ツイミーグ®ってどんな薬?〜分泌低下も抵抗性増大にも効く二刀流の新しい糖尿病治療薬〜

糖尿病とは ~インスリン分泌能とインスリン抵抗性が関係 今や国民病~

糖尿病は、インスリンの分泌が少なかったり無かったり、十分に働いていない(インスリン抵抗性)ために、血管内を流れるブドウ糖の量が多くなり過ぎてしまう病気のことを言います。インスリンが分泌される細胞が破壊されインスリン分泌不全となり発症するケースを「1型糖尿病」、過食や運動不足などの悪い生活習慣が続くことで、インスリン分泌能低下とインスリン抵抗性増大が合わさってインスリン作用不足となり発症するケースを「2型糖尿病」と呼びます。厚生労働省の令和1年(2019)「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病が強く疑われる人の割合は、20歳以上では男性で19.7%、女性で10.8%と言われており、今や国民病です。

血糖値を上げるシステムと下げるシステム ~血糖値を上げるシステムは複数存在~

我々の体の中では、表1に示すいくつかのホルモン等により血糖値が一定に保たれています。

表1、血糖値調節に関わる主な生体内物質

血糖値を上げるものといえば、「グルカゴン」が有名ですが、グルカゴン以外にも血糖値を上げる生体内物質は複数存在します。しかし、血糖値を下げる生体内物質は「インスリン」しかありません。

血糖値を上げるシステムが複数存在する理由 ~現代人も縄文人の名残が~

時は縄文時代まで遡ります。縄文時代は狩猟生活で、次にいつ食料が手に入るかわからず、食べる回数も不安定でした。ですから、危機に遭遇した際に餓死を逃れ生き延びるために、人間の体は「血糖値を下げ過ぎないように」とプログラミングされていたのです。縄文時代からかなり時が経って飽食状態となった現代においてもその名残が残っているため、血糖値を上げるシステムが複数存在するのです。

アドレナリン、ノルアドレナリンについては、2022.9.12公開の記事「昇圧薬~Emergency drugsのカテコラミン製剤! 理解してないと焦る編~」もご覧ください。
では、唯一の血糖値を下げるホルモンであるインスリンのことについて少しだけお話しします。

インスリンの作用 ~ブドウ糖をエネルギーとして使用するためにはインスリンが必要~

いわゆる炭水化物(お米やパン、麺類などの複合糖質)は体内でブドウ糖に変換されて吸収されます。吸収されたブドウ糖は血管の中をプカプカと浮いた状態で体内のあちこちを巡ります。この血管内のブドウ糖の量を表したのが血糖値です。血管内のブドウ糖は、インスリンの力を借りて細胞(筋肉)の中に取り込まれ、身体(筋肉)を動かすためのエネルギーとして使われます。その結果、血管内のブドウ糖の量が少なくなり血糖値が下がるのです。(図1)

図1、インスリンの作用

血糖降下薬の分類 〜大きく分けると3つ〜

高くなった血糖値を下げる作用のあるお薬にはいくつか種類があります。
大きく分けると、1)インスリン分泌に関与せず血糖値を下げる薬、2)インスリン分泌を促して血糖値を下げる薬、3)インスリン製剤の3つに分けることができます。さらに1)は、1)-① 食事から摂取した炭水化物の吸収を遅延させる薬(α-グルコシダーゼ阻害薬)、1)-② 余分な糖を尿中に排泄する薬(SGLT2阻害薬)、1)-③ インスリン抵抗性を改善する薬(チアゾリジン薬、ビグアナイド薬)に、2)は2)-① 血糖依存性(イメグリミン、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)、2)-② 血糖非依存性(スルホニル尿素薬、グリニド薬)に分けることができます。(表2)

表2、血糖降下薬の分類

糖尿病治療ガイド2022-2023より作成

SGLT2阻害薬については、2017.11.18公開の記事「糖尿病の新しい治療薬『SGLT2阻害薬』に期待!」もご覧ください。

前置きはさておき、本題に入りましょう。
2021年9月に、大日本住友製薬から世界初の作用機序の2型糖尿病治療薬「ツイミーグ®錠(一般名:イメグリミン塩酸塩)」が発売になりました。現在では長期処方も解禁となっているお薬です。
今回は、このツイミーグ®錠についてのお話です。

ツイミーグ®の名前の由来 ~「TWIN」+「IMEGULIMIN」=「TWIMEEG」~

ツイミーグ®は、Dualを意味する「TWIN」と、一般名の「IMEGULIMIN」から命名されたそうです。
何のことだかよくわかりませんね。それではもう少しツイミーグ®について説明していきます。

