大学では学べない事をたくさん経験できる、あっという間の2.5ヶ月間〜薬学部実習生さんと当院指導薬剤師の対談〜
(2019年度 第3期薬剤師実務実習)

当薬剤科では、臨床薬学教育にも積極的に取り組んでおり、薬学部が4年制の頃から薬学部学生の教育実習を受け入れています。現行のカリキュラムが開始されてからは、毎年3~4名程度の5年生(2006年度入学の学生より6年制となっています)の実習を実施しています。また2019年度からは薬学教育モデル・コアカリキュラム改定後の学生を受け入れています。
今回も、実習を終えた実習生と当院佐々山薬剤師とでゆっくりとお話をさせていただいたのでご紹介します。

佐々山薬剤科主任)
実習お疲れ様でした。早速ですが、

実習前は、病院薬剤師という仕事にどんなイメージを持っていましたか?

実習生)薬学部5年生、女性
入院患者さんへの調剤、配薬、服薬指導を行うイメージを持っていました。
また、注射薬を取り扱う事、TDMの解析を行う事が病院薬剤師の特徴と考えていました。

佐々山薬剤科主任)
そうですか、学校ではそのように教わってきたのですね。
ところで、

今回の実習でどんな事を学びたいと思っていましたか?

実習生)
病院では、保険薬局では見る事の出来ないカルテを見ることが出来るので、薬、病態、処方意図を繋げて理解出来るようになりたいと思っていました。また、病院薬剤師の仕事内容や役割についても学びたいと思っていました。

佐々山薬剤科主任)
保険薬局と病院とでは、やはりカルテを閲覧できるかできないかが大きな違いですね。病態、処方意図をしっかり理解して服薬指導ができるのは病院薬剤師の特権です。
では、

今回の実習ではどんな事を学べましたか?

実習生)
調剤、病棟業務、服薬指導など様々なことを学ぶことが出来ました。
調剤では、多規格の医薬品をどのように管理しているのかと、ヒヤリハットについて学びました。注射薬では、配合不可を生じない為の工夫を学びました。配合不可という事だけでなく、どうして配合不可なのかという理由を学ぶ事により、より理解が深まりました。
病棟業務では、病棟での薬剤師の役割について学びました。初回面談、持参薬の確認、定期処方の確認、他職種からの薬についての問合せの対応などを行う事を学びました。特に大切な役割として、情報の伝え漏れなどが起きないように患者情報の一元管理を行うという役割がある事を知りました。
服薬指導では、カルテから患者さんの情報を得る際に、情報の抜け落ちがないように収集する事、薬剤師の記述だけでなく、他職種の記述にも目を通す事の大切さを学びました。更に、職種間での情報共有がとても重要であることも学びました。

佐々山薬剤科主任)
ヒヤリハット事例として、調剤ミスを防ぐための工夫は保険薬局でも体験できたかと思いますが、注射薬に関しては初めての体験だったのではないでしょうか。また、病棟業務は、病院薬剤師のメインの仕事のうちの一つです。他職種と一緒に仕事をするので、色々と大変なこともありますが、やりがいのある仕事だと私は思います。
それでは、

今回の実習では、何が一番印象に残りましたか?

実習生)
心臓手術の見学が一番印象に残っています。開胸後の拍動している心臓を初めて見た事、手術見学が初めてだった事からとても印象に残っています。どのような手術であるかを理解する為に、事前に術式を勉強し手術見学に臨んだので、今、心臓に対して何を行っているのかを理解しながら見学する事が出来ました。
2点目は、病棟薬剤師が、患者さんのお薬の内容と病態をしっかりと把握していて、医師と相談して不要なお薬を減らしたり、逆に治療が必要なお薬を提案したりしていた事が印象に残っています。

佐々山薬剤科主任)
この心臓外科手術見学のプログラムは、実習生さんに人気のあるプログラムの一つです。なかなか本物の心臓を目にする機会はありません。現場の薬剤師でも見たことが無い人もいるかと思うので、貴重な体験だったと思いますよ。
2点目は、『ポリファーマシー』と呼ばれています。昨今、高齢者の患者さんは多くの薬剤を服用しており、それにより転倒等の有害事象が増える事が分かっています。我々も勉強をして医師と共に協力してポリファーマシー対策に取り組んでいます。詳細は2020年4月6日の記事に特集ページがあるので興味が有れば見てください。

では、

実習中に大変だった事はありますか?

