薬剤師のためのタンパク質シリーズその②~使い方によって逆効果?病態に応じて考えよう、タンパク質・アミノ酸製剤~

薬剤科

今回は『薬剤師のためのタンパク質シリーズ①タンパク質とは何?どのくらい摂ればよいの?』2021.11 UP の続きになります。前回は年齢別のタンパク質の摂取基準やNPC/N比などについてのお話をしました。
今回はタンパク質の製剤を紹介したいと思います。病態ごとの適切なタンパク質投与方法について詳しく見ていきましょう。

■タンパク質・アミノ酸製剤~薬としてのお話~

通常の栄養摂取が困難な患者さんに対して栄養剤や点滴を利用した経腸栄養・経静脈栄養といった方法があります。
この経腸栄養・経静脈栄養については過去の記事(栄養科『経腸栄養をはじめるときに家族に伝えたい~チューブから何をいれるか!~』2016.3.7UP、薬剤科『経静脈栄養法について』2016.3.14UP)でも触れられておりますのでそちらもご参照ください。

経腸栄養剤には食品扱いのものと医薬品扱いのものがありますが、医薬品扱いのものについてのみ述べます。エンシュア®リキッド、エンシュア®H、ラコール®配合NFの中には大豆タンパク質が含まれています。また、タンパク質でなく種々のアミノ酸成分を配合している成分栄養剤として、エレンタール®があります。人間は体内でタンパク質を分解してアミノ酸にしますが、エレンタール®は最初からアミノ酸なので、手術後や腸の安静をはかりたいときなど、体の負担を軽くしたい場合に使われます。また、病態別の栄養剤としては肝不全用のアミノ酸製剤アミノレバン®EN配合散があります。

栄養剤以外のアミノ酸製剤として、BCAA(分岐鎖アミノ酸)である3種のアミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)を配合した内服薬リーバクト®配合顆粒があります。非代償性肝硬変患者さん(肝機能悪化により腹水や黄疸・肝性脳症や浮腫などの自覚症状がある患者さん)の低アルブミン血症に適応があります。

経口での十分なタンパク質摂取が困難な患者さんに対しては、アミノ酸輸液を投与します。中心静脈栄養に用いる高カロリー輸液として、アミノ酸に糖質・総合ビタミンを配合したフルカリック®、微量元素も追加されたエルネオパ®NFなどがあります。アミノ酸単独輸液としては、肝不全用のアミノレバン®、腎不全用のネオアミユー®があります。末梢静脈輸液としては、アミノ酸と糖・電解質・ビタミンB1を配合したビーフリード®があります。他にも新生児~3歳児向けの小児用アミノ酸輸液も存在しますが、小児科のない当院では採用しておりません。

■腎不全患者さんとタンパク質~急性期と慢性期では対応が違います~

急性腎障害(AKI)の患者さんでは、筋肉中のタンパク質の分解亢進、インスリン抵抗性の増大、炎症、基礎疾患や合併症、血液透析などの腎代替療法などが要因となり、栄養障害が起こりやすくなります。

日本版重症患者の栄養療法ガイドラインでは、AKIに対して、「腎代替療法を避けるまたは開始を遅らせる手段として、タンパク投与量を制限してはならない(推奨の強さ「2」 エビデンスC)」「著しい電解質異常を伴う場合は腎不全用の特殊栄養剤を使うことを弱く推奨する(推奨の強さ「2」エビデンスD)」とされています。(推奨度とエビデンスレベルについては下表参照)

日本版重症患者の栄養療法ガイドラインより
(※Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014を参考に作成されたもの)

つまり、電解質異常がなければ厳しいタンパク制限は行わないということです。
慢性腎臓病(CKD)は腎代替療法を必要とする前(保存期)と、その後(透析期)では対応が分かれます。

保存期においてはタンパク質制限が有効とされ、NPC/N比を高めに設定します。文献によって細かな数字に違いはありますが350~500程度にすることが多いようです。当院採用のネオアミユー®は保存期によく使われるアミノ酸輸液で、必須アミノ酸を多めに配合しています。単独で投与することはあまりなく、多くの場合は腎不全用高カロリー輸液ハイカリック®RFと組み合わせて使います。

かつて腎不全には、必須アミノ製剤のみを配合したアミユー®という輸液が使われていましたが、この輸液は尿素サイクルに関与するアルギニンを含んでいませんでした。アルギニンは腎不全状態だと体内で十分な量が合成されない条件付き必須アミノ酸です。アルギニンが欠乏すると、尿素サイクルが機能せず高アンモニア血症が起こり、アンモニアが肝性脳症による意識障害を引き起こしてしまいます。

以上の問題点により、アミユー®は発売中止となりました。アミユーを改良し、腎不全用の総合アミノ酸輸液として開発されたものがネオアミユー®です。ネオは「新しい」という意味の接頭語です。

透析患者さんの場合は透析によりアミノ酸が喪失するため、その分を勘案したタンパク投与が必要になります。腎不全用輸液はかならずしも有効ではなく、食事摂取できる場合は、必須アミノ酸をバランスよく含む良質なタンパク質(肉・卵・魚など)を摂取するのが良いとされています。

