新しい作用機序の関節リウマチ治療薬

私の若い頃と今では…

私の祖母は関節リウマチを患っていました。
お腹がいっぱいになるほどのたくさんの種類の薬を飲んでいたことや、関節の痛みに耐える祖母の姿を今でもよく覚えています。
痛みをおさえる治療。
それが約20年前のリウマチ治療でした。
しかし最近では、炎症をコントロールし、寛解状態を目指すことを目標とできる治療薬が出てきました。
そんな現在の治療薬の中から、今回は最近発売になった『オルミエント』についてのお話をしていきたいと思います。

関節リウマチってどんな病気?

関節リウマチは30~50歳代の女性に多く発症しますが、男性の患者さんも2割程度存在します。
現在日本では70万人以上の患者さんがいるといわれています。
関節リウマチの患者さんの体の中には「炎症を起こしなさい」という情報を伝えるサイトカインが過剰に作られてしまいます。
このサイトカインが、炎症に関わっている細胞の表面にある受容体にくっつくと、「炎症を起こしなさい」というシグナルが伝達されます。
すると次々と炎症が起こり、関節の周囲を囲んでいる滑膜が腫れ上がり、軟骨や骨の破壊が進行します。
すると、関節痛や倦怠感、発熱、食欲不振などの症状があらわれます。

どんな治療薬があるの?

関節リウマチの治療薬には消炎鎮痛薬(NSAIDs)、抗リウマチ薬(DMARDs)、ステロイド、生物学的製剤、JAK阻害剤などがあります。

JAK阻害剤とは
炎症のシグナル伝達経路のひとつであるJAK/STAT経路をブロックすることで、サイトカインが受容体に結合しても炎症を引き起こすシグナル伝達が起こらないようにする作用があります。
ですから、炎症や関節破壊の進行が抑えられ、関節の痛みやこわばり、倦怠感といった症状を改善する効果が期待できます。

日本で承認されているJAK阻害剤
JAK阻害剤は日本では最初にゼルヤンツ(ファイザー/武田薬品)というお薬が承認されました。
オルミエント(日本イーライリリー)は2番目に承認されたJAK阻害剤です。
ゼルヤンツはJAK1、2、3に作用するのに対し、オルミエントはJAK1、2にのみ選択的に作用します。
この効果の違いはまだ不明な点は多いですが、副作用の発現の違いにも関与しているのではないかといわれています。

生物学的製剤とJAK阻害剤
JAK阻害剤が承認される前は、生物学的製剤が使われてきました。
生物学的製剤は関節リウマチに関与するIL-6やTNF-αなどのサイトカインのはたらきに作用し、炎症を引き起こすシグナル伝達を抑え、関節リウマチの症状を改善するというメカニズムのお薬です。
生物学的製剤は高い効果がみられるものの、注射治療ということで患者さんの負担がありました。
JAK阻害剤は経口投与で、生物学的製剤と同等の効果が得られることが、臨床試験で示されています。
従来の注射治療ではなく内服薬で高い効果が得られるということは患者さんの負担軽減になるといえます。

JAK阻害剤の注意点
よくみられる副作用としては、上気道感染、帯状疱疹、単純ヘルペス、肝機能障害、血液検査値の異常などがあります。
特に注意が必要なのは感染症です。
オルミエント服用中は免疫のはたらきが低下するので、感染症にかかりやすくなります。
発熱、のどの痛み、咳、悪寒などの症状があらわれたときは、できるだけ早く主治医の診察を受け、治療しなければなりません。
はじめは軽い風邪のような症状であっても、急速に進行することがあるので注意が必要です。

最後に

みどり病院では多くの患者さんが関節リウマチの治療を受けられています。
当院でもオルミエント錠が採用になりました。
まだ実際に使われている患者さんはいませんが、既存の薬物治療で十分な効果が得られなかった患者さんに、新たな選択肢ができたことにとても期待が高まっています。
こんな薬が20年前にあれば、祖母はもう少し苦しみや痛みのない生活を送ることが出来たのかな?とふと思う事があります。
全例調査の薬でまだまだ不明な点が多い薬ですが、これからの関節リウマチの治療に大きく寄与することは間違いないでしょう。
1人でも多くの患者さんがよりよい生活が送れるよう、私も薬剤師として力になれたらと思っています。