私の3回目の出産は命がけでしたが、薬剤師としてとても良い経験をさせて頂きました

私は昨年8月に3回目の出産を終えて、現在4人の育児奮闘中のママさん薬剤師です。今回の出産はとても大変でしたが、とても勉強になったので、この場を借りてお話できればと思います。
私は、3回目の妊娠で双子を授かりました。しかし、切迫早産のため予定帝王切開日より2ヶ月程前から入院することになりました。私は元々血管が細いので、すぐに腫れてしまって段々使える血管がなくなってしまい、入院して2週間程で末梢挿入中心静脈カテーテル(PICC)を挿入することになりました。それから1ヶ月半、何の問題もなく入院生活を送っていましたが、出産予定日まであと1週間と迫ったある日、夕方から突然の寒気・発熱があり、熱はどんどん上がり、とうとう40℃近くまでになってしまいました。お腹の張りも頻回となり、先生の判断でその日のうちに緊急帝王切開手術となりました。手術は脊髄麻酔(局所麻酔)のため意識は有ったので、手術中先生たちの会話などは聞こえていました。手術も終盤を迎えて無事2人の赤ちゃんが取り出され、元気なことを聞いて安心したのも束の間、今度は出血が止まらなくなりました。血圧も収縮期血圧が70mmHgを切り、意識が朦朧としながら手術を何とか終えました。そんな大変な事が起こった後なので、手術後は一般病棟ではなくICU(集中治療室)に入る事となりました。先生からの説明で敗血症、播種性血管内凝固症候群(DIC)が起こっていることを知らされました。手術中に失った血液は4Lを超えており、赤血球液(RBC)を投与されました。フィブリノーゲンも30mg/dL程度しかなかったため新鮮凍結血漿(FFP)も投与されました。ちなみに、その時のヘモグロビン値はなんと6.5g/dLでした。その後、ノルアドレナリン、リコモジュリン®、スルバシリン®12g、バンコマイシン4.5gの投与が開始されました。リコモジュリン®はトロンボモジュリンα製剤でDICの治療に用いられます。体重(380U/kg)、腎機能(重篤な腎障害のある患者は130U/kgに減量)によって投与量が決定されます。以前患者さんに払い出したことはありましたが、まさか自分が使用することになるとは思ってもいませんでした。スルバシリン®はペニシリン系のアンピシリンとβラクタマーゼ阻害剤のスルバクタムが含まれている抗菌薬です。バンコマイシンはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に用いるグリコペプチド系抗菌薬です。今回私の感染源は早期には特定できなかったため、はじめに広域スペクトルであるこの2剤を使用したようです。バンコマイシンは大量投与だったのでびっくりしました。後で先生に聞いてみたのですが、出産後は腎血流量が増えるため通常よりも多くバンコマイシンを投与するのだそうです。
その後、何とか血圧も戻り、2日後には一般病棟に移れて授乳も開始することができました。血液培養の結果、PICCカテーテルの先からメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出され、これが原因であったことがわかりました。その結果、スルバシリン®、バンコマイシンは中止され、感受性のあるセファゾリンNaに変更となりました。ちなみにセファゾリンNaは14日間投与する必要があったため、産後も15日間の入院生活を続ける事となりました。
今回は私にとっては大変な出産となってしまいましたが、子供たちが元気に生まれてきてくれて本当によかったと思いました。復帰してからもこの経験を元に育児と仕事を両立しながら頑張りたいと思います。