません。
また、熟成香もありません。
まして、お店に経験と知識がないと、熟成と劣化の区別がつかないこともあるため、注意しなければいけません。
安定した保存性と食材ロスは少ないため、価格上昇はあまりないのが特徴の熟成肉になります。
ちなみに、ビーフジャーキーは牛肉を塩漬けにした後に、いったん塩抜きをし乾燥させた保存食なので、熟成ともちょっと違うんですね。
熟成は自らの酵素でたんぱく質を分解してアミノ酸という旨みに変化する方法のことで、発酵は微生物が糖質を分解して有機酸や二酸化炭素やアルコールなどを作り出す方法のことなんですね。
いかかでしたか?
漠然とおいしい肉のイメージだった熟成肉について、謎は少しは解けたでしょうか?
熟成肉については、これから安全に取り扱われるように整備がどんどん進んでいくと思われます。
また大きなブームも起こるかもしれません。
残念ながら、病院の食事で熟成肉をお出しすることは出来ませんので、皆さんどうぞご家庭で食べてみてくださいね。