2018年に「若手薬剤師のための新薬情報(アトピー性皮膚炎治療薬として初の生物学的製剤が登場!!)」というタイトルでデュピクセント®皮下注を紹介しましたが、それ以降もアトピー性皮膚炎の新薬が続々と発売になり、治療の選択肢が広がってきています。今回は、新薬の紹介とともにアトピー性皮膚炎の原因や治療法などについてお話ししたいと思います。
アトピー性皮膚炎とは ~まずは基本的な内容から~
アトピー性皮膚炎は、痒みがある湿疹が、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の皮膚疾患です。アトピー素因※がある人や、皮膚のバリア機能が弱い人に多く見られます。子どもに多くみられる疾患ですが、成人しても症状が続くケースも増えています。
※アトピー素因:アレルギーを起こしやすい体質のこと。家族または本人が喘息、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などのアレルギー疾患にかかったことがあればアトピー素因をもっているといえます。
皮膚炎がどうして起こるのか ~バリア機能の低下とアトピー素因が原因~
皮膚の表面に存在する角層は、角質細胞とその間を埋める角質細胞間脂質から構成され、外からの異物の侵入や水分の蒸発を防ぐバリア機能を持っています。角質細胞間脂質はセラミド、コレステロール、遊離脂肪酸が主成分ですが、アトピー性皮膚炎ではセラミドが少なく水分を保持する能力が低下して、バリア機能が損なわれた状態になっています。異物が皮膚へ侵入しやすく、アトピー素因がある場合は免疫が過剰に反応してしまい、皮膚で炎症がおこります。
皮膚炎の原因となる物質はダニ、ほこり、花粉などのハウスダストや化学物質、汗、皮脂の汚れなどさまざまです。また、ストレスや疲労、環境の変化などにより症状が増悪するのもアトピー性皮膚炎の特徴の一つです。
薬物療法その1 ~従来の治療法~
治療は症状が治まるか、あっても軽度で日常生活に支障がない状態を維持することが目標です。基本となるのは①薬物療法、②保湿剤などによるスキンケア、③悪化因子の検索と対策、の3つですがここでは薬物療法について記載します。
・ステロイド外用薬
炎症を抑える働きがあり、古くからアトピー性皮膚炎の第一選択薬として使用されています。副作用への不安をお持ちの方もいらっしゃいますが、適切に使用すればそれほど心配する必要はありません。それよりも、アトピー性皮膚炎が正しく治療されず、痒みやそれに伴う不眠などで生活の質が低下する方が問題です。使用方法や副作用を正しく理解して、きちんと治療することが大事です。
ステロイド外用薬は強さに応じて5つのランクに分けられ(表1)、重症度に応じて使い分けます。注意点は、吸収率が体の部位によって異なることです(表2)。吸収率が高い部位には弱めの薬を使い、長期連用しないことが大切です。顔には原則ミディアム以下が使用されます。
副作用は、塗布部位の皮膚が薄くなる、皮膚が赤くなる、毛細血管が目立つ、ざ瘡、多毛、かぶれ、皮膚感染症などがあります。副作用を予防するには、症状や部位にあったランクの外用剤を使用すること、長期連用しないことが大切です。
表1 主なステロイド外用剤のランク
表2 ステロイドの部位別経皮吸収率(腕内側を1とした場合)
・プロトピック®軟膏(当院非採用)
ステロイドとは異なる機序で炎症を抑える薬で、ステロイド外用薬の副作用が現れやすい顔や首に使用されることが多いです。塗布後に一時的にほてりやヒリヒリ感、痒みが出ることがありますが、皮膚の症状が良くなるにつれ治まります。びらんや潰瘍部がある場合は、先にステロイド外用薬などで治療しプロトピック®軟膏に切り替えます。
・抗ヒスタミン内服薬
掻痒感を抑える薬です。当院ではアレグラ®錠、ザイザル®錠、エピナスチン錠などが採用です。
薬物療法その2 ~新しい治療薬~
これまでに挙げたステロイド外用薬、プロトピック®軟膏、抗ヒスタミン内服薬がアトピー性皮膚炎の基本的な薬物療法です。次はこれらの薬では改善が見られない場合などに使用できる薬をご紹介します。
・ネオーラル®カプセル
過剰な免疫を抑える効果がある内服薬で、臓器移植における拒絶反応の抑制、乾癬、ネフローゼ症候群、全身型重症筋無力症など様々な疾患に対して使用されますが、2008年にアトピー性皮膚炎に対して適応が追加されました。外用剤などの既存治療で十分な効果が得られない重症の成人患者さんが対象で、小児には使用できません。
・デュピクセント®皮下注
炎症性サイトカインであるIL-4とIL-13の働きを阻害する注射薬で、2018年に発売されました。皮疹や掻痒感を改善する作用があり、既存治療で改善がみられない成人患者さんに使用します。効果が高く長期間持続すること、重大な副作用が少なく安全性も高いことから、症状が落ち着いた後も継続して使用することができます。2週間に1回の使用間隔ですが、自己注射が可能ですので、通院回数を減らすこともできます。主な副作用は結膜炎と注射部位反応です。
・コレクチム®軟膏(当院非採用)
アトピー性皮膚炎に対して2020年6月に承認された軟膏で、JAK阻害薬という種類のお薬です。炎症性サイトカインの活性化に関わる酵素、ヤヌスキナーゼ(JAK)を阻害し、免疫細胞や炎症細胞を抑制して皮膚の炎症や痒みを抑えます。「既存治療で効果不十分な場合」などの制限がなく、軽症から使用できるお薬です。小児にも使用が認められています。副作用は、皮膚感染症やざ瘡などです。
・オルミエント®錠
このお薬もJAK阻害薬ですが、もともとは関節リウマチに適応がある内服薬です。2020年12月にアトピー性皮膚炎に適応が追加されました。コレクチム®軟膏と同様皮膚の炎症や痒みを抑える効果がありますが、使用できるのは「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」の成人患者さんです。感染症の副作用に注意が必要です。
・リンヴォック®錠
このお薬も関節リウマチ治療薬として発売されたJAK阻害薬ですが、2021年8月に「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」に適応が追加承認されました。12歳以上かつ体重30㎏以上の小児にも使用可能です。
・サイバインコ®錠(当院非採用)
2021年12月に発売されたJAK阻害薬で、「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」に適応があります。12歳以上の小児から使用可能で、体重の制限もありません。
・モイゼルト®軟膏(当院非採用)
2022年6月に発売された、これまでのアトピー性皮膚炎治療薬とは異なる作用機序の塗り薬です。ホスホジエステラーゼと呼ばれる酵素を阻害して、炎症性サイトカインの産生を抑制する働きがあります。軽症から使用でき、小児にも適応があります。
・ミチーガ®皮下注
2022年8月に発売され、「アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)」に効果が認められている注射薬です。痒みを誘発するサイトカインIL-31の働きを阻害して痒みを抑えることで、「痒み→掻く→皮膚の炎症が増悪→さらに痒みが増強」という悪循環を断つことができます。13歳以上の患者さんに使用可能で、4週間に1回の間隔で皮下注射します。
最後に
当院には膠原病科があり、アレルギー疾患の治療も行っています。私はネオーラル®カプセルやデュピクセント®皮下注の使用例に関わりましたが、症状の改善がみられていました。既存治療で症状が改善していない方にも使用できる薬が増えてきており、私自身アトピー患者の一人として大変嬉しく思っています。
近い将来、また新しい作用機序の薬が発売されるかもしれません。日々変化するアトピー性皮膚炎治療薬の種類や効果や使用状況について、今後も調べていきたいと思います。