便秘の定義~便秘の症状は人によって様々~
日本内科学会は「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある場合」を便秘と定義しています。
昨年発刊された慢性便秘症診療ガイドライン2017では、排便回数や排便量が少ないために、便が大腸内に滞り、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排便できない状態」を便秘と定義しています。
便秘に悩まされる患者は多く、その原因や病態は様々です。
便が硬いのか、十分出せないのか、硬くなくてもいきみづらいのかなどによって治療のアプローチも変わってきます。
便秘の薬~最近の開発ラッシュ~
長らく便秘の新薬は出ていませんでしたが、2012年に上皮機能変容薬であるルビプロストン(アミティーザ®カプセル)という新しい機序の薬が出てきました。
それ以降、便秘型過敏性腸症候群治療薬であり慢性便秘症への適応追加を予定しているリナクロチド(リンゼス®錠)、胆汁酸トランスポーター阻害薬エロビキシバット(グーフィス®錠)など、次々と新薬が作られています。
エロビキシバット(グーフィス®錠)については以前に特集記事がありますので是非ご覧ください。(詳しくはこちら)
全く新しい便秘薬が出てきている一方、従来の薬についても見直しが必要です。
今回は何十年も昔からある内服薬の性質や注意点、ちょっとした新しい話などに着目してみます。
膨張性下剤~食物繊維と似たような効果の薬~
膨張性下剤は消化管の中で消化吸収されず、水によって容積を増大させて便の量を増やします。
日本で使用できるものにはカルメロースナトリウム(バルコーゼ®顆粒)、ポリカルボフィルカルシウム(コロネル®錠、顆粒)(※慢性便秘症の適応はなし)があります。
作用はあまり強くありませんが、自然に近い形での排便ができます。
便秘型の過敏性腸症候群や、便量が多くない慢性便秘症に対しては選択肢に入れられますが、元々便の多いタイプの便秘患者さんに使うと、腹部膨満感が悪化する可能性があることには注意が必要です。
浸透圧性下剤~便を柔らかくし、耐性も生じず使いやすい薬~
浸透圧性下剤は腸内で水分泌を引き起こし便の回数を増加させる薬です。
塩類下剤、糖類下剤、浸潤性下剤の3種類があります。
長期投与によって耐性を生じることがないのが強みです。
酸化マグネシウムは古くから使われている塩類下剤です。
安価であることと、あまり効かなかった場合や逆に効き過ぎて下痢になってしまった場合に増量減量での調節が容易であることから、日本では非常に多用されている薬です。
胃酸と反応して塩化マグネシウムになったあと、腸内で炭酸塩や重炭酸塩となり、便と混じり、浸透圧によって便を軟らかくする作用があります。
よって、胃酸の分泌を抑える薬を服用している患者や、胃を切除した患者の場合、効果が弱まる可能性があります。
また、高齢者や腎機能低下患者には副作用として高マグネシウム血症を引き起こすリスクがあるため、特に注意が必要です。
糖類下剤には合成二糖類のラクツロースがあります。
ヒト消化管粘膜にはラクツロースを分解する酵素が存在しないため、経口投与されたラクツロースは消化・吸収されることなく、下部消化管に達します。
腸内でビフィズス菌や乳酸菌によって利用されることで、悪玉菌によるアンモニア産出を抑えます。
主に高アンモニア血症に使われる薬で、便秘に対しては産婦人科術後の排ガス・排便の促進と小児における便秘の改善の2つに適応が限定されています。
副作用として腹部膨満感が現れることがあります。
浸潤性下剤のジオクチルソジウムスルホサクシネートは、界面活性作用により、硬い便に水分を浸透させて柔らかくします。
大腸の蠕動運動促進により排便を起こさせるカサンスラノールとの配合剤(ビーマス®、ベンコール®)がありますが、処方数は減少しています。
刺激性下剤~強力に腸を動かす薬~
