■タンパク質を摂ろう!~薬剤師にとっても栄養の知識は大事です~
日本が超高齢化社会となった現在、医療関係者が栄養状態の悪くなった高齢患者さんと接することはもはや日常茶飯事です。食事については栄養士さんのお仕事ですが、わたしたち薬剤師も普通の食事を摂るのが難しくなった患者さんに点滴や栄養剤を調剤する、という形で栄養に関わっています。その際、患者さん個々の状態に適した栄養補充ができているのかを確認する必要があります。
栄養と一口にいっても色々ありますが、今シリーズでは高齢者のフレイル(虚弱状態)防止に特に重要なタンパク質・およびアミノ酸の話を2回にわたってお話したいと思います。
今回は『タンパク質とはどんなものなのか』『どのぐらいの量を摂取すべきなのか』という内容です。
■タンパク質とアミノ酸~ひとのからだをつくる栄養素~
人間の身体はタンパク質で出来ていると言っても過言ではありません。筋肉や臓器だけでなく、骨を構成するコラーゲン、血中やリンパ液中の酵素、抗体、ホルモンなどもタンパク質から出来ています。
タンパク質を構成するアミノ酸は20種類あります。体内で合成できないため食事として摂取する必要のある必須アミノ酸9種類と、体内合成ができる非必須アミノ酸11種類に分類されます。非必須アミノ酸の中には、年齢や病態によって体内合成が必要量に追い付かず補給が必要になるものがあり、条件付き必須アミノ酸とも呼ばれています。(表1)
他にも構造により、側鎖に枝分かれ構造を持つ分岐鎖アミノ酸BCAA(Branched Chain Amino Acid)、側鎖にベンゼン環構造を持つ芳香族アミノ酸AAA(Aromatic Amino Acid)というように分類されます。2つのアミノ酸がα-カルボキシル基とα-アミノ基との間で脱水結合(ペプチド結合)したものをジペプチド、いくつも結合したものをポリペプチドといいます。ペプチド結合を繰り返し、巨大分子になったものをタンパク質と呼んでいます。
表1 タンパク質を構成する20種類のアミノ酸一覧
☆付きは条件付き必須アミノ酸
BCAA:Branched Chain Amino Acid AAA:Aromatic Amino Acid
■タンパク質の必要量は?~年齢・性別別分類と窒素バランス~
まずは厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2020年版)を確認してみましょう。1歳以上の全ての年齢区分に対して、男女ともにタンパク質の維持必要量(平均値)は1日体重1kgあたり0.66gと定めています。必要量(推定平均必要量)は維持必要量+新生組織蓄積量で表され、また推奨量は推定平均必要量に推奨量算定係数1.25を乗じた値となります。75歳以上の場合、おおよそ推奨量を男性60g/日、女性50g/日とし、目標量は男女ともに15~20%(※全摂取エネルギーにおけるタンパク質の割合)となっています。(表2参照)
また、日本版重症患者の栄養療法ガイドラインでは、至適タンパク投与量は不明であるとした上で、重症患者さんには1日体重1kgあたり1.0~1.2gのタンパク質投与を提案していますが、エネルギー投与量の少ない急性期ではこれよりも少ない量となることは否めない、としています。
表2 タンパク質の食事摂取基準(推定平均必要量、推奨量、目安量:g/日、目標量:%エネルギー)
※1:範囲に関しては、おおむねの値を示したものであり、弾力的に運用すること。
※2:65 歳以上の高齢者について、フレイル予防を目的とした量を定めることは難しいが、身長・体重が参照体位に比べて小さい者や、特に 75 歳以上であって加齢に伴い身体活動量が大きく低下した者など、必要エネルギー摂取量が低い者では、下限が推奨量を下回る場合があり得る。この場合でも、下限は推奨量以上とすることが望ましい。
※3:妊婦(初期・中期)の目標量は、13〜20% エネルギーとした。
※4:妊婦(後期)及び授乳婦の目標量は、15〜20% エネルギーとした。
(日本人の食事摂取基準2020より引用改変)
おおざっぱな目安としては以上ですが、実際その個人にどれほどのタンパク質が必要なのかは基礎疾患、体型、栄養状態などに左右されるため、患者さん個人の状況に合わせて設定します。
タンパク質の量が適切かをリアルタイムで見るのに最も適しているのは窒素バランスです。
臨床的に『窒素バランス(g)=タンパク質摂取量(g)/6.25-(尿中尿素窒素排泄量[g/日]×5/4)』で表されます。タンパク質の約16%が窒素のため摂取タンパク質の量に0.16を乗算、すなわち6.25で除算した値が摂取した窒素量になります。成長期の子供や妊婦などは大量のタンパク質を合成するため窒素バランスが正の値となり、栄養不良状態や、侵襲(外傷、病原微生物による感染症や、外科手術など生体を障害し生体恒常性を阻害する可能性のある刺激)のある状態だとタンパク質がエネルギーとして分解され、負の値となります。栄養状態改善を目標にしているときは、大体窒素バランス1~3gを目指して調整します。
■NPC/N比~栄養バランスが大事!~
アミノ酸は糖質・脂質が不足しているときにはエネルギーとして消費され、体内でのタンパク合成に利用されないため、タンパク質を摂取するときは糖質・脂質とのバランスを考える必要があります。
タンパク質の合成を効率良く進めるための指標として有名なのがNPC/N比という概念です。NPCは非タンパク熱量(Non Protein Calorie)といい、糖質・脂質に由来する熱量を示します。Nは窒素(Nitrogen)を示します。通常は窒素1gに対し非タンパクエネルギー150kcal 程度が適正とされており、NPC/N比を150~200程度に設定します。
重症感染症や火傷、外傷などの侵襲がある場合、筋肉中のタンパク質が分解され、アミノ酸を遊離してエネルギーや生命維持に必要なタンパク質の合成に使用されます。このようなタンパク合成を積極的に進める必要がある場合にはアミノ酸を多めに摂取します。つまりNPC/N比を低めに設定します。逆に、腎機能が悪い患者さんなどはNPC/N比を高めに設定する場合もあります。(図1参照)
JSPENテキストブックでは褥瘡患者さんのNPC/N比に関して文章での言及がありませんが、図1の元図によると80から150の間を目安にしています。褥瘡ガイドブックには「創傷治癒遅延時NPC/N比80~100」を目安にすると記載があります。もっとも、腎機能が低下している褥瘡患者さんも多いため、個々によって調整が必要です。
図1 NPC/N比の目安
(日本臨床栄養学会JSPENテキストブックより引用改変)
■まとめ
タンパク質は人間にとって必要な栄養素のひとつです。厚生労働省はタンパク質の食事摂取基準を発表しており、タンパク量が適切かを個人ごとに確認する『窒素バランス』、糖質・脂質とのバランスが適切かを見る『NPC/N比』という指標もあります。実際は妊娠の有無、病気や外傷などにより適切なタンパク質の量は異なってきます。
次回は薬剤師の視点からタンパク質の栄養剤や点滴、および病態ごとの必要なタンパク量についてお話する予定です。
参考文献
褥瘡ガイドブック 第2版
日本人の食事摂取基準 2020年版
日本臨床栄養代謝学会 JSPENテキストブック