実習生)
服薬指導に苦労しました。
自分では理解出来ている内容が、いざ説明すると患者さんにとって分かり辛いものになった事がありました。また、自分で理解出来ていると思っていても、患者さんに説明するうちに、よく分からなくなった事や疑問を感じた事もありました。その経験から、説明の最中に疑問を感じる事がないように調べ、伝わりやすい説明を考え、先生に聞いていただいてから服薬指導を行っていました。上手く説明出来た時は、とても嬉しかったです。

佐々山薬剤科主任)
そうですね、他人に説明するのはとても難しいですね。自分では理解していても、実際に説明するとなるとなかなかうまく説明できません。10の内容を説明するのに10の内容しか理解していないとやはりダメなのでしょうね。また、用意した10の内容を全て説明しきるのもまた難しいですね。薬剤に関しての豊富な知識が必要なことは当然として、コミュニケーションスキルもとても大切なのだと私は思います。
毎日、実際の病院薬剤師の仕事を体験できたと思いますが、

実際2か月半の長い実習を終えて、病院薬剤師のイメージは変わりましたか?

実習生)
変わりました。
実習前は、薬剤師と多職種が関わる様子があまり想像出来なかったのですが、実習中に、薬剤師が医師と処方内容について話し合う場面や看護師から薬の相談を受ける様子を見て、想像よりも多くの関わりがある事を知りました。また、薬剤師には、薬が関わる内科的治療に対する知識が必要になると思っていましたが、それだけでなく、手術等の外科的治療の知識も必要であり、チーム医療の一員として、患者さんの治療に関わる内科的、外科的といった枠にとらわれないあらゆる分野の知識が必要な事が分かりました。

佐々山薬剤科主任)
『チーム医療』これは今の医療のキーワードですね。患者さんを治療するにあたって、医師一人の力では限界があります。ですから各分野の専門家が医師と協力して患者さんに良い医療を提供する。これがチーム医療なのです。我々薬剤師は薬に関しての専門家なので、薬に関しての協力をしますが、薬だけの知識ではダメなのです。最善の協力をしようと思ったら、その患者さんの今の状態をしっかりと把握しておく必要があります。そのためには様々な知識が必要なのです。それを分かってもらえたのは嬉しいです。

今後実習をするであろう薬学生の後輩に対して一言あれば、お願いします。

実習生)
最初は分からないことが多く大変だと思いますが、疑問に思った事は自分で調べたり、薬剤師や医師の先生方に質問するとよいと思います。自分で調べる事で、調べ方の向上や新たな疑問を見出すことに繋がり、より薬や病態に対する知識を深める事が出来ると思います。

佐々山薬剤科主任)
『わからない時は、まずは自分で調べてみる』これは、当薬剤科の教育方針です。教えてもらったことはすぐに忘れてしまいますが、自分で苦労して調べたことはなかなか忘れないはずですよ。

最後に、

当院での実習に関して何か感想などがあれば教えて下さい。

実習生)
実習が始まる前は不安な気持ちもありましたが、とても楽しく実習を行う事が出来ました。服薬指導、DI業務、手術の見学、カンファレンス、他部署の見学など大学では学べない事をたくさん経験させていただき、あっという間の2.5ヶ月でした。薬剤師の先生方だけでなく、他部署の方々にも様々な事を教えていただき、本当にありがとうございました。今回の実習で学んだことを今後に活かせるように勉学に励みたいと思います。

佐々山薬剤科主任)
実習お疲れ様でした。
今回の実習で苦労して調べたことや経験したことは忘れないように記憶の中に留めておいてくださいね。もし、病院薬剤師として働く際には今回の経験が必ず役立つと思います。
近い未来、立派になった実習生さんとどこかで会えるのを楽しみにしています。

頑張ってください。