刺激性下剤にはアントラキノン系とジフェニール系があります。
アントラキノン系はセンナ(アローゼン®顆粒)やセンノシド、ジフェニール系はピコスルファート(ラキソベロン®錠、液)などがあります。
大腸において腸内細菌によって代謝され、活性体となります。
大腸粘膜下のアウエルバッハ神経叢を刺激し、蠕動運動を亢進することにより、強力な排便促進作用をもたらします。
上部の消化管通過障害がなければ、内服後8~10時間ほどで作用が現れます。そのため、寝る前に使用することが多い薬です。
便秘薬の中では最も強力な薬であり、患者が満足感を得られやすく、服用してから効果発現までが比較的短く、また単回投与で十分な効果があるというメリットがあります。
しかし強力な反面、注意するべき副作用も多い薬です。
長期連用により耐性が起こり、難治性便秘になる恐れがあります。
また、連用により神経叢を障害し、大腸の運動異常を引き起こす可能性も示唆されています。
慢性便秘症においてはまず、生活習慣の改善を試み、次に刺激性下剤以外の薬を試し、それでも改善がない場合に初めて検討すべき薬です。
消化管運動賦活薬~セロトニン5-HT₄刺激薬の今後の可能性~
消化管壁内のアウエルバッハ神経叢にある5-HT₄受容体を刺激することでAchの遊離を増加、消化管運動を促進する薬です。
5-HT₄受容体刺激薬が便秘に有効だというエビデンスは多数あり、欧州やカナダでは選択的5-HT₄受容体刺激薬プルカロプリドという薬が慢性特発性便秘の適応をとっています。
しかし、日本ではこの薬は承認されていません。
現在、日本で使用可能な選択的5-HT₄刺激薬はモサプリド(ガスモチン®錠)のみです。
便秘への有効性は示唆されているのですが、モサプリドは欧米での使用は少なく、この薬自体のエビデンスの蓄積がまだ少ない状態です。これからの可能性が考えられる薬剤です。
プロバイオティクス~腸内環境を整える薬~
その他、プロバイオティクスなどをつかうこともあります。
プロバイオティクスとは、適正な量を摂取したときにヒトに有益な効果をもたらす生きた微生物のことを指します。
慢性便秘の場合、腸内細菌のバランスを改善することによりヒトに有益な作用をもたらす乳酸菌、ビフィズス菌などが該当します。
慢性便秘症に対する有効性を示すエビデンスはあるのですが、現在ビフィズス菌や乳酸菌製剤の日本での便秘症での保険適応はありません。
また、比較的短期の試験が多く、今後も検討が必要です。
最後に~PEG製剤の最近の動向~
便秘症において、次々と新しい機序の薬が開発されてきていますが、古くからある薬で最近ようやく日本での慢性便秘症の適応が通った薬もあります。
それがポリエチレングリコール(PEG)製剤です。
PEGは一般式HO−(CH₂−CH₂−O)n−Hで表されるエチレンオキシドと水との付加重合体です。マクロゴールの名で軟膏などの添加物としても使われています。
大腸の内視鏡検査や大腸手術の前に、腸の洗浄のために使われているニフレック®配合内用剤やモビプレップ®配合内用剤はマクロゴール4000(エチレンオキシド基が60~80ほど重合したもの)を主成分としています。
浸透圧差によって腸管内に大量の水分を滞留させ、水様便となり、腸管内洗浄効果を示します。
作用としては浸透圧性下剤に分類されます。
体に吸収されないため、有効性、安全性が高いとされ、欧米での慢性便秘に対する推奨度が高い薬です。
英国の小児科ガイドラインでは第一選択薬となっており、成人に対しても多くのガイドラインで使用が推奨されています。
今まで日本では、薬としてのPEGは腸管洗浄しか適応をとっていませんでした。
しかし、慢性便秘症に対して使用可能な国内初のポリエチレングリコール製剤として、2018年9月、マクロゴール4000を主成分とした製剤である「モビコール®配合内用剤」の製造販売取得がなされました。
他の浸透圧性下剤が使いづらい患者に対して、新しい選択肢になるでしょう。今後の活躍を期待できる薬です。