災害発生時の薬剤師の役割 ~大災害時における医療体制についてどのくらいご存知ですか?〜

■過去の大災害の教訓 ~1995年の阪神淡路大震災~

昨年は西日本も非常に災害が多い年でした。
2018年6月には大阪府北部地震が襲い、7月には西日本豪雨災害で、岡山・広島・愛媛で浸水、土砂災害で大きな被害が発生しました。そして神戸に直撃したのは9月4日に記録的な高潮・暴風雨で被害をもたらした台風21号です。

この日、夜中に男性職員の一部は病院から呼び出しがかかりました。
当院でもこの台風の影響で夜中に停電が発生したためです。
唯一、非常電源に接続されている機器だけが作動している状態で、懐中電灯を手にその対応に追われていました。
この状況下で、1995年に発生した阪神淡路大震災の時を思い出していました。
この地域もそうでしたが、発災直後は病院も被災し機能が麻痺していました。
ライフラインの途絶、スタッフ確保の困難、医薬品の供給困難等の問題があり、十分な医療を提供できる状況ではありませんでした。
また、家を失い車上生活を余儀なくされてエコノミー症候群になってしまったり、お金がないため体調不良があっても受診できない等の問題もありました。
ですから、当時は災害後に多くの方々が亡くなられました。
この時から、『防ぐ事ができた災害死』が問題となっていました。

私達薬剤師は普段から医薬品の備蓄管理、処方提案、情報提供等の日常業務を行っています。
災害時でもそれは変わらないでしょう。
しかし、日常業務では電子化や機械化が進んでいる中で、災害時にはこれらの環境が破錠した場合の状況を想定しなければなりません。

■お薬手帳の有用性

阪神淡路大震災時、当時みどり病院の院長だった故額田先生を中心として、病院から医療活動で長田地区の被災地に入った時のことです。
お薬手帳を持っている被災者は少ない状況で、何を服用しているかがわからず、インスリンの種類が不明、高血圧で何種類か服用している、ワーファリンを服用しているが投与量が不明だったりして、問診時に代替薬や処方提案に相当時間を要した経験があります。
しかし、あれから20年以上経過した現在に至っては、皆さん当たり前のようにお薬手帳を持参されます。
お薬手帳を活用することにより、スムーズかつ適切に医薬品が供給できます。
受診先が変更になった場合でも、手帳に直接記載することで情報共有することができます。
ですから被災者(患者さん)の皆さんも安心して医療を受けることができるのです。
普段から災害時にはお薬手帳を持参して頂けるように指導しておくと良いですね。

■災害時の医療費 ~特別措置法で免除~

現在、災害時での医療費は、健康保険証や所持金を持ち出せない事を考慮して、「特別措置法」により、被災者が医療機関や薬局を利用する際は全て免除となります(期間は災害規模による)。
また、避難所や救護所でも「災害救助法」が適用され、全て無料になります。
また、交通網が麻痺して病院や診療所に行けない時は調剤薬局に相談すれば、慢性疾患の治療薬なら処方箋無しで緊急対応として出してもらうことも可能です。
この時にもお薬手帳があれば、すぐに対応ができます。
もし、このような情報を知らなければ、体調の悪さを感じても医療を受ける事をあきらめてしまう被災者もいるかも知れません。
そうならないように配慮は必要ではないでしょうか。

■薬剤師の役割 ~鑑別業務と医薬品供給~

大きな被害を受けた現地では、医師も限られた薬で対応せざるを得ません。
日頃、使い慣れていない医薬品を処方する医師にとって、種類の識別など、薬剤師が心強い味方となると思います。
入院での処方対応としては、手書き用の処方箋の準備。
外来での対応としては、調剤薬局と、在庫状況を踏まえて処方日数(長期投与できないため)等の調整を行うことが必要になります。
スタッフの確保も困難な状況の中、現場スタッフの疲弊を出来るだけ避ける努力も求められます。
また、医薬品供給に関しては、ある程度は備蓄していますが、状況によっては在庫がなくなることも想定しなければなりません。
供給体制については、事前に行政及び問屋と医薬品の種類、在庫等を確認しておく必要があります。

阪神淡路大震災を教訓に、行政は被災者の「避けられた災害死」を防ぐために、国や都道府県の災害医療チーム(DMAT)の結成、災害後に滞りなく医療を受けられるように医療費無料措置など医療体制が構築されてきており、災害医療は確実に進歩してきています。
今後起こり得る大災害(南海トラフ大地震等の自然災害)に備えて、私達も災害時の医療体制を知っておく事が望まれます。