今回は医薬品の副作用のひとつ、薬剤性味覚障害についてお話ししたいと思います。
味覚障害とは ~味を感じないものから異なった味に感じるものまで様々 原因は亜鉛不足によるものが多い~
味がわからないことを味覚障害といいますが、その症状はさまざまで舌の一部や片側が、また舌全体が味覚を感じないことがあります。
味覚障害の程度も、濃い味でなければ感じないもの(味覚減退)や、全く味を感じないもの(味覚消失)があります。
さらに本来の味を異なった味に感じること(錯味)もあります。
原因として以下のようなものが考えられます。
・薬の副作用(薬剤性味覚障害)
・糖尿病、肝障害や腎障害などの全身疾患
・風邪
・口腔疾患
・放射線治療の副作用
・亜鉛欠乏症(偏った食生活)
薬剤性味覚障害の原因となる薬剤の例として以下のようなものがあります。
亜鉛キレート作用(亜鉛の吸収を抑制する作用)のある薬や唾液分泌をおさえる薬に味覚障害が起こりやすいと考えられています。
薬効分類 | 商品名 |
---|---|
利尿剤 | ラシックスなど |
降圧剤 | ノルバスク、ブロプレス、タナトリルなど |
鎮痛剤 | ボルタレン、セレコックス、ハイペンなど |
抗菌薬 | ミノマイシン、クラリス、ジスロマックなど |
糖尿病治療薬 | メトグルコ、アクトス、スターシスなど |
高脂血症治療薬 | リピトール、リバロなど |
抗がん剤 | ティーエスワン、ユーエフティ、ゼローダなど |
抗リウマチ薬 | リウマトレックス、レミケード、エンブレル、アラバなど |
※上記の薬剤で必ず味覚障害が起こるわけではありません。
味覚障害と亜鉛の関係 ~味細胞の再生には亜鉛が必要 不足すると機能が低下し味覚障害に~
味覚を感じるのは、舌の表面にある味蕾という微小な器官です。
味蕾には味細胞という細胞があり、新陳代謝が活発で、約1か月という短い周期で新しく生まれ変わっています。
味細胞の再生には亜鉛が必要です。
つまり、亜鉛が不足することで味細胞が再生できず機能が低下し、味覚障害が起こることがあるのです。
亜鉛不足のその他の症状として皮膚障害、脱毛、免疫機能の低下、貧血、成長障害(小児)などがあります。
亜鉛の推奨摂取量
・食事から摂取する場合(1日あたり) 単位:mg
亜鉛の多く含まれる食品:牡蠣、カニ、レバー、牛肉、卵、ナッツ類など
・静脈投与の場合
2.5~5mg/日
早期発見のポイント ~原因薬剤服用後、多くは2~6週以内に起こります~
原因となる薬剤の服用後すぐに起こることもありますが、多くは2~6週以内に症状が現れます。
早期症状を含め、よく訴えられる症状には以下のようなものがあります。
・味が感じにくい
・食事が美味しくない
・食べ物の好みが変わった
・金属味や渋みなど嫌な味がする
・味のしないところがある
・口が渇く
治療方法 ~原因薬剤の休薬・減量、亜鉛剤の補給が基本 漢方薬が有効なことも~
・原因薬剤の休薬・減量
早期に休薬することで症状の改善、回復に至ることが多い。
原疾患治療のため休薬できない場合は薬剤の変更を検討する。
・亜鉛剤の補給
プロマックⅮ:胃潰瘍のみ保険適応。1錠中に亜鉛を17mg含有し、適応外処方として使用される。
ノベルジン:ウィルソン病のみ保険適応だったが、2017年に適応拡大され低亜鉛血症の診断名で
処方が可能に。
・口腔乾燥の治療・唾液流出の促進、口腔の浸潤を保ち、唾液分泌を促進する
サリベート(人工唾液)や、麦門冬湯、白虎加人参湯などの口腔乾燥に有効な漢方薬
・口腔清掃とケア
味覚障害は副作用の中でも肝障害や腎障害のように検査値からわかるもの、薬疹、眠気、便秘や下痢といった自覚症状から気付きやすいものと違い、患者さん自身も副作用だと気付いていないことが多く見逃されがちです。
ですが、味がわからないことで食欲がなくなり栄養不足になったり、味付けが濃くなって塩分をとりすぎてしまったりすることで、原疾患の治療に影響することも考えられます。
「何を食べても味気なくて・・・」といった何気ない会話から、薬剤師として服用薬にそういった副作用があることを情報提供し、気付いてあげることができればと思います。