「膠原病」ってどんな病気?~関節リウマチは膠原病の一種です~

膠原病は、稲波理事長を中心に当院で力を入れている疾患の一つです。しかし、「膠原病」と言っても、具体的にどのような疾患なのか分かりにくくはないでしょうか?関節リウマチは膠原病の一種ですが、それ以外にも膠原病に分類される疾患は多種あります。膠原病がどのような疾患なのか、またその治療にはどのような薬を使うのか、私も複雑で難しいという印象を持っています。十数年前から分子標的薬という新しい種類の薬が登場し、関節リウマチの治療法は大きく変わりました。また、他の膠原病に対しても使用可能な分子標的薬が次々に誕生しています。今回は膠原病がどのような疾患であるのか、その治療にはどのような薬が使用されるのかまとめました。

膠原病とは ~結合組織に炎症が起こり、変性してしまう疾患です~

人間の臓器は上皮組織、筋組織、神経組織、結合組織から構成されていて、結合組織は他の組織と組織の間をつなぎとめる役割があります。結合組織には、皮下組織、血管壁、筋と筋との間、関節包の滑膜、腱や靭帯などがあり、全身のあらゆる部位に分布しています。膠原病は、主に自己免疫反応が原因となってこの結合組織に炎症が起こり、様々な臓器に障害が現れる疾患の総称です。元々は結合組織にある膠原繊維(コラーゲン)が変性している疾患と考えられたため、「膠原病」と名付けられたのですが、現在では膠原繊維以外の成分も変性・沈着していることが明らかになっています。自己免疫反応とは、本来は細菌などの異物に対して働く免疫機構が、自分の体の成分に対して働いてしまうことですが、膠原病の方に自己免疫反応が起きる原因はまだよく分かっていません。認められる症状は関節痛・筋肉痛や皮膚・粘膜の異常など様々であり、膠原病には類縁の疾患も含め以下のような多数の疾患があります。
関節リウマチ、脊椎関節炎、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、ベーチェット病、血管炎症候群など

膠原病で認められる症状 〜関節症状、肺症状、腎症状、レイノー現象、皮膚・粘膜症状〜

膠原病には多くの疾患があり症状も様々ですが、いくつかの疾患では共通の症状が認められます。代表的な症状およびその症状が現れる疾患を以下に挙げます。
関節症状:関節の疼痛、こわばり、関節変形など(上記の全ての疾患)
肺症状:間質性肺炎・肺線維症(上記のうち脊椎関節炎、ベーチェット病以外の全ての疾患)、肺高血圧症(全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、混合性結合組織病)
腎症状:腎機能障害による蛋白尿、血尿など(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、シェーグレン症候群、血管炎症候群)
レイノー現象:手指などが血管の収縮により白や紫色になったり、血管の拡張により赤くなったりする現象(全身性強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群)
皮膚・粘膜症状:皮疹、口腔粘膜潰瘍、皮膚硬化、色素沈着、紫斑など(上記の全ての疾患)

膠原病に関連する自己抗体 〜RF、ANA、ANCAなど〜

原因不明の発熱が続き、上記のような症状がある場合は膠原病の疑いがあります。診断のためには、自分の体の成分に対する抗体(自己抗体)の検査が必要です。膠原病に関連する自己抗体には、リウマトイド因子(RF)、抗核抗体(ANA)、抗好中球細胞質抗体(ANCA)などがあります。
RF:免疫グロブリンIgGに対する抗体。陽性率が高いのは関節リウマチ、シェーグレン症候群。
ANA:核内の成分に対する抗体の総称。陽性率が高いのは混合性結合組織病、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症。
ANCA:好中球の細胞質成分に対する抗体。ANCA関連血管炎で陽性率が高い。

膠原病治療に使用される薬 〜免疫異常に対する薬、症状を緩和させる薬〜

膠原病は自己免疫反応により引き起こされるため、治療薬は炎症や免疫異常に対する薬が中心になります。それ以外にも、疼痛などの症状を緩和する働きを持つ薬なども使用されます。次は、膠原病の患者さんに使用される薬を紹介します。

ステロイド 〜抗炎症・免疫抑制作用を目的に使用〜

ステロイドは副腎皮質で合成されるホルモンで、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド、性ホルモンなどがありますが、一般的には糖質コルチコイドを人工的に合成した薬を指します。ステロイドには様々な作用がありますが、膠原病には抗炎症・免疫抑制作用を目的に使用されます。ステロイドの副作用には易感染性、高血糖、骨粗鬆症、不眠など多くのものがあり、使用には注意が必要です。薬効や副作用について詳しくは「こわくない!!ステロイド治療」の項目を参照してください。当院では、内服薬はコートリル®、プレドニン®、メドロール®などの採用があります。

