「高血圧にグレープフルーツジュースはダメ!」って言われた事ありませんか?〜グレープフルーツとお薬の意外な関係〜

これから秋も深まってくると、気温も少し冷え込み、血圧に変化があらわれ出す方もおられるかと思います。
また、降圧薬を服用している方の中には、初めてお薬を処方されたときに「グレープフルーツは避けてください」と薬剤師に言われた経験がある方もおられるのではないでしょうか。

なぜグレープフルーツ? これからの季節よく食べるみかんは大丈夫? と思ったことはありませんか?
今回は、よく耳にするお薬との飲み合わせ、降圧薬とグレープフルーツの関係をお伝えしようと思います。

相互作用をおこすグレープフルーツの成分 ~お薬に影響を与えているのは、フラノクマリン~

お薬は一部の剤形を除いて体内に入ると肝臓内の代謝酵素で分解されます。ですから、もしこの代謝酵素の働きが抑えられるとお薬の効き目が強くでてしまう可能性があります。グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類という成分は外側の皮と果肉の間の白い部分や果肉にも含まれている成分です。フラノクマリン類はまさにこの代謝酵素の働きを抑えるのでお薬の分解量が減少します。そのため吸収量が増加し、お薬の効き目が強まり、副作用のリスクも高まるのです。

その代謝酵素の名はCYP3A4(しっぷすりーえーふぉー) ~お薬の代謝に関わる酵素CYPの1つ~

ヒトの数ある代謝酵素のなかでフラノクマリン類によって働きを抑えられてしまうのがCYP3A4という代謝酵素です。そして、そのCYP3A4で分解されるお薬に、血圧を下げるカルシウム拮抗薬の一部が該当します。(血圧のお薬に関しては、「あなたの降圧薬、どんなのか知ってますか?」を見て下さい。)

上記のカルシウム拮抗薬はグレープフルーツを摂取するとお薬が効きすぎて血圧が下がり過ぎてしまい、めまい、ふらつきといった症状が出やすくなる可能性があります。しかし、全てのカルシウム拮抗薬が影響を受けるとは限りません。ちなみに、アムロジピンというお薬はグレープフルーツの影響が少ないカルシウム拮抗薬と言われています。

少しなら大丈夫? ~ジュースはダメでも、果肉なら・・・?~

CYP3A4の働き具合には個人差があります。体調や年齢によって、ある日突然影響を与えることもあります。またフラノクマリン類の量はグレープフルーツの種類や産地によって変わり、一定ではなく、摂取して数日間CYP3A4に影響を与えるとも言われています。また「グレープフルーツジュースは避けて下さい」としか聞いたことがない方もいるかもしれませんが、これはジュースにするには相当量のグレープフルーツを使用している可能性があるからだと言われています。ですが、フラノクマリン類の含有量が少ない果肉でもお薬の影響を与えたデータもありますので個人差を考慮すると、ジュースだけを避ければいいとは安易には言えないと思います。

すべてのカルシウム拮抗薬が該当するわけではないと記しましたが、処方される降圧薬が医師の判断でカルシウム拮抗薬に変更される可能性もありえるので、高血圧患者さんは普段からグレープフルーツと降圧薬の関係を意識していた方が良いかもしれません。また、厳密にいうなら果実やジュースだけでなく、果皮が含まれている可能性があるマーマレードなどのジャムやミックスジュースにもグレープフルーツが含まれているかもしれませんので、日頃からこれらを摂取している習慣がある場合は確認をしてみるのも良いと思います。

フラノクマリン類はグレープフルーツだけの成分? ~他の食物とフラノクマリン類~

以下は、フラノクマリン類のうちジヒドロベルガモチンという成分のデータになります。

柑橘類に含まれるフラノクマリン類のDHB(ジヒドロベルガモチン) 換算量(μg/mL)

酵素免疫測定法による食物・生薬中のフラノクマリン類含有のスクリーニング
齋田哲也,藤戸博 佐賀大学医学部附属病院薬剤部
医療薬学Vol.32 No.7(2006)より

表のように、グレープフルーツ以外にもフラノクマリン類が含まれている食品はありますが、中でも身近にありフラノクマリン類が多く含まれているのがグレープフルーツなので、よく耳にするのだと思います。
冒頭に挙げた、これからよく食べる「温州みかん」には含まれていないので大丈夫です。
また、フラノクマリン類は上記のような柑橘類だけではなくイチジクやザクロにも含まれていると言われています。

最後に

CYP3A4に代謝されるお薬はカルシウム拮抗薬以外にもコレステロールのお薬の一部、アレルギーのお薬の一部、免疫を抑制するお薬の一部などがあります。
これを踏まえると、お薬を服用中はフラノクマリン類が含まれている食品は避けておくのが、全てのお薬において無難だと私は思います。もちろん、お薬を服用するときはジュースではなくお水でお願いします。

どうしてもフラノクマリン類が含まれたものを食べたい場合は、主治医や薬剤師に相談してみてください。
また、私は薬剤師の立場としてお薬を安全に服用して頂くために、たとえ食品であろうとあなどるなかれと、患者さんに伝えていきたいと思っています。