食物繊維で腸内環境を整えよう!!〜管理栄養士の考える基礎代謝を上げやすくするライフスタイルとは④〜

前回の『中年女性の「痩せる」を叶えたい~管理栄養士の考える基礎代謝を上げやすくするライフスタイルとは~』という記事で、『③筋肉を作りやすい食事』を考えました。今回はこのシリーズ最後の『④腸内環境を整える食事』のポイントを考えたいと思います。

◆基礎代謝量を上げやすくする・維持するには4つのポイント◆

①水分をしっかり飲む。
②身体を温める食事をする。
③筋肉を作りやすい食事をする。
④腸内環境を整える食事をする。

ここで、1日の摂取カロリーは、年齢・性別・運動量によって変わってきますが、30~49歳の女性、運動量普通(身体活動レベル普通Ⅱ)2000kcal/日の食事で考えていきます。

『④腸内環境を整える食事』

「腸内環境を整える」とは、腸の中の善玉菌を増やし、腸の働きを活発な状態にすることです。腸内環境を整えることで、食事のエネルギーをしっかり身体に取り込み、効率的に消費することができます。
これはどういうことなのでしょうか。
腸には小腸と大腸とありますが、小腸と大腸の働きを簡単に説明したいと思います。

〈小腸〉

摂取した食べ物を消化管で消化・分解され、栄養素として身体に吸収されます。栄養素の約90%は小腸で取り込まれているといわれています。小腸には大腸ほど細菌は棲息していませんが、乳酸菌などがいます。小腸が活発になることでエネルギーを全身に運び、血液の循環も良くなり、体温も上がりやすくなることにつながります。
また、エネルギーが行き渡った内臓の働きも活発になり、基礎代謝も上がりやすくなることにつながります。

〈大腸〉

水分や一部のミネラルを吸収し、便を作る働きをしています。大腸には多くの細菌が棲息しているため、それらの細菌が腸の組織へ接触・侵入しないように、大腸の表面は分厚い粘液のバリアで覆われています。このバリアは大腸を通過する便をコーティングすることで潤滑油のような役割も果たしています。

大腸の働きが活発になれば、腸内環境が整うことで電解質の吸収やビタミンB群(2・6・12)やビタミンK、葉酸、ビオチン、パントテン酸など7種類の合成促進で、基礎代謝が上がりやすくなることにつながります。

小腸と大腸の働きを簡単に理解したところで下の表は、体内の胃・小腸・大腸にいる主な細菌の種類を表したものです。
腸内細菌は大きく通性嫌気性菌と偏性嫌気性菌に分けることができます。前者は酸素があってもなくても生育できる細菌、後者は酸素がある環境では発育できない細菌です。

小腸にはわずかに酸素が残っているため、主に通性嫌気性菌が住みついています。具体的には乳酸菌や大腸菌が多いです。一方、大腸にはほとんど酸素がありません。そのため、大腸には通性嫌気性菌と偏性嫌気性菌の両方が住みついています。偏性嫌気性菌の例として有名なのはビフィズス菌などです。

細菌を分類すると「界」→「門」→「綱」→「目」→「科」→「属」→「種」という風に細分化されていきます。これは、小腸には数十種類の細菌ですが、大腸には何百種類もの細菌がいて、小腸は大腸に比べると1/100以下の細菌の数になります。大腸にはたくさんの細菌の種類がある為大きく分けて「門」で、小腸は細菌の数が少ないので細かく分けた「属」で表しました。

次に細菌がたくさん存在している大腸での働きを善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分けました。

  • 善玉菌→身体にいい影響をもたらす菌のこと
  • 悪玉菌→身体に悪い影響をもたらす菌のこと
  • 日和見菌→どちらにも属さない菌のこと

下の表は、大腸に多くいる細菌を善玉菌・悪玉菌・日和見菌の種類に分けた表です。

上記の事をふまえて腸内環境を整える食事を考えてみました。

1.小腸の腸内環境を整える食事は・・・

小腸には大腸ほど腸内細菌はいませんが、食物繊維を多く摂ることで糖質や脂質の過剰な吸収を防ぐので食物繊維を多く含む食品を摂ることが大事です。特に水溶性食物繊維は食べ物を包み込んで消化吸収を穏やかにします。

2.大腸の腸内環境を整える食事は・・・

大腸の表面の分厚い粘液のバリアを作ることが大腸の腸内環境を整えるためには重要です。その為には、多くの腸内細菌(善玉菌・悪玉菌・日和見菌)のバランスが重要で、特に善玉菌の酪酸菌が重要です。

