SGLT2阻害薬は心不全でも腎障害でも頼りになるマルチプレイヤー 〜糖尿病だけじゃない活躍の場が拡がってきました〜

SGLT2阻害薬とはナトリウム・グルコース共輸送体(Sodium-glucose cotransporter-2)という腎臓の近位尿細管でのブドウ糖の再吸収に関わるたんぱく質の働きを抑えることで、尿に余分な糖を排出することで血糖値を低下させる薬です。単独で投与する場合は低血糖を誘発するリスクが少ない糖尿病の治療薬として広く使用されています。

そんなSGLT2阻害薬に心不全を改善する心保護作用があるということが、近年、言われてきています。当院でも心不全の患者様に対し、SGLT2阻害薬を使用する機会が増えました。

患者様からもよく、「私、糖尿病じゃないけど、この薬は飲んでいいの?」など質問を受けるようになり、そんな時に上手に患者様に薬の効果を説明して安心していただけるようにと勉強しました。

■心不全〜心保護作用〜

2015年に発表されたEMPA-REG OUTCOME試験では、心筋梗塞や脳卒中の既往のある2型糖尿病患者に対して、既存の治療薬にSGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンを併用することにより総死亡を32%、心血管疾患による死亡を38%、および心不全による入院を35%、低下させることができたという報告でした。これらのリスク低減効果は種類により差はありますが、他のSGLT2阻害薬でも認められています。

心血管死予防のメカニズムに関してははっきりとはわかっていませんが、心筋のエネルギー効率を改善して、収縮力を改善する、炎症を抑えて、心筋の線維化を抑制する、微小循環を改善するなどさまざまな機序が提唱されています。

現在、心不全の治療薬として承認されているSGLT2阻害薬はエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス®)とダパグリフロジン(商品名:フォシーガ®)の2種類です。当院でも心不全に対し、SGLT2阻害薬を投与している患者様が増えています。

ループ利尿薬との併用で使用されることが多いのですが、ループ利尿薬の量を減らして、その代わりにSGLT2阻害薬を投与されているケースが増えています。例えば、私の担当していた患者様で87歳男性、心不全の胸水貯留にてアゾセミド60mgにて治療中でしたが、入院中にエンパグリフロジン10mgを追加し、結果的にアゾセミド30mgへ減量することができた患者様もいらっしゃいます。

それぞれのSGLT2阻害薬についてまとめてみました。(表1)

表1 SGLT2阻害薬の比較

参考)
HFrEF(heart failure with reduced ejection fraction):収縮機能が低下した心不全
HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction):収縮機能が保たれた心不全

私ごとですが、2023年2月に「SGLT2阻害薬投与した患者はループ利尿薬を減量できるのか」というテーマで日本薬剤師会近畿学術大会での発表を予定しています。薬剤師の方で、ご興味ある方はよろしかったら観にきてください。

■慢性腎臓病〜腎保護作用〜

最近では腎保護作用も報告されており、慢性腎臓病患者にも使用されています。糸球体内圧を低下させて、腎機能低下を抑制することが提唱されています。腎保護作用、心保護作用共に糖尿病の有無に関係なく効果を発揮します。

このようにSGLT2阻害薬は糖尿病以外の疾患の治療に対しても効果が期待できることがわかってきました。また、腎保護作用、心保護作用共に糖尿病の有無に関係なく効果を発揮します。

これからも様々な研究が行われると思いますが、最新情報にアンテナを張って、日々学び続けることで患者様により良い治療を還元していきたいと思います。