免疫抑制剤 〜易感染性などの副作用に注意〜

免疫抑制剤は、リンパ球の活性化や増殖を阻害して過剰な免疫反応を阻害する働きがあります。この薬も易感染性などの副作用に注意する必要があります。当院では、リウマトレックス®、アラバ®、アザニン®、セルセプト®、ネオーラル®、プログラフ®などの採用があります。リウマトレックス®は関節リウマチ治療の中心となる薬です。

薬品名使用される膠原病
リウマトレックス®関節リウマチ、乾癬性関節炎(脊椎関節炎の一種)など
アラバ®関節リウマチ
アザニン®関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合性結合組織病、血管炎症候群
セルセプト®ループス腎炎(全身性エリテマトーデスに伴う腎炎)
ネオーラル®乾癬性関節炎、ベーチェット病
プログラフ®関節リウマチ、ループス腎炎、多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎

分子標的薬 〜疾患の原因に関わっている分子を標的とする薬〜

分子標的薬は、疾患の原因に関わっている分子を標的とする薬です。膠原病で使用される分子標的薬には、経口分子標的薬と生物学的製剤があります。
経口分子標的薬:リンパ球の活性化・増殖に関わる細胞内分子を阻害します(JAK阻害薬)。当院ではオルミエント®︎、スマイラフ®︎などの採用があります。
生物学的製剤:炎症を起こす物質(炎症性サイトカイン)やリンパ球などを阻害します。標的分子の抗体が薬の主成分で、注射薬になります。当院ではIL-6受容体阻害薬のアクテムラ®︎、ケブザラ®︎とTNF-α阻害薬のレミケード®︎、エタネルセプト®︎、シンポニー®︎、B細胞刺激因子阻害薬のベンリスタ®︎、B細胞阻害薬のリツキサン®︎などがあります。

分類薬品名使用される膠原病
JAK阻害薬オルミエント®︎関節リウマチ
スマイラフ®︎関節リウマチ
IL-6受容体阻害薬アクテムラ®︎関節リウマチなど
ケブザラ®︎関節リウマチ
TNF-α阻害薬レミケード®︎関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎(脊椎関節炎の一種)、ベーチェット病など
エタネルセプト®︎関節リウマチなど
シンポニー®︎関節リウマチ
B細胞刺激因子阻害薬ベンリスタ®︎全身性エリテマトーデス
B細胞阻害薬リツキサン®︎血管炎症候群

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 〜抗炎症・解熱・鎮痛作用〜

NSAIDsは、炎症・発熱・疼痛に関わる物質プロスタグランジン類などの産生を抑制する働きがあり、抗炎症・解熱・鎮痛作用を有します。関節炎よる疼痛などに対して、必要に応じてNSAIDsが使用されます。当院ではロキソプロフェン、セレコックス®︎︎、ザルトプロフェン、ボルタレン®︎︎などの採用があります。

骨粗鬆症治療薬 〜膠原病は骨の破壊が進行するので骨粗鬆症になりやすい〜

膠原病では関節炎に伴い骨の破壊が進行するので骨粗鬆症になりやすく、治療に使用するステロイドの長期使用も骨粗鬆症のリスクを高めます。膠原病の患者さんは必要に応じて骨粗鬆症治療薬を使用します。当院で採用されている薬を以下に記載します。
骨を破壊する(骨吸収)作用を抑制する薬:ボンビバ®︎︎、ベネット®︎︎、プラリア®︎︎など
骨を作る(骨形成)作用を促進する薬:テリボン®︎
骨吸収抑制・骨形成促進:イベニティ®︎
ビタミンD製剤:エディロール®︎︎、ロカルトロール®︎︎、ワンアルファ®︎
カルシウム製剤:アスパラCA®︎
ビタミンDは、カルシウムの吸収を高め、骨形成を促進する働きがあります。

最後に

膠原病の症状は多岐にわたり、また複数の膠原病疾患を合併している患者さんも多く、大変な疾患であることを再認識しました。当院には、症状が比較的安定しており定期的な通院を継続している方や、症状が悪化し入院治療となる方、薬の効果がみられず治療に難渋する方など様々な患者さんがいらっしゃいます。入院患者さんの中には、「動くと痛い」「しんどい」などの症状を訴えられる以外にも、気分の落ち込みや退院後の生活に対する不安などについて話される方もいらっしゃいます。様々な症状と向き合いながら生活を続けている患者さんの気持ちに沿った服薬指導が出来るように、今後も心掛けていきたいです。また、適切な治療が行えているかについて薬剤師の視点で確認し、処方設計にも関わっていきたいと思います。