酪酸菌は腸に届いた食物繊維を発酵・分解して『酪酸』を作る細菌で、腸内に運び込まれた食物繊維を発酵・分解する過程で短鎖脂肪酸(脂質を構成する脂肪酸の一部)の一種である『酪酸』を作り出します。短鎖脂肪酸の代表的なものに『酪酸』のほか、酢酸やプロピオン酸がありますが、大腸の粘膜を構成する細胞が必要とするエネルギーのうち、約60~80%は『酪酸』によってまかなわれています。この大腸の粘膜を構成する細胞は水分・ミネラルの吸収や粘液の分泌を担っています。大腸のバリア機能が活発になるには『酪酸』をたくさん作りだすことが重要になります。

今回は、『酪酸』を作り出す食事を中心に考えてみました。
『酪酸』を作り出す酪酸菌は、ぬか漬けや臭豆腐などに多いと言われていますが、ぬか漬けは塩分が多く臭豆腐は癖のある食材でどちらも沢山は食べにくく、酪酸菌を食事から摂るのは難しいです。そこで、体内に元々いる酪酸菌を活発にするのが効果的とも考えられます。

酪酸菌のエサとなる食物繊維を摂取すると、腸の中に既に定着している酪酸菌が食物繊維を発酵・分解し『酪酸』を作り出してくれます。そのため、酪酸菌の働きを促し、腸内の酪酸菌を増やしていくことが重要となってきます。
食物繊維の中でも水溶性食物繊維を多く含む食品を意識して食べると良いでしょう。

また、その他に味噌、醤油、ヨーグルト、チーズ、漬物、日本酒、納豆、キムチなどの発酵食品にも善玉菌は含まれますが、善玉菌をそのまま食べても胃酸で死んでしまう事が多く、発酵食品の生きた善玉菌が腸内で活動できるのは3~4日とされているため継続的に発酵食品をとる事も大切でしょう。
次に酪酸菌のエサとなる食物繊維について考えてみました。

3.食物繊維とは・・・

食物繊維は消化酵素によって消化できない栄養素で水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分けることができます。
そして、食物繊維の生理作用は、腸内菌叢の改善で腸の蠕動運動促進、水分吸収とかさ増し効果で便量の増加、イオン交換作用で陽・陰イオンの吸着、栄養素などの吸収抑制で代謝性疾患(肥満・糖尿病・高コレステロール血症など)の予防などがあります。

下の表は、2種類の食物繊維の性質・機能を多く含む食品をまとめたものです。果物などは糖質を多く含むものが多い為、摂取量に気を付ける必要があります。

食物繊維は、生活習慣病の発症予防の観点から考えると、厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準 2020年版」では、1日あたりの目標量は、18~64歳男性で1日あたり21g以上、女性で1日あたり18g以上摂取が目標量です。2019年の「国民健康・栄養調査」では、女性30~39歳15.9g、40~49歳16g、男性30~39歳18.3g、40~49歳18.3gでした。目標量より男女とも2~3g/日の不足になります。

では、実際に不足した2~3ℊの食物繊維をどのように摂ったらいいのでしょうか。日常食べている食品と食物繊維を多く含む食品の1回に食べる量を考えてみました。
下の表は、普段よく食べる食品と食物繊維の多い食品を表にしました。

まず、水溶性や不溶性に関係なく食物繊維を多く含む食事を心がけて食事を摂ったらいいでしょう。また、水溶性食物繊維の多いわかめや昆布やごぼうを積極的に取り入れる事で水溶性食物繊維も多く含む食事になるでしょう。例えば、きんぴらごぼう、野菜のお浸し、ひじきの煮物、煮豆などの小鉢 1 皿追加、わかめや根菜野菜が入った具だくさん汁物や大豆製品(冷奴、納豆、おから等)も食物繊維の摂取量アップにつながります。

※わかめや昆布に水溶性と不溶性食物繊維の量の記載がありませんが、水溶性食物繊維(アルギン酸)は、コンブ(乾物)100g中に 20~30g含まれるといわれています。残りの5~7gくらいが不溶性食物繊維になると考えていいでしょう。

食物繊維で腸内環境を整えて基礎代謝を上げやすい身体を作り、楽しく健康を手に入れて欲しいです。管理栄養士の考える基礎代謝を上げやすくするライフスタイルシリーズはこれで終わりですが、皆様が笑顔で明るく食生活の改善を楽しめるよう、お役に立てれば幸いです。

当たり前ではありますが食生活は一生続きます。「我慢」や「つらい」食生活ではなく、美味しく健やかな食事を持続して楽しんでいきましょう。

参考:
毎日の食事から腸内環境を整える方法 | おなかの不調、整腸、便秘、軟便には酪酸菌配合のビオスリー | アリナミン製薬 (bio-three.jp)
腸内細菌叢(腸内フローラ)とは | 健康長寿ネット (tyojyu.or.jp)
腸活の新常識!?話題の「酪酸菌」で、あなたの腸を育てよう!|新陳代謝にこだわりを-株式会社メタボリック (mdc.co.jp)