ツイミーグ®の作用 〜ミトコンドリアに作用し「膵作用」と「膵外作用」を示す〜

ツイミーグ®は、ミトコンドリアの作用を介して、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促す「膵作用」と肝臓、骨格筋での糖代謝を改善してインスリン抵抗性を改善する「膵外作用」という異なった2つの作用にて血糖降下作用を示します。ミトコンドリアに作用するという点ではメトホルミンと似ています。構造もメトホルミンにそっくりです。

では、具体的にメトホルミンとどこが違うのでしょうか?
それを説明する前に、少し難しいですが、ミトコンドリアについてのお話を少しだけ。

ミトコンドリアって何? ~細胞内活動に必須のエネルギーを産生~

ミトコンドリアは、肝臓、腎臓、筋肉、脳など代謝の活発な細胞内に存在しており、細胞質の約40%を占めています。1つの細胞の中には300〜400個存在しており、体重の約10%を占めているとも言われています。また、細胞内で網状のネットワークを形成し、分裂・融合を繰り返し、ATP(アデノシン三リン酸)という細胞内活動に必須のエネルギーを産生するという重要な役割を担っています。それ以外にも、細胞内のカルシウムイオン濃度の調整や、脂質の酸化、免疫反応にも関係しており、人間が生きていく上で不可欠な細胞内小器官と言えるでしょう。

ツイミーグ®とメトホルミンとの違いは? ~似て非なる薬剤~

そんなミトコンドリア内の電子伝達系(ATP産生システムのうちの一つ)に関わる呼吸鎖複合体には1、2、3の3種類が存在します。メトホルミンは、その中の1のみに働き、膵外作用を示すのに対して、ツイミーグ®は、複合体1への作用に加え、複合体3への作用も併せ持っており、その作用で膵作用も示すのです。ツイミーグ®には、呼吸鎖複合体への作用以外に、膵臓内のNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)というATPを作るために必須の補酵素を増加させる作用もあり、これも膵作用に関係しています。つまりメトホルミンは、膵外作用しか示しませんが、ツイミーグ®は膵作用と膵外作用を併せ持っているということです。

その他にも違いがあります。
複合体1に作用した際には乳酸が生成されます。この乳酸の代謝にはミトコンドリア内膜上のmGPDH(ミトコンドリアグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)という酵素が関わっているのですが、メトホルミンはこの酵素の働きを阻害する作用があり、乳酸が蓄積されやすいため、乳酸アシドーシスを引き起こす可能性があります。一方ツイミーグ®は、この酵素の働きを阻害しないため、乳酸アシドーシスが比較的起こりにくいと考えられています。
しかし、胃腸障害に関しては、メトホルミン同様、ツイミーグ®でも起こることがあります。

ツイミーグ®の臨床試験 ~相性が良いのはDPP-4阻害薬、相性が悪いのはGLP-1受容体作動薬~

国内第3相試験(TIMES 1試験;単独療法試験)の結果によると、投与24週時点でのHbA1cの変化量は-0.72%、空腹時血糖値の変化量は-5.65mg/dLでした。また、すでに12週間他剤を投与し血糖コントロールが不十分であった患者に追加投与した国内第3相試験(TIMES 2試験;併用療法試験)によれば、併用後52週時点で一番効果が認められたのは、DPP-4阻害薬との併用のケースでした。一方、併用の効果があまり認められなかったのはGLP-1受容体作動薬との併用のケースでした。(図2、図3)

図2、TIMES 2試験(併用療法試験)でのHbA1cのベースラインからの変化量

ツイミーグ®錠総合製品情報概要より作成

図3、TIMES 2試験(併用療法試験)での空腹時血糖値のベースラインからの変化量

ツイミーグ®錠総合製品情報概要より作成

ツイミーグ®の今後に期待 ~インスリン分泌促進作用とインスリン抵抗性改善作用を併せ持つ唯一の薬剤~

2型糖尿病の病態には「インスリン分泌能の低下」と「インスリン抵抗性の増大」が関係していますが、従来使用されている経口血糖降下薬には、この2つの病態を同時に改善できるものはなく、薬物療法を単剤から始めても、追加の薬剤が必要となるケースがあります。ツイミーグ®は、単剤で「その両方の作用機序から血糖を降下させる」という点で優れた薬剤と言えるでしょう。そういう意味では、ポリファーマシー(多剤服用による副作用)の観点からも期待できる薬剤です。またメトホルミンの進化系と考えれば、将来、第一選択薬になる可能性も十分考えられます。

発売されて間が無いお薬ですし、まだまだ不明な点も多いようですが、今後が期待されるお薬のうちの一つですね。