■肝不全患者さんとタンパク質~BCAAを投与したから肝性脳症を改善する、とは限らない~

重症患者の栄養療法ガイドラインでは、慢性肝障害(肝硬変など慢性肝疾患の重症病態)の患者さんの場合、肝性脳症のリスク軽減のためという目的でタンパク制限をすべきでなく、一般的な重症患者さんと同程度のタンパク質量に設定すべきであるとされています。

肝不全用アミノ酸製剤はBCAAが多めに配合されています。BCAAは血液脳関門において、偽性神経伝達物質の前駆体となるAAAと競合して、肝性脳症の発生を防止するとされています。

肝硬変診療ガイドライン2020では、肝硬変の患者さんに対して、必要に応じてBCAAを投与することを推奨しています。一方、日本版重症患者の栄養療法ガイドラインでは、肝疾患を伴う重症患者さんにおいてBCAAが予後を改善するというエビデンスはないことから、一般的な治療抵抗性の肝性脳症の患者さんに限り投与することを弱く推奨する(推奨の強さ「2」 エビデンスC)、としています。

急性肝不全(劇症肝炎や肝移植待機中などの重症病態)の患者さんは慢性とは対応が異なるため注意が必要です。肝細胞壊死により尿素サイクルが機能していない急性肝不全患者さんに肝不全用アミノ酸製剤を投与すると、高アンモニア血症を惹起し、肝性脳症を逆に悪化させる恐れがあります。急性肝不全では肝不全用も含め、原則アミノ酸製剤の投与は推奨されていません。(※ただし、肝移植を行う前のBCAA投与が術後の感染症や敗血症を抑制する可能性についても示唆されており、今後の研究によっては急性期でもBCAA投与が相応しい状況などが判明するかもしれません。)現時点では、急性肝不全に対し有効性が示された栄養療法はありません。
※BCAA、AAAについては、『薬剤師のためのタンパク質シリーズ① タンパク質とは何?どのくらい摂れば良いの?』2021.11 UPに詳しい説明があります。参考にして下さい。

■外傷・褥瘡患者さんのタンパク強化療法の有効性について~まだまだエビデンス蓄積中~

創傷の治癒過程においては免疫機能の改善や成長ホルモン分泌促進、タンパク質合成促進、コラーゲン合成促進が重要視されます。
条件付き必須アミノ酸のグルタミンはタンパク質・コラーゲンの合成促進、免疫機能改善、腸管粘膜の維持などに関わっています。熱傷や外傷がある患者さんに対しては、グルタミンを強化した栄養投与が死亡率低下、感染性合併症発生率の低下、在院日数の低下の面から推奨されています。ただし、多臓器不全やショックを呈する患者さんに対しては死亡率が有意に上昇するため、グルタミン強化はすべきでないとされています。

アルギニンは免疫機能改善やタンパク質・コラーゲン合成促進、創傷治癒促進作用がありますが、高度の敗血症患者さんでは一酸化窒素産出が高まり、炎症の助長・予後の悪化をまねく恐れもあります。日本版重症患者の栄養療法ガイドラインでは重症患者さんへのアルギニン強化は推奨していません。

褥瘡ガイドブックでは低栄養の患者さんの褥瘡予防のために、疾患を考慮した上で高エネルギー、高タンパク質のサプリなどを投与することを勧めており、(推奨度B)(褥瘡ガイドブックにおける推奨度は下表参照)褥瘡発生リスクのある患者さんに対し、タンパク質をおおむね体重1kg当たり1日1.0~1.2g程度、腎疾患・肝不全などがある場合0.6~0.8gから投与して調整していくように推奨しています。

実際は、褥瘡患者さんは高齢者が多く、肝臓や腎臓の機能が低下している場合も多いことから、個々の病態や検査値を見ながら調整していく必要があります。褥瘡治癒過程においては、前述のアルギニンやグルタミンの他に、βアラニンとヒスチジンから成るジペプチドのL-カルノシン、L-アルギニンから生合成される遊離アミノ酸のオルニチン(※アミノ酸ですが、タンパク質の構成成分ではないため、前述の『タンパク質を構成する20種のアミノ酸』には含まれません)なども、疾患を考慮した上で投与を検討して良いとされます。(推奨度C1)

※根拠とは、臨床試験や疫学研究による知見を指す
褥瘡ガイドブック第2版より引用(褥瘡管理・予防ガイドライン第4版に準拠)

■まとめ~絶対安心な基準はない、年齢・腎機能・肝機能・褥瘡について確認することが大事~

タンパク質は人が生きていく上でとても重要な栄養素ですが、病態や年齢によって必要な量はかなり変化し、大量に必要な時もあれば、制限が必要な状況もあります。適正な摂取量についてまだまだエビデンスを蓄積している段階でもあります。
特にBCAAについては2009年からランダム化比較試験およびメタ解析がなく、推奨しているガイドラインもあれば推奨しないガイドラインもあります。

薬剤師も、栄養輸液などを調剤する際、患者さんの状態に相応しい医薬品が使われているか、古い知識に頼らず、最新エビデンスもアップデートした上で個々の症例ごとに適切な栄養輸液を考えていく必要があります。

参考文献
栄養管理テクニック1 静脈栄養
肝硬変診療ガイドライン2020 改訂第3版
褥瘡ガイドブック 第2版
日本版重症患者の栄養療法ガイドライン
輸液・栄養の第一歩 第3版
臨床栄養全史

メニュー