何かと体調をくずしやすい季節の変わり目ですが、喘息発作も起こりやすくなります。喘息の治療薬はここ数年で種類が増え、特に重症喘息に対する新薬が次々登場し、治療の選択肢も増えてきました。
私がみどり病院で働きはじめてから今まで、ネオフィリン点滴の処方に巡り合ったことがあまり無かったので、喘息発作で入院される患者さんは意外と少ないのだなと思っていました。ある日、先輩薬剤師に話を伺うと、「昔はネオフィリン点滴を受けに来る患者さんがたくさんおられたよ。」と話してくれました。
これは、どういうことなのでしょうか?治療薬の種類が増え、喘息をコントロールできる患者さんが増えてきた ということなのでしょうか?
というわけで、今回は喘息治療薬についてまとめてみました。
喘息とは
一般的に気管支喘息のことを言います。アレルギー反応などによる慢性的な気管支の炎症により気道が狭くなり、刺激に対して過敏になります。このため発作的に喘鳴(呼吸時にゼイゼイ、ヒューヒューといった音が出る)、咳、呼吸困難などの症状が出ます。アレルギーの原因が特定できるアトピー型と、それ以外の非アトピー型に大別されます。
治療薬には発作を予防するために毎日使用する長期管理薬と、発作時に使用する発作治療薬があります。
長期管理薬
・吸入ステロイド薬(ICS):フルタイドなど
強い抗炎症作用があります。効果が出始めるまで3~4日かかり、やめると効果がなくなるため長期間、毎日
吸入する必要があります。吸入後は、口腔内カンジダ症などの副作用予防のためうがいが必要です。
・長時間作用性β2刺激薬(LABA):セレベント、ホクナリンテープなど
気管支拡張作用があります。吸入薬、内服薬、貼付剤があり、吸入ステロイド薬と併用します。
・吸入ステロイド薬+長時間作用性β2刺激薬配合剤:アドエア、レルベアなど
一度に吸入ステロイドとLABAが吸入できるためアドヒアランスの向上が期待できます。
・長時間作用性抗コリン薬(LAMA):スピリーバレスピマットのみ
気管支の収縮を促すアセチルコリンという物質の働きを抑えることで、気管支の収縮を抑えます。
・ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA):シングレア、オノンなど
気道の収縮や炎症を引き起こすロイコトリエンという物質の働きを抑えます。
・テオフィリン徐放薬:テオロングなど
気管支拡張作用と抗炎症作用があります。
発作治療薬
・短時間作用性吸入β2刺激薬(SABA):メプチンエアーなど
即効性の気管支拡張作用があります。
・テオフィリン薬:ネオフィリンなど
気管支拡張作用と抗炎症作用があります。病院を受診した際には注射薬が使われることもあります。
その他の治療薬
高用量の吸入ステロイド薬や複数の薬を併用しても症状の安定しない重症喘息に対する新しい治療薬が登場しています。重症喘息は喘息全体の5~10%とされています。
・抗IgE抗体:ゾレア
アレルギーが原因となる喘息の場合、抗原(アレルゲン)に対しIgE抗体と呼ばれる抗体が大量に作られます。
このIgE抗体がアレルギー反応を起こすのを抑えることで気道の炎症を抑えます。体重や血液中のIgE濃度
に応じた量を2週または4週に1回皮下注射します。
・抗IL-5抗体:ヌーカラ®
白血球の一種である好酸球はIL-5という物質によって活性化され炎症を起こし、喘息を重症化させます。抗
IL-5抗体はIL-5の働きを抑えることで好酸球の数を減らし炎症を抑えます。4週に1回100㎎を皮下注射し
ます。
・抗IL-5受容体抗体:ファセンラ®
好酸球を活性化させるIL-5が、好酸球にあるIL-5受容体に結合するのを妨げる薬です。さらに、直接好酸球
を除去する作用もあります。血液中の好酸球数が多いほど効果が高いとされています。最初の3回は4週に1
回、以降8週に1回30㎎を皮下注射します。
・抗IL-4/13受容体抗体:デュピクセント
リンパ球の一種であるTh2細胞やILC2という細胞が活性化されると放出される、IL-4、IL-13という物質の
働きを抑えることで、これらの物質が直接気道に悪影響を及ぼしたり、他のアレルギー担当細胞を刺激して炎
症物質を放出させたりするのを防ぎます。アトピー性皮膚炎の治療薬として販売されてきましたが、2019年
3月に適応拡大が承認され、重症喘息に使用できるようになりました。初回600㎎、以降2週に1回300㎎
を皮下注射します。
治療ステップ
喘息予防・治療ガイドラインでは喘息の治療は4つのステップに分かれています。
治療開始時に症状と治療状況からステップが決定されます。
2018年のガイドライン改訂で、LAMAの推奨範囲がステップ3からステップ2に拡大され、ステップ4に抗IL-5抗体製剤、抗IL-5受容体α鎖抗体製剤、気管支熱形成術(BT)が追加されています。
コントロール良好な期間を長く保つことができれば治療のステップダウンができる場合もあります。調子がいいからといって吸入をやめてしまう患者さんが時々いらっしゃいますが、続けることで薬が減量できる可能性があること、やめてしまうと再び発作が起こってしまうことを理解していただく必要があると思います。また、長年吸入を実施されている患者さんでも、目の前で吸入していただくと正しくできていないことがあります。吸入薬の種類も増えているため、その人に合ったものに変更することも可能です。コントロール困難な重症喘息と考えられている例の80%は吸入手技やアドヒアランスの問題でコントロール不良となっているとも言われており、正しく治療を続けていただくために吸入指導が重要